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冬のトリノ


選手の名前を書いた横断幕、なんと刺繍!

 日本の多くの皆さんが、サッカー・ワールドカップのショックで呆然としていたであろう頃、2日ほどお休みをいただいて、北イタリアのトリノへ行った。
 寒い冬のトリノ、まして目的のスケートリンクでの観戦は、外と同じかそれ以上に寒い(はず)。トリノの冬の夜のお仕事には慣れていたつもりで、ばっちり防寒スタイルで向かったはずが、ローマから直行の特急電車を降りたとたんに、ぴゅ~るる~・・・空気の風の冷たさにビックリ。・・・そういえば、ローマではほとんど使うことのない手袋、どこにしまい込んだんだったか、持って来るのをすっかり忘れていた・・・ホームの数メートル歩くだけで指がちぎれそうな寒さ。トリノで最初に、最優先で行ったのは、手袋を探すことだった。

 思いも寄らないハプニングに見舞われた旅だった。名実ともにフィギュアオタクで、昨年このトリノで、スケート観戦の楽しさを教えてくれた友人、今回も「トリノでやるなら行きたいな~」とこちらの勝手なお願いを心よく引き受け、チケットも宿も、列車も手配してくれていた彼女が、直前に緊急事態発生でキャンセル。一人じゃ、楽しみも半減だわ・・・そもそも私だけ楽しむのはなんだか気がひける。おまけにずっと忙しかったから頭も体もヘトヘトのまま。どうしよう?と迷ったけれど、せっかくお膳立てしてくれた機会を逃すのも忍びない。えいや、で出かけたけど、これはもう本当に、行ってよかった。直前のお誘いにもかかわらず、観戦をともにしてくれた友人たち、そして何より耐え難い無念であったろうにもかかわらず、私が観戦を楽しめるよう尽力してくれたスケオタmちゃんに感謝したい。

 昨年11月に観戦したのは、1年に6回開催される「グランプリ・シリーズ」の1つだったが、今回はその成績優秀者らが出場する「グランプリ・ファイナル」。女子シングル、男子シングル、ペア、ダンスとそれぞれのジュニアで、たった6組ずつによる勝負で、つまり出場者のうち半分はメダルが確定している。それにしても、今回は日本人選手がほんとうに多いのが驚きだった。ロシアが出場していないことと、中国も、エントリーしていた選手もキャンセルしていたとのことで結局ゼロだったことを勘案しても、日本のフィギュア全体のレベルの高さに驚くばかり。

 フィギュアについては全くの素人なので、今回も詳細は避けたいと思うが、特筆すべきはやはり、グランプリ・ファイナル初出場でいきなり初優勝を果たした「りくりゅう」、三浦璃来さんと木原龍一さんのペアだろう。圧倒的な地元の声援を受けたイタリアの2組、濃密な絡みで息が詰まるほど妖艶な演技で押してきたアメリカのペアの後に登場した「りくりゅう」は、初日のショートプログラムから、あの終始爽やかな笑顔で、フィギュアスケートの美しさと楽しさをシンプルに見せて、観客を魅了した。それはフリーも同様。迫真の演技で追い上げるライバルたちを前に、きっとものすごいプレッシャーと緊張だっただろうと思う。だが滑りきって、金メダルを手にした。まさか日本が、フィギュアのペアで優勝する日が来ようとは・・・。


 ペアはジュニアでも、村上遥奈選手、森口澄士選手が繰り上がり出場ながら4位と大健闘。ぜひ、りくりゅうに続くペアに育ってほしいと思う。

 女子シングルでは、昨年、この同じトリノのパラヴェーラで、惜しくも4位ながらも繊細で丁寧な演技を見せてくれた三原舞依選手が見事優勝。小柄ながら一年ですっかり、女王の風格を身につけたように思う。SP一位ながら、フリーで大きく崩した坂本花織選手は5位、渡辺倫果選手は4位と残念ながらメダルに届かなかった、とはいえ、ともかく世界のトップ6名のうち3名が日本選手だと思うとほんとうにすごい。


 女子はジュニアでも、島田麻央選手が優勝。中井亜美選手が4位、吉田陽菜選手が6位と層の厚さを見せた。


島田麻央さん、エキシビジョンでも元気いっぱいの滑りを

 男子では、宇野昌磨選手の演技をみることができたのは、もはや眼福と言ってよいだろう。ジャンプでは上をいくほかの多くの選手たちを、氷の上をしっとりとなぞるような、吸い付くような優雅な滑りですうっと退け、紛れもない王者の貫禄を示した。山本草太選手が銀メダル、そして佐藤駿選手、三浦佳生選手がそれぞれ、4位、5位と大健闘。

貫禄の宇野選手


 男子ジュニアも日本人が3名と半分を占めていたのだが、そのジュニアは、なんと195cmと手足が長すぎるくらいの高身長でスケールの大きな演技を、伸び伸びと演じたニコライ・メモラ(イタリア)と、出てくるだけで匂い立つような華のあるLukas Broussard(米)の一騎打ちだったと言ってよいだろう。吉岡希選手が銅メダル、中村俊介選手が4位、片伊勢武アミン選手が6位。だが、シニア、ジュニア含めて宇野選手を除くと、日本人男子は印象が薄かったことは否めない。

イタリアの国歌も聞けて、よかった。

 結局、ジュニア、シニア合わせ8種目中でなんと4回も、君が代を聞くこととなった。もともと、オリンピックもW杯も、特別に日本・日本と日本の勝敗だけに一喜一憂する方ではないのだが、これだけ歴史的な瞬間に立ち会えたのかと思うと、いやそれ以上に、選手たちの本当に素晴らしい演技に、目が潤んだ。

 来年はトリノでグランプリ開催の予定はない。またどこかで、観戦できたらいいな、と思いつつ、まずは今後の彼らの一層の活躍に期待したい。

19 dic 2022

#トリノ #エッセイ #フィギュアスケート #グランプリファイナル #金メダル #イタリアの休日  #銀メダル #銅メダル


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