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グローバル視点でみた日本衰退の病因

スマートホームプロ集団X-HEMISTRY代表の新貝です。
今回はスマートホームから少し離れ、グローバル視点で感じていることを記事にしてみたい。
2000年頃から20年以上に渡り、日本と海外を行き来しながらビジネスを進めているので、日本の良いところも悪いところも目に留まってしまう。
海外企業との付き合いも少なくないので、僕の知る範囲の世界からの観点になってしまうが、日本が衰退している病因について記してみたい。


日本とアメリカの年収差は拡大する一方

最近各所でスマートホームレクチャーを提供する中で、毎度少し話題が盛り上がるデータポイントがある。

スマートホーム先進国アメリカでスマートホームデバイスを10個以上保有している層の特徴として「世帯年収75,000ドル」という数字があるのだが、ここでいつも「比較的裕福な世帯に指示されているんですね」という解釈が返ってくる。

円安の今「75,000ドル」を日本円に換算すると1ドル140円で1,050万円、150円で計算すると1,125万円になるわけだが、仮に100円換算でも750万円となることから平均年収が停滞している日本人からするとそういう解釈になってしまうのもわからなくはない。

そこで「いや、75,000ドルというのはアメリカでは世帯年収で言うと中央値ですよ。」というと、一瞬一同沈黙の後に「そうなのかー!うわぁ、やっぱり今の日本は。。。」という流れになる。

ちなみにアメリカの世帯年収の中央値を示してくれているソースはこちら、下記はソースから世帯年収の平均値推移を拝借したグラフ。

引用元 : https://www.nerdwallet.com/article/finance/median-household-income

この推移を見ると、2019年が78,250ドルでピークとなっており、そこから下降傾向にあるがそれでも2022年段階で74,580ドルとなっている。

ちなみに厚労省のデータによると日本の場合は下記のようになっている。

引用元 : http://www.garbagenews.net/archives/1954675.html

2021年のデータによれば、日本の児童がいる世帯の平均所得は785万円で、全世帯の平均は545.7万円。

通貨の価値は常に変動するため、過去の状況と比較する際には注意だが、例えばシンプルにするために1ドル=100円で比較してみたい。バブル崩壊後の1994年には、日本の全世帯の平均年収は664.2万円で、アメリカは59,500ドル(約595万円)だった。

つまり、当時の日本の方が平均世帯年収が高かったわけだが、1999年から2000年にかけて、日本の世帯年収はゆるやかに下降し、600万円強になった。一方でアメリカは、67,500ドル近辺に上昇し、この頃から逆転が始まった。僕が実際にその頃アメリカに訪れた際も、チップを含めて物価が若干高く感じられたが、極端な差は感じていなかった。しかし、約10年前の2013年頃から、アメリカの物価が日本よりも高くなっていると感じはじめ、今となってはアメリカの物価高に加えた円安に直面しており、アメリカにいても全く物欲がわかない。

アメリカのスタバで朝食を食べたら3,000円也

アフターコロナの今、円安が進行し、140円台を挟んで150円に迫る状況になっているが、さらにインフレが進行し、チップも以前よりより高いパーセンテージを求められている。僕は最近もほぼ毎月アメリカを訪れているが、スターバックスでアイスコーヒーとパンを頼むだけで、日本円に換算すると容易に3,000円を超えてしまう。

2022年6月にサンディエゴにて買った朝食$23.22
(チップなし:当時の為替レートで約3,100円の請求がクレカに来た)
そもそも1ドル100円でも2,322円なのでアメリカのインフレのやばさがわかる。
ボックスの中身は簡素なアボカドオープンサンドが2つ(ちなみに割と小さい)

