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ヴェネツィア1600年?


 3月25日、イタリアが国を挙げて、14世紀の詩人で近代イタリア語の基礎を作ったとされるダンテ・アリギエーリの没後700周年を祝う中、ヴェネツィアも 生誕1600周年記念日として派手に祝砲を上げていた。もちろん、イタリア全国がほぼ「レッド・ゾーン」、すなわちウィルス感染拡大対策でかなり厳しく行動が制限され、レストランやバール、カフェはもちろん日用品以外の店舗は休業、大勢が集まっての祝杯などあり得ない、という状況の下、全て、インターネットやメディア上での話だけれど。
 ちなみに、詩聖ダンテのほうは、1321年が没年ではあるけれど、3月25日は命日ではない。命日ははっきりしていないこともあり、地獄から煉獄、そして天国へと旅を続けるスタイルをとる彼の代表作「神曲」の、その旅が始まった日とされるのが3月25日らしい。文化省(元・文化財保護省)がこの日を「Dantedì」(ダンテディ、ダンテの日)と命名してキャンペーンを展開。1年をかけて展覧会やシンポジウム、イベントなどが予定されているとのことで、楽しみではある。願わくば、やはり少しでも早く行動が自由になって、直接足を運んで、生で楽しめるようになってほしい。
 
 ヴェネツィアもまた、市が「1600 Venezia 421-2021」というロゴを作り、専用サイトまで立ち上げて盛り上げていたのだが・・・いやいや421年建国は、あまりにも早すぎる。ローマ帝国が次々と押し寄せる「蛮族」に悩まされていた頃とはいえ、421年にはまだ一応存続している。マリン・サヌードどいう16世紀の歴史家が、ヴェネツィアの最初の教会が紀元後421年3月25日に建立した、と書いていることを根拠にしてるのだが、これはいわば伝説に近い。
 そこに「最初の教会」として記述されているサン・ジャコメート教会は実際は12世紀のものだし、歴史学者たちの一般的な見解としては、421年ごろには、それよりも前からもともと土着の人がラグーンに簡素な家を建てて暮らしてはいたが、蛮族に追われたローマ人たちが水上へと逃げ込み、やがて街を形成していくのはもっと何世紀も後のことというのが定説のはずだ。

 自らのアイデンティティをできるだけ古く、由緒正しきものと求める気持ちは、古今東西きっと誰も似たようなものなのだろう。ただ、あまりにも史実を飛び越えたキャンペーンはどうなのだろうか・・・。
 ヴェネツィアはこの「記念の年」を、まずは内から盛り上げようと市民から広く関連イベントを募集している。これを機にあたらめて、古文書や考古学研究が進むようであればいいと思う。それで421年にヴェネツィアでなんらかの礎が築かれた史実が発見されるならば、それはそれでいいのだから。

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Fumie M. 03.27.2021

 


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