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南へ

 8月の終わりに、カラブリアへ行った。
 かつてギリシャ人たちが新たな土地を求めて辿りついた場所、その後、ローマ人、ノルマン人に征服されたあとはドイツ系神聖ローマ皇帝、フランス、スペイン・・・と支配者が次々と変わったこの地方は実は、何世紀も前にアルバニアから多くの移民を迎え、今もなお彼らの末裔がコミュニティを形成していることを、カルミネ・アバーテの本で知った。
 ブーツの形をしたイタリア半島のつま先部分、その蹴り出した先はシチリア島、北にはローマ時代から風光明媚なリゾート地として好まれたカンパーニア州が君臨し、東には、昨今すっかりメジャーな観光地の仲間入りを果たしたプーリア州が控える。カラブリア州はそのいずれとも異なっていた。

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 「つま先」のほんとの先っぽにあるレッジョ・カラブリアには一時、仕事で何度も来ていたが、それももう10年以上もごぶさたのまま、それ以外の場所は全く未知の世界だった。
 最寄り駅から車で、30分ほど走っただろうか。丘陵地帯に立ち並ぶオリーブの木々の間を抜けた丘の上に、その宿はあった。ぐっと広く抉られた谷の向こうには、広げた両手に囲まれたような湾が見える。見晴らし抜群のその場所で、古くからあったオリーブの搾油所が大幅に改築され、心地よい宿に生まれ変わっていた。
 このあたりは、「つま先」の土踏まずのあたり、つまり、東西の幅がぐっと狭まっているところらしい。アバーテのいうところの、まさに「二つの海のあいだ」にあたり、昼間は海からの風が、夜になると海に吹き下ろす風が気持ちいい。
 さらに、目の前に広がるティレニア海からの風と、背後の山を超えてイオニア海からやってくる風とが、細長く伸びた半島の中央を走る山脈の上で出会い、雲が生まれ、雨が降る。南イタリアの中では例外的に雨に恵まれた土地で、緑が濃い。規則正しく並んだオリーブ畑の向こうには、種の多様性に富んだ緑豊かな原生林が広がる。この林の中で取れるポルチーニ茸は、一段と香り高くおいしいのだという。

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 それにしても、オリーブの木というのは、なんと美しく、頼もしく、力強いのだろう。
 照りつける太陽の光を遮るには、あまりにも細く、頼りないような葉が、無数に重なり合うことで優しい木陰を作る。黒く、頑丈な幹から伸びる枝は、その葉と同様に柔らかくしなやかで、風が吹くたびにゆさゆさと葉と実をつけたまま揺れる。強すぎる風は受け止め、ささやかな風は増幅させる。地に構えた幹は、どっしりと骨太かと思いきや、思いの他、ほっそりと若木だったり、かと思うと、樹齢を重ね、朽ちて大きな穴が開いていたり。いったいどうやって、この豊かな枝を、すずなりの実を支えているのだろう?

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 そんなオリーブに囲まれたプールサイドは極楽至福。朝はたっぷりのフルーツに手作りジャムと甘いパン、サラダ中心の昼食に、夜はシンプルながらも毎日工夫を凝らした地元ごはん、と、食っちゃ寝生活で体重はともかくとして、心ばかりはどーっとデトックスしてリラックス。
 夜は満天の星空に、ただただため息をついたのだった。

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 今年のオリーブ一番搾りができたら、送ってもらわなくちゃ。
 すてきな夏休みに誘ってくれたSさん、ありがとう!

#カラブリア州 #夏休み #エッセイ #オリーヴ畑 #読書
Fumie M. 09.17.2021


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