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「見る目」、写真家ジャンニ・ベレンゴ・ガルディン

 百聞は一見にしかず、ともちょっと違うのだが、たくさんの言葉を尽くしても、たった一枚の写真に敵わないことがある。
 ジャンニ・ベレンゴ・ガルディンという写真家の名を意識したのは、ヴェネツィアのラグーナに大型クルーズ船の通過・寄港が問題視され、大きく反対運動が起きていた頃だった。ヴェネツィアの街に対して、その巨艦がいかにそぐわず無理があるものか、我が目で既にさんざん見ていた風景だったにもかかわらず、彼の写真に目を見張り、胸が締め付けられる思いで見た。名前からてっきり、ヴェネツィアの地元の人かと思っていたし、とはいえ、それ以上気にすることもなかった。

ヴェネツィア

 ジャンニ・ベレンゴ・ガルディン、リグーリア州生まれ、91歳で現在も現役で活躍する写真家の展覧会がローマの21世紀美術館で開かれている。生まれこそ異なるものの、ヴェネツィアで教育を受け、写真を撮り始めた。1950年代から60年代にかけての、ヴェネツィアの風景。広場で遊ぶ子供たち、水上バスの人々、リド島のビーチで戯れる若者たち。人々の日常を捉えた写真は、何気ないようでいて、かけがえのない、一つとして決して同じ瞬間は訪れないことを意識させられる。
 そして視点は、イタリア全国各地へ。ミラノやナポリといった都会の情景や、郊外の、特にイタリア南部の農村やそこで働く人々の姿は、イタリア・ネオリアリズムの映画そのもの。あるいは、一斉を風靡したタイプライターのオリベッティ社で働く女性たちの、心なしか誇り高そうな表情や、その社宅の保育園の子供たち。あるいは、建築家から映画監督といった著名人のポートレイト。
 北イタリアの冬の、霧に煙る田園風景や街並み。南の夏の、ジリジリと照りつける太陽の光と、影の濃さ。それぞれの空気の質感に、匂いまでが伝わってきそうな「リアル」。
 あるいは、窓の内と外、建物の1階と2階など、1枚の写真の中に全く異なる複数のストーリーが孕んでいるのは、写真ならではのおもしろさでもあり、舞台のワンシーンを見ているようでもある。

ミラノ
シエナ


 スマホで誰でも簡単に写真が撮れ、誰もがそれを自由に公に晒すことができる時代、ギラギラ、押せ押せの画像があふれるデジタル情報に疲れた目が、シャキッと洗われたような、そんな気がした。

Gianni Berengo Gardin
L’occhio come mestiere
extra MAXXI
4 maggio 2022 - 18 settembre 2022
https://www.maxxi.art/events/gianni-berengo-gardin-occhio-come-mestiere/

#イタリア #エッセイ #ジャンニベレンゴガルディン #ヴェネツィア #ローマ #展覧会巡り  #写真展
05.15.2022


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