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熊にバター(行き場のない掌編集)

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日常と異世界。哀しみとおかしみ。行き場のないことばたちのために。
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2019年11月の記事一覧

トモナガさんのお仕事

トモナガさんのお仕事

トモナガさんの仕事場は山手線の中だった。

といっても、スリや痴漢などではない。そういうのは、もちろん犯罪であって仕事とは呼べない。

じゃあ電車の運転士? それとも鉄道警察隊か何か? どれもちがう。ほとんどの人は、彼の仕事をしらない。

その日も、トモナガさんは五反田駅のホームにいた。

彼は、とある社章を胸に着けた男をマークして、 男が8両目の4番ドア付近に乗ったのを確かめると自分も隣のドアか

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指の音

指の音

階段を上がって真紀の部屋に着いてピンポンを押したら、知らない男の人が出てきてびっくりした。

部屋を間違えた? でも見覚えのある真紀の傘がドアの横に立て掛けてあるし。わたしが言葉を探していると、

「あ、友達だからいいの。ゴメンいま手が離せなくて。奈緒でしょ? 上がって」
と、奥のベランダのほうから真紀の声がするので、友達だからいいというのはわたしのことなのか、男のことなのかどっちだろうと思いなが

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