テラダ一家の宇宙旅行 その 2◆ピカリィ登場!!


 その時、大きなシャボン玉は、パッとまぶしい光に飲み込まれました。
みんな、おもわずギュッと目をつぶります。
 少しして、おそるおそるゆっくり目を開くと、みんながいるのは、シャボン玉ではなく、メカニックな宇宙船。
 つるっとした未来チックなデザインで、みんながいる円形の部屋は直径十五mくらいのコンパクトさです。巨大なスクリーンとチカチカと点滅をしている計器類のほかには、家具らしいものはありません。
 そして、目の前には、壁いっぱいの大きなスクリーン。
 その前でみんなはフワフワと浮いています。
 これが無重力ってヤツ、なんでしょうか?
 宇宙船はすごいいきおいで上昇し続け、スクリーンでは、遠のく地球が映されています。

 すると、あの声が、こんどはもっと近くで響きました。

『ミナサン、魂のアンチエイジング・ツアーにようこそ。歓迎するヨ♪』

  みんなは無重力の中であたふたしながら、声の主はいったいどこにいるのかと、あたりを見まわします。
 すると、直系五十センチくらいの黄金色に光る玉が、ポンと部屋の真ん中にあらわれました。

 半透明の、光る、まるいもの‥‥‥、
 これが、頭の中にひびいていた声の持ち主なのでしょうか?
 じっと見つめても、たくさんの光る粒子があつまって形をつくっているようで、輪郭ははっきりとわかりません。
「うっそ……、なにコレ? このボール……、この玉がしゃべってるの?」
 みんなは、口をぽかんとあけて玉を見つめます。

『そうだヨ。ボールみたいで気に入らナイ? だったら、ちょっと待ってネ』

 みんなが見守る中、光る球は上下左右にむくむくと動きはじめました。
 激しく震え、伸び縮みして、一度ボールの形にもどると、ぷっくりとした羽のようなものが生えてきて……そして最終的に、光り輝くクリオネのような、天使のようなカタチになりました。
 さらに、頭の部分に、ぽん、と目鼻があらわれます。
 なかなか愛らしい姿です。

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「あなた、なにもの?………、 クリオネみたいな、う、宇宙人?」
 ママが言うと、光る物体は、腕のような翼のような部分をぱたぱたと振りながらうなづきました。

『そうだよ。今、そうなった。ミナサンが、さっきイメージしたからだヨ。そうだね、さっきは、誰かが、飛ぶなら透明のシャボン玉じゃなくて、宇宙船がイイって。だから、この宇宙船のイメージになったヨ。もしもミナサンが魔法のじゅうたんをイメージしてたラ、ここはじゅうたんになってタ』

「意味がわかