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身体の使い方も知らないで生きてた

知り合いの農家さんに稲わらをわけてもらった。畑にすき込んで肥料にしたり(地温が高い間にやらないと分解されない)、マルチ的な敷わらに使うのだ。

自分で稲作はしていないので、田んぼをやっていて、いつもふみぐら家がお米も買わせてもらっている農家さんから稲わらをもらうのである。

Sさんは田んぼも畑もやっていて、どちらも農薬・化学肥料を使っていない。いわゆる国の「持続農業法」(この法律もあまり知られてない)に基づいた土づくりと農作物の生産をしていて、県の認定を受けたエコファーマーの一人だ。

まあ、制度のことはともかくリアルに「顔が見える」農家さんの稲わらだから使いたいというのが強かったのだけれど。

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Sさんに案内してもらって、田んぼの中に軽トラを乗り入れる。いつもは通っても畦道なので、稲刈りが終わった田んぼに軽トラでそのままINするのは、なんだか新鮮だ。というか神聖な気持ち。だって、この土でいつもおいしくいただいているお米(ご飯)を育てているのだから。

「いるだけ持ってっていいよ」と言ってもらって有り難いのだけれど、うちは手続き上農家だけど、農が本業ではないのでさすがにそんなには持っていけない。

昔は、というかSさんが子供時代には稲わらも稲作農家の大事な副産物で、稲刈りをして脱穀したあとの稲わらも、家畜の飼料やわら製品の材料、土壁などの建築材料に使われて収入の一部になったのだという。

「今は、わらなんて需要ないからほとんどコンバインで刈ってわらもすき込んじゃうね。だけど、全部すき込んじゃうもんだからガスが出ちゃって、それじゃダメなんだ」

いくら自然の肥料だと言っても、その田んぼの土・微生物の状態はさまざまだ。うまく分解できないほどの量のわらがすき込まれてしまったら、当然それだけ分解時に発生するメタンガスの量も多くなる。温室効果ガス的な問題もあるし稲の生育にも影響する。

なので、稲わらを全部すき込むのがいいとも言えず、仕方なく焼却処分ということになるのだけれど、そうなると最近は「煙問題」もあるので、困った話なのだ。

という地球規模の問題から身近な問題まで背負った稲わらを、僅かとはいえ「もらってくれるなら助かるよ」といってもらえるのはありがたい。

たぶん、昔はお米のつくり手の数ももっと多くて、稲わら問題にしても生産者とできたお米を消費する人の数とバランスが取れていたんだろうけど、今は圧倒的に消費するだけの人のほうが多いので、お米をつくるはつくるけど、アンバランスな諸問題もついてまわるのである。

それはともかかく、稲わらといってもそのままでは作業のために持ち運ぶにも運搬するにもしづらい。そこで、わらをある程度の量にして束ねるのだけど、これが簡単そうで簡単ではなかった。

「こうやって、縛るためのヒモをつくるだ。ゴミがあるとしづらいから、漉いて。その上に、4束ずつ交互に乗せて16か20ぐらいで縄でくくって束ねる」

説明してもらったら、たしかにそのとおりですごく難しい作業ではないのだけれど、実際にやってみると、まず縛るためのヒモをわらでつくる時点でうまくいかない。親指と人差し指で輪をつくったぐらいの量のわら同士を結ぶのだけれど、結んでも切れてしまう。

「輪が大きすぎっからだ。小さくつくらねえと。小さく輪にしたら切れないよ」

Sさんにいちいち丁寧に教えてもらう。わらをひとまとめにして束ねるのも、20束ものわらは「これ、ほんとに束ねられるの?」と思うぐらいのボリュームになっている。なんとか結んだヒモ代わりのわらを回して束ねようとするのだけど、うまくいかない。

「体重全部乗せないとできないよ」

見かねたSさんが見本を見せてくれる。僕より明らかに小柄だけれどSさんの手にかかると、ふてぶてしい感じに存在感を醸し出していた20束もの稲わらが真空パックでもされたかのようにキュッとなってひとまとめになっていく。

そうなのだ。こうやるんだと頭で理解して手を動かそうとした時点で「手だけ」で作業をしようとしている。体重なんて乗っかってない。だから藁の圧に負ける。

やっぱり頭だけでやろうとしちゃダメですね。と自分に言い聞かせるように言うとSさんに「農家なんて身体全部使うのが当たり前だよ」とビシッと言われた。そのとおりすぎてぐうの音も出ない。

百のしごとができるから「お百姓さん」とも言われるけど、それだけじゃなく百の身体の使い方を知ってるという意味もあるんじゃないだろうか。ほんと、これまで自分の身体の使い方も知らないで生きてきたんだなとしみじみ思った2018年の秋。

(おまけ)干し柿するかい? と言われて、Sさんの奥さんに柿も収穫させてもらいました。この辺りでは少ない立派な「ひらたね柿」の木。成り年で豊作。なんだけど、この木のある土地が宅地になるので(増税前の駆け込み!)伐採されるのだとか。若干、複雑……。