物理的な距離だけでなく【ファーストデートの思い出】
書くンジャーズ日曜日担当のふむふむです。
今週のテーマは【ファーストデートの思い出】。
私のファーストデートは高1の秋、相手は隣の県に住んでいた一つ年上。
親の意向に沿った高校に入学する代わりに夏のアメリカ研修旅行に行かせてくれと交換条件を出していた。
全国にある付属高校から参加者を募り、総勢50名ほどで出かけた研修旅行はバスキャラバンから始まり、キャンプやホームステイ、毎朝の海辺の散歩と盛り沢山の内容で、毎日が充実していた。
家族と離れ、初めて見る外国は今まで自分がいた場所とは全く違った世界で、びっくりするほど甘ーいチョコレートのパッケージやどぎつい原色のお菓子のように私の心を鮮やかに彩っていた。
そんな中、日本全国から集まった高校生が男女関係なく語り合っている中でそれとなくカップルができ始めた。
確かに悩み多き年代の男女が毎日一緒にいて、素直に心を開いて話をする関係というのは恋に結びつきやすいのか。
私もなぜかその中の一人になっていた。
美術部に入っているという彼は、線が細そうな割に率先してみんなの荷物を車に運び込む。お礼を言うと「筋トレだから」と言葉少なに照れる。
みんなが大騒ぎをしながら集まって遊んでいる時でも、自分にできることはないかといつも探しているような人だった。
ほとんどしゃべらないので、正直何を考えているか分からなかったが、彼のことを知りたくなった。
朝の海辺の散歩で少し話してみると、どんな絵を描いているのか、住んでいるところのおいしいもの、家族のことをだんだんと話してくれるようになった。
何となく気が合うなと思い出したところで、いつの間にかお似合いの二人と周りから公認の中になった。
最終日、みんなから一言ずつ書いてもらったノートには「結婚式にはよんでね」「日本に帰ってからも仲良くね」なんて書かれていて、これをみんなが読みながら書き込んでいたのかと思うと恥ずかしくなるくらい、祝福のメッセージでいっぱいになっていた。
***
そして帰国。
それまでは毎日些細なことでも話していたのに、どうしたって日本に帰ってきたら物理的な距離が邪魔をする。
さらに高校生であればお小遣いだって足りない。
いくら隣の県と言っても交通費だけで3000円を下らなかった。鈍行列車に乗って2時間、さらにそこからバスで30分の場所にある彼のお家に遊びに行くとなると、まずはお金を貯めて、予定を合わせ、列車の時刻を調べて、すべてを自分一人でやらなければならない。
今のようにグーグルマップもない時代、往復の列車の時間を駅まで行って調べ、滞在時間を割り出す。
もちろん高校生なので、夜遅くまで滞在できるはずもなく、結局トータルで3時間もいられない。ついこの間まではあんなに毎日宇宙のことや映画のことを話していたのに。
3時間で何を話すことができるんだろう。
***
お金もたまり、やっと会いに行ける日、ボタンを押さないと開かないボックスシートの車両に乗り込む。
弾む心をウォークマンから聴こえてくる音楽で必死で押さえ、長旅が始まる。文庫本も持ってきたが、ページをめくったところで内容が全く入ってこない。
音楽と景色を楽しみ、目的の駅に着く。そこにはお迎えに来てくれた彼の姿。
2か月経っても彼は変わっていなかった。照れくさそうにこちらを見て手を振った。
家に行くまでのバスで、小さな頃に遊んだ川や小学校の場所を教えてくれた。育ってきた場所を見られただけで嬉しさを覚えた。
お家に到着すると、お母さんがそわそわしながらお茶や焼きそばを出してくれた。
「これが八百屋で売ってる焼きそばね」
今ならB級グルメの焼きそばだってすぐに分かるが、当時はどこでも焼きそばを買えるなんて不思議でいっぱいだった。
違う場所で育ったもの同士、その土地の話は全く分からないことだらけ。それだけでも私にとっては新鮮で、何を聞いても驚きを隠せず楽しくて仕方なかった。
帰りの時間はあっという間に来てしまう。
「高校生じゃなければ、もう少しゆっくり話ができるのに…」
そんなことを言っても始まらない。
帰りもバス停まで送ってくれた。
バスに乗るまでは笑っていようと思っていたが、残念ながらそうもいかずぼろぼろと涙がこぼれた。
バスに乗り、見送る彼に手を振る。
涙は止まらない。
次はいつ会えるんだろう、だいぶ先になるのかな。
見通しの立たない次の予定を考えると、涙が止まらない。行きの高揚感とは全く反対の絶望に近い思いで電車に乗った。
長い長い2時間、どうしていたのか全く覚えていない。
***
高校生にとって遠距離恋愛はハードルが高すぎた。日々の忙しさや、今のように携帯電話もなく家の電話を遠慮しながら使う時代、少しずつ距離ができていった。
残念ながら、みんなに祝福された様に結婚まではしなかったけれど、田舎町で閉塞感に苛まれていた私を広い世界へ導いてくれる一歩になったこの恋は、淡い思い出として残っている。
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