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熊にバター(行き場のない掌編集)

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日常と異世界。哀しみとおかしみ。行き場のないことばたちのために。
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#これからのライター

吊り革での実況はおやめください

吊り革での実況はおやめください

きょうも階段から転がり落ちる

駅員が全員うつむいてる

線路で釣りをしてる電車が来ない

赤色灯を光らせたおじさんがひとり

シベリアから飛んできたスカーフに付いた血

セブンの店員さんがみんな青い

口先だけの鳩のこと信じてる

下水から大音響のYOASOBI

クラクションが鳴り止まない町を出る

いま片付けますからと言ったタクシー運転手

鳩のための入試問題

鳩のための入試問題


『公園内のハトはご自分でお持ち帰りください。』

公園を出ようとして、見慣れない看板が立っているのに気づいた。
僕が看板の文字を何度か反芻していると、思わず鳩と目が合う。

「持って帰られちゃうんですか僕?」

鳩が言う。

そうだね困ったね。僕は答える。僕も鳩を持ち帰ったってしかたない。そもそも僕の鳩じゃない。

何か言おうとした僕を、鳩が咽を鳴らしながら遮る。

「そんなことより、これ手伝

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春風と曲線

春風と曲線

この世界は少しだけ曲線を描いていて
いつも君が少しだけカーブの先にいる。

君は春風を髪に受けながらスカートを翻して歩いてく。

自転車の二人組が追い越しても、おばあさんを散歩させた犬が立ち止って
見つめても、宅配の水を載せたワゴンから虹色の水が噴水のように
降り注いでも君は歩く。

パラパラまんがの街を君は歩いてく。ページをめくる気まぐれ。
勢いよく飛ばされそうな日々。

僕はそんな君のあとをず

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ミドリさんの三日月(再放送)

ミドリさんの三日月(再放送)

ご主人の様子が朝から変だった。いつもなら着替えて出勤前の散歩に連れ出してくれる時間なのにスウェット姿のままだ。

真面目に顔を近づけて「今日だけでいい、代わってくれ」と頼まれた。

その代り、ご主人が犬として家で留守番をすることになった。

もしかしたら、ウチの近所のボス犬から無茶な頼みがあるかも、と言うとご主人は、そんなのいいんだよと気にする素振りもない。

ご主人が犬小屋に入ったのを見届けて、

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