みんな他人を気にしすぎている話
「この空白の期間は何をされていたのでしょうか……」
面接官が履歴書を見て質問をしてくる。たしかに疑問に思っても仕方がない。 無職になって半年が経っているのだから、自分が面接官でも疑問を持って当然だ。
「療養しながら、無理しない程度に就活をしています」
素直な気持ちで質問に答えた。 翌日、健康器具メーカーの営業職からのお祈りメッセージがきていた。
医療機器商社の営業をしていたが、半年ほどで体調を崩してしまった。
何もわからないままであったが、挨拶を兼ねてお客様のところに訪問したり、ちょっとずつだけどニーズにお応えしながら、信頼関係をつくる。
ほかの人よりも仕事が遅かったのかもしれないけども、仕事にやりがいを持ちはじめていた。
しかし、商談までに持っていくまでが遅く、上司から「早く結果を出せ!」と何度も言われた。
「そんなすぐに結果が出るわけがない……」
最初は特に気にすることもなかったのだが、毎日言われ続けると、ポジティブな自分もどんどん気持ちがネガティブになっていくのであった。
「お前は、茶碗と箸しか持ったことがないのか!」
上司の言葉も要求も次第に大きくなっていった。ちょっとしたミスでもキツくなっていくのが次第にわかってくる。何をやってもうまくいかなくなっていった。
気づかないふりをしていたが、体調を崩し26歳のとき無職になった。
「社会不適合者」という烙印を押されたような気分であった。
「まだ若いから大丈夫!」根拠はなかったのだが、自分に言い聞かせながら無職という世間体がよろしくない状態でもやれることはやってみた。
新卒のときの就活よりも比較的簡単に最終面接にいけることに驚いた。なかには東京までの往復代の交通費も出してくれる企業もあったため、 「これはすぐに次のところが決まるのではないか……」とワクワクした気持ちもあった。
しかし、簡単に決まることはなかった。
3ヶ月が過ぎ始めると、今まで比較的簡単に面接まで行けていたのだが、書類選考すら通らなくなる。自信がなくなっていき社会の枠組みから離れていくように感じた。
気がつくと、半年が経過していた。今まで希望していた業界や業種を全て見直すことにして、
「どんな仕事でもお金がもらえる仕事がしたい」という世間に合わせるように自分を持っていった。思考停止の状態である。
意思、感情、まるで機械のような自分に近づいていってるのがわかる。心と身体が一致していなかった。そうして世間体を気にした結果、自分の思っていた理想「人と人をつなぐお仕事」を諦め、「モノと向き合うお仕事」を選んだ。
今の職場になって、2年半が経過していた。
図面どおりに歯車をつくっていく。精密機器は正確につくればいいのだが、物足りなさを感じるようになる。この製品がどの機械の部品に使われて、どのような反応があるのかわからない。実際に、ユーザーの声を聞けるのは営業の仕事なのである。
「この品物は、いつまでにあがる?」
大体、確認されることは納期である。知りたいことはお客様の反応だ。その意図がないと自分の仕事に自信を持つことができない。閉鎖された空間で仕事し続けると人の気持ちがわからなくなっていく。
「知りたいのは、ユーザーの声だ」
不安になった自分は、SNSを通じて自分の本当に好きなことを発信していくことになる。
インターネットは、自由だった。垣根なんかなかったのだ。好きなことを好きなだけ発信をして、「これが自分です!」というブランディング戦略。面白いと思ったことは、イイネ、リツイートをして、全世界に自分の情報が共有されていく。
営業ではないにも関わらず、フォロワーというお客様が、自分のことを知りたいということでフォローをしてくれるのである。
「この人は何が好きなのか……」
「今後どんな業界が伸びていくのだろうか……」
自分が、なんて小さな世界の住人であったのかを知った瞬間だった。
驚いたことに、借金400万を背負いながらSNSを通じて返済していくという借金インフルエンサーと呼ばれる人もいた。借金を背負っていることを公開、コンテンツにしてネガティブなイメージをポジティブにして返済していくのである。
「世間体にこだわりすぎているのは自分だけではないか……」
と不正解が正解である逆転の状態が起こっていた。
10年前には想像していなかった職業も登場している。
職業ユーチューバーと呼ばれるものだ。自分をコンテンツにしてお金を生み出すことも簡単な時代になっている。
フリーランス、会社員、どちらが正解というわけではないけど、働き方も考え方も時代とともに変わっている。時間はかかるかもしれないが、他人が職業や肩書きというものにとらわれずに、
「これが、自分なんです!」ということを他人の目を気にせずに表現できる時代は、少しずつだけど近づいていっているのだと思う。
「お金と信頼」
よく比較の対象とされているが、巡り巡って「お金」ではなく人間として価値が「信頼」に変わって将来的に「無職」というステータスがトレンドとなり、世間体を気にしない世の中になれば、もっと幸せになれるのではないかと感じる。
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