飛行機の利用においても、燃料の高騰とアフターコロナによる機体不足の影響が見られている中、世界各地で再び国境が開かれた結果、ビジネスやプライベートでの国際移動が増加している。その結果、最近のフライトは常に満席に近く、需要過多状態となっている。これが影響し、日本円で精算すると、エコノミークラスの料金でも軽く40万円を超えてしまう(ビフォーコロナでは20万円前後だったので、単純計算で倍以上)。現地での移動も、都市によってはUberが捕まりにくくなってきており、Uberを利用することもそれほどお得ではなくなっている感もある。最近ニューヨークを訪れた際には、ニューアーク空港からロウワーマンハッタンまでタクシーを利用したところ、料金が100ドルを軽く超えておりメーターを見たときに唖然としてしまった。

多くの企業では海外出張手当が支給されていると思うが、この手当だけで3食分をカバーし、おつりが来るような状況はもはや稀だと思う。むしろ、海外出張に行っても手当で食費をまかなうことは叶わず、赤字になってしまう。日本人にとって、これは厳しいアフターコロナの現実となっている。

さて、なんで日本はこんな事態になってしまったのか。

これからは本題であるが持論を記してみたい

失われた30年に疲弊した日本企業のなれの果て

もちろん、バブル崩壊後の日本企業が内部留保体質になったり、現在の経営者層が高度経済成長を支えた世代の後で、リスク回避体質が強まり、合議制で大胆な経営判断が難しいなど、一般的に言われる理由も要因となっているのは間違いない。
年功序列が拭いきれない人事制度が続き、毎年大規模な組織改正が行われるのが通例となっていることも大きなブレーキになっている。
そもそも新しいことに取り組み減点を食らってしまうリスクを回避していた方が後々の人事にプラスになるという考え方が中間マネージメント層から役員に至るまで染み渡っている企業ばかりが目に付くのが日本の現状だ。

日本企業の風物詩、定期的な組織変更って誰得?

日本はなぜか定期的に大きな組織変更が行われる不思議な国だ。
大企業ではその組織変更に伴って、経営層にも手が入ることがある。グループ企業を抱える大企業では、割と普通に経営陣のシャッフルも行われる。
組織によっては経営層やマネージメントが変更となると、新たに組織長となった人がこれまでの動きを一旦止めてしまうことが多々ある。
場合によってはこれまでの取り組みをはなから否定に走ってしまう新リーダもいる。
確固たる信念と情熱を持って見直すのであれば良いのだが、自分のやりたかったことを新しい組織に持ち込んだり、保身のために仕掛かり中の取り組みにリスクを感じたらブレーキをかけてしまう悲しい上司もいたりする。
さらに自分のやりやすさを優先するあまり、新たに配属された組織に別の人材を持ってくるパワーゲームを持ち込む上司もいたりする。元々その組織にいたメンバーのモチベーションも考えずに。高いモチベーションを持ってゴールに向かっていた優秀な社員は、定期的に繰り返されるゴールの再設定に心が折れ、会社を離れてしまうことにも繋がる。

もちろん、経営レベルで課題があり熟考をした上で改革的に組織変更を行う良い例もある。ただ、歴史がある日本企業では根付いている総合職文化から、定例行事的に人材ローテーションの一環で組織変更を行ってしまう。

そういった組織変更が発生すると、これまで課せられてきたゴールに向かい、ついこの間まで現場で頑張ってきた人たちの努力を一気に水の泡としてしまう、という場面をこれまで何度も見てきた。
つまり、これまで費やしてきた膨大な人件費を組織変更によってドブに捨ててしまっている行為に他ならない。つまりこれまで費やしてきた貴重な時間と人材投資を減損していることと同義である。常日頃呪文のようにROIを求めているのにも関わらず。
さらにその身勝手な組織変更により、定期的に取引先にも迷惑をかけていることにも気づかず、麻痺状態となっているのが日本企業の実態だ。

少なくとも僕の経験の中で、海外企業で考え無しに盲目的に定期的な組織変更を実施する企業はこれまで見たことがない。

なんちゃら企画部、なんちゃら推進部って意味ありますか?

