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チヂミについて


チヂミはずるい。


昔、「ズルい女」という歌があったが(年がばれる)、あんな感じである。

ほんとは好き。

超好き。

だけど意地をはってしまう。

表立って好きだよと言いたくない。


だって、晩ごはんのおかず単品としては確実に扱いづらい。


しかも付属のたれは十中八九ピリ辛であり、幼児は食べられない。

大人用にと出したところで

「◎◎くんもたべるぅ~」と泣きつかれ、これはだめよ、からいからいだからだめよ、いやああたべるぅぅ、のループに入るに決まっている。

しち面倒くさいことになるのがいやになるくらい分かっているのだが、やはりそれでも食べたくなってしまう。

罪な料理である。


でも、時折むしょうに食べたくなるのだ、あれが。


あのもちもちの生地。

絶妙なニラとたまねぎのシャキシャキ。

そして甘いのか酸っぱいのか辛いのか分からなくなるあのタレ。

辛いのは分かっているのに食べたくなる。



BTSが流行り、TXTも流行り、enhypenも流行り、&TEAMも流行りますよみなさん応援してください、と、韓国のイメージがぐんぐんと身近になってきている昨今の風潮。


アイドルだけでなく、料理も存在感を増している。

ARMYに限らず、KPOP好きならば多かれ少なかれ、推しの音楽をききながら辛い物を食べたくなったことがあるはずだ。

サムギョプサル。チャプチェ。トッポギ。チーズタッカルビ。


そんな韓国料理の中でも最も敷居が低いものが、そう。

チヂミだ。


トッポギやタッカルビは、

《ぼくらバンバンに唐辛子きかせてますよ》

という顔をしている。

見るからに一見さんお断りである。

あれは韓国のベテランオンマかレストランシェフが気合を入れて食材を仕入れ調理場までもっていき提供するものであって、そのへんの日本人主婦がヨーシと思いつきで作れる代物ではない。


しかし、チヂミは違う。



まさに《共感できるアイドル》。

それがチヂミ。


韓国料理なのに赤くない。

前面に唐辛子が出ていない。


初見で警戒しつつ眺めながら、

オッ?思ったより日本のお好み焼きと似ているな?と思い始めたころに、

《コンニチハ、あー、ぼくのこと知ってます? 嬉しいな》

と甘い笑顔で日本人スタッフに話しかけてくる若かりしV(BTS)ぐらい気安い。

ズルい。

 


工程も簡単で、手間もかからない。

ちゃんと野菜もとれる。

薄味のようでいて、口にすると意外にもしっかり海の味がする。


普段は優しそうなのに、やるときはやる。

あんなに可愛いのに、やだ、かっこいい……男じゃん……

そう、ライブのときのジミンちゃん(BTS)のような意外性。

ギャップ。

これはズルい。



考えれば考えるほどチヂミがイケメンに思えてくる。

そんな私の推しは、JーHOPE先輩(BTS)だが、それはさておき、チヂミだ。



日本にもお好み焼きというスーパーアイドルがいる。

勿論、お好み焼きは日本国民の彼氏といっていい立ち位置だ。

ご飯の上にのせられようとも、焼きそばを包まれようとも、彼は文句の一つも言わない。

ソース、マヨ、カツブシ、アオノリ。

お決まりのスタイル。

別にそれに不満はなく、むしろ彼はよくやっている。

今更お好み焼きにイメチェンされるほうが嫌だ。

ケチャップなんかかけてきた日には即行で別れる。

彼には彼のままでいてほしいし、そんな彼をこのまま変わらず愛する。

でもちょっとマンネリ……

チヂミが颯爽と登場するのはそんなときである。



お好み焼きと似て非なるチヂミ。


どちらがいいとか悪いとかではない。

ただ、チヂミの外見。

飾らなさ。

ソースもマヨも何もない。

雪の女王を超えるありのままさで勝負する潔さ。


「えっ、……ニラ、見えちゃってるよ!?」


と小声で言うと、彼(チヂミ)は子犬のような笑顔で言う。


「見せてるんだよ」




キャー、である。



この潔さ。

飾らなさ。

それでいてごま油のみを身にまとうおしゃれさ。


ああ、もう、ズルい。

となる。



たれに炒りゴマなんて入っていた日には、気持ちが揺らぎそうになる。

あっだめだめ、晩ごはんの一品になんて、だめよ、今日はしなびかけたキャベツを使おうって決めてるんだから……



と、自らを奮い立たせようとする、その時にかぎって

店内放送でKPOPが流れる。



チヂミとスーパーの店長高坂さん推定45歳の勝利である。

作戦なのだろうかと疑いたくなるほど、最近よくKPOPが流れている。


諦めてカゴにチヂミセットを入れ、ついでにチンすればできるらしいトッポギも入れる。ここまできてしまえばチーズハッドグも一緒だろうと冷凍コーナーに行き、二袋入れる。


精神的とはいえ浮気をしてしまった罪悪感と失意に勝る食欲でスーパーを後にする。


ふと思ったけれど、チヂミ粉でキャベツを焼いたらいったいどうなるのだろうか。


もちもちのお好み焼きになるのか。

それともチヂミはチヂミのままなのか。

チヂミのアイデンティティはどうなるのか。

謎は深まる。


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