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「祈り」

 気がついたら、北京冬季オリンピックが始まって、終わっていた。
 もともと日本ほどオリンピックの盛り上がらないイタリアで、それでも昨夏のオリンピックは何しろ男子100メートル金メダルなどで沸いたけれど、今回は・・・どうだったのだろう?
 なにしろイタリアでは、1月末にまずは7年に一度の大統領選があった。これは国会議員や州の代表による直接記名投票なのだが、被選挙者はイタリア人であれば誰の名前を書いてもよく、かつ全体の3分の2を超える票を得るまで何度も投票が繰り返されるというエンドレス投票で(4回以降は過半数)、過去には20回以上も投票のあったこともあるらしい。選挙前には現職のマッタレッラ大統領が再任を拒否していたこと、ドラギ首相が大統領の座を狙っているというのがもっぱらの噂だったこと(、その場合は当然、次期首相をどうするか念頭におく必要がある)、などなどのことから、初回は白票が3分の2を超えるという大混乱の幕開けとなった。いつ終わるとも知れぬ選挙が、結局はマッタレッラ大統領の根負け再選でようやく幕を閉じたと思いきや、まるで図ったかのようにその翌日から、イタリアの紅白歌合戦とレコード大賞を合わせたような「サンレモ音楽祭」が始まり、テレビの特番は全切替に大忙し。もちろん新聞もそれに準じていた。
 スポーツで言えば、サッカーのシーズン真っ盛りで、リーグ戦に加え、チャンピオンズ・リーグもヨーロッパ・リーグもある。冬季スポーツは、もともと一部のコアなファンのみということもあり、オリンピックに割けられる関心は当然のように、随分と限られていた。
 私の場合も競技そのものは、中継も録画も全く見ていない。ニュースで結果を知ったくらいで、気がついたら終わっていた。

 その冬季オリンピック、次回はなんとイタリア、ミラノーコルティナの二都市開催となる。閉会式でイタリア国歌を斉唱したのは、モロッコ人の父とイタリア人の母を持つ、ミラノ出身のマリカ・アヤン。そして、コルティナのあるヴェネト州カステルフランコ・ヴェネト出身の音大生、ジョヴァンニ・アンドレア・ザノンが、ヴァイオリンを奏でたのだが、このヴァイオリンがすごかった。ストラディヴァリウスに並んで称されるグアルネーリの手によるもので、普段は、クレモナの博物館に所蔵されている。金額にして、500万ユーロ以上するものらしい。なんか妙なところで突然スイッチ入るのが、イタリアらしいというのか、なんというのか。
 ザノンによると、ストラディヴァリウスは楽器自身の押しが強く、奏者はその個性に合わせて弾く必要があるが、グアルネーリは奏者に寄り添ってくるような、したがってより自由な演奏ができる、という。冬季オリンピックの閉会式会場は、ヴァイオリンにとってあまり好ましい環境とは言えないだろう。実際、寒さ、湿気対策を施されての登場だったらしい。
 超豪華一点主義なのか、ヴァイオリン一本で「イタリア」を主張しようというイタリアの謎のこだわり・・・。

https://www.rainews.it/video/2022/02/pechino-2022-cortina-2026-inno-malika-ayane-c0a04e20-3bec-4059-abda-9c0a71dc3608.html

 ・・・なんて暢気な独り言を週明けにつらつらと書きながら、しめくくりきれずに放置していたら、あれよあれという間にウクライナが大変なことになってしまった。いや、ほんとうは決して突然のできごとでも何でもなく、もうずっと、少なくとも大統領選が終わった後は、イタリアの新聞の一面トップは連日、ほぼウクライナ関連だった。もっとも、オリンピックの開幕も閉幕も、初の金メダルも、視聴率6割を超えるサンレモも、一般紙で一面トップになることはないけれど。

 イタリアには、ウクライナ出身の人もたくさん暮らしている。ウクライナに、家族・親戚や友人がいて心配している、取るものもとりあえず国外脱出を試みたが、国境で阻まれた・・・そんな話を身近に聞く。もちろんロシア人もいる。
 まさか、なぜ。どうしてこんなことになってしまうのか、なぜ、罪なき人の生活を壊し、命をさえ奪うのか・・・。

 ウクライナの首都キエフにある、聖ソフィア大聖堂は11世紀に建てられた教会で、修復の手が入っているものの、当時のモザイクが残る。中央アプスには、両手を大きく開いた「祈り」のポーズの聖母がどっしりと構えている。いつか見て見たいと思う。

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 一刻も早く、この悪夢が終わることを祈ります。

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(そんなわけでまだ見ぬウクライナの今回の画像は、Wikipediaおよび大聖堂の公式サイトより拝借しました)

#ローマ #エッセイ #ウクライナ #キエフ #聖ソフィア大聖堂 #イタリア  
02.26.2022



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