もう一つ日本独特の組織設計で違和感を感じるのが、何か新しいことを始める際に「新規事業企画」とか「新規事業推進」という組織を作ってしまうことだ。よく「組織変更があり、新規事業企画部を作ることになりました。英語でなんて表現すれば伝わりますか?」と聞かれるのだが、「うーん、"New Business Deveopment"あたりで良いんじゃないでしょうか。ただ、そもそも海外企業にはその組織の役割と裁量について説明が要るとは思います。」と伝えることにしている。

なぜかと言えば、これも少なくとも僕の中での経験値でしかないが、海外企業は新しい事業をやるときに新たな部署としての組織を作ることは通常なく、所属は変えずに組織横断でエキスパートに役割を与えてプロジェクトチームを組成することが一般的だ。
そのプロジェクトが進捗し、うまく軌道に乗るステージに入れば、その事業を小さな組織で推進する「なんちゃら推進部」ができることは稀で(ちなみに見たことがない)、普通に既存組織に新たな取り組みを会社からのミッションとして当たり前のように推進させていく。

ところが日本は、新しいことをやる際に器を作り、少数精鋭をアサインし、その組織に役割を押しつけてしまう。
その少数精鋭部隊に権限を与えれば人選が正しければ一定期待値通り機能するはずなのだが、器とミッションを与えながらも、従来型のプロセスを強いり、大した裁量も与えないため、本来期待している機動力は発揮されない。せっかく花開きそうになっても、新規事業ともなると事情を良く知らない役員達の目にさらされ、それほど状況の理解もないまま発せられる軽はずみな質問や発言でそのプロジェクトに大ブレーキがかかってしまう。出世競争に晒されている役員は、競争相手を蹴落とすために意図的に意地悪な発言をしてしまうことだってある。そんなときオーナー社長や辣腕社長じゃない限りは、トップであってもその手のコメントや質問を拾ってしまう。
さらに、これまで相当な時間を割いてきたのに重要な役員説明の場で「(時間がないから/時間が押しているから)15分でよろしく」とか言われ、さらに無理ゲーを強いられる場面も何度も見てきた。

しかし、根本的な病因はここにある


ただ、根本的な原因はそれ以外にあると思っている。
実はバブル崩壊後から今に至るまでの時代はビジネスシーンだけでなく個人レベルでもパソコンの普及が始まった時期と重なっている。スマホも行き渡った今、は一人一台以上の端末を持っている。
つまり、アフターバブルの時代というのはIT化が急速に進み、さらにインターネットの普及が始まるデジタル時代に突入してきたわけだが、ここに日本の低迷の原因があると思っている。

「モノづくり日本」と言われるように、日本の高度経済成長は主に製造業を中心に発展してきたが、バブル崩壊後はいわゆる「ソフトウェア」でよりよいサービスや体験を提供する「本格的デジタルの時代」へと世の中が急速に転換してきたというわけだ。

デジタル社会では、当たり前だが「ソフトウェア」が最重要技術となる。ソフトウェアはプログラムでいろいろなものを作っていくが、プログラミングは基本的に英語がベースであり、英語に苦手意識を持つ日本人にとっては遅れやすい技術でもある。しかも、21世紀に入るとインターネットが急速に普及し、国境を越えて様々なソフトウェア技術が生み出され、世界中の有志によって日々ブラッシュアップされ続けている。
英語をなんなく扱えれば最新技術をスムーズにキャッチアップできるわけだが、英語が苦手な日本人は最新情報へのアクセスが遅れがちになる。英語に堪能な日本人がある技術を習得し、ブログや本を出版したりすることで、ようやく多くの日本人IT技術者が新しい技術に触れることができる構造になっているが、英語ができないIT技術者が得た最新技術と思われる情報は既に陳腐化していることすらありえる。

さらに、デジタルが重要とされる現代でも、ソフトウェアエンジニアの地位は一般的にまだ低く、待遇の改善が進んでいるのは一部の企業に限られる。文系と理系で区分けされる日本では、理系の立場や待遇にはまだ改善の余地がある。

このような状況では、デジタルがますます重要になるグローバル環境下で、日本が再びリードする余地は限定的と言わざるをえないだろう。

その証左を示したい。
我々は日々スマホでアプリを通じて様々なサービスを利用しているが、皆さんが使っている国産アプリの中で、グローバルで使われているものがあるだろうか?

最新テクノロジーの発祥地として、日本ではシリコンバレーが有名だ。ただ、僕はこれまでアメリカの50州中46州を訪れており、シリコンバレーだけが技術的に突出しているとは考えていない。僕が訪れた州の3分の1程度はプライベートでの訪問だが、残りはビジネスで訪れている。驚かされるのは、アメリカはどこに行っても優秀なソフトウェア企業がある、という事実だ。

当たり前だが英語圏の人たちにとっては、上述した理由でソフトウェアの最新技術にいつでも母国語でアクセスできる。だからこそ、どこに企業があろうが情報の格差なしに、優れたソフトウェアベースのプロダクトやサービスが生まれてくるのは当然なのだ。

さらに言えば、英語でWebサービスをリリースすれば、意図的に制限をかけない限りは世界中の利用者から使ってもらえる。
つまり、英語でサービスをWeb上に展開するだけでアメリカに留まらず、はじめからグローバルマーケットにアプローチできる。
マーケットが大きければ期待できる売上げも内需で見込むより桁違いになる。いわゆる日本でよく言われるGAFAM、つまりテックジャイアント企業はそういう構造の中でビジネスを展開しているわけで、見込める売上げも桁違いになるわけで、給与格差というのもそう言った背景から生まれてくる。

そんな中、国際競争力を失いつつある日本はどんどん内向きになっているが、縮小するマーケットでビジネスをするということは、待遇のアップも見込みにくいということだ。日本というマーケットは移民を受け入れようともしない上に、これから崖を下るように人口が減っていくにも関わらず、過去の栄光を背負いながら閉鎖的な島国化に舵を切っている。

スマートホームに関しても日本は後進国となりつつある。

よく日本はなんでスマートホームが遅れているんですか、という質問をもらうが、根本には同じところに原因があると思っている。
日本企業はどうしても商品/サービスの作り方がかなりモノづくりに寄ってしまう。
スマートホームのスタートアップにしても自らモノを作りたがる。
スマートホームでまず目に見えるものはハードウェアとしてのモノではあるのだが、商品力を高めたりユーザーエクスペリエンスを高めるためにはハードウェアよりもソフトウェア開発力が重要なのだ。

Samsungのような企業がスマートホームの世界で強いのはハードウェアの生産能力も高いのだが、それよりも近年はソフトウェアに多大な投資をしている。
GoogleもAmazonも当然ハードウェアオリエンテッドな企業ではないがスマートホームの世界では力強い。それはソフトウェアに強みを持った巨大企業だからである。
Appleも魅力的なハードウェアを出しているが、冷静に見てもらえるとすぐに気づくと思うが、Appleの素晴らしいユーザーエクスペリエンスの大半は優れたソフトウェアから来ている。

英語やソフトウェアに強い国日本になり、ソフトウェアエンジニアの待遇が改善されていかない限り、日本の復権はかなり厳しいと言わざるを得ない。


著者 : 新貝 文将

スマートホームに特化したコンサルティングサービスを提供するスマートホームのプロ集団X-HEMISTRY株式会社の代表取締役。

2013年から東急グループでスマートホームサービスIintelligent HOMEの事業立ち上げを牽引し、Connected Design株式会社の代表取締役に就任。

2018年には株式会社アクセルラボの取締役 COO/CPOとして、SpaceCoreサービスの立ち上げを牽引。

2019年秋にX-HEMISTRY株式会社を設立。スマートホーム事業に関連するノウハウを惜しみなく提供する形で、多くの日本企業向けにスマートホーム事業のノウハウを伝授しつつ、数々のスマートホーム事業企画/立ち上げにも寄与。

リビングテック協会発行「スマートホームカオスマップ」の製作にも深く関わり、スマートホームのエキスパートとして日本のスマートホーム業界で認知されている。

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https://x-hemistry.com/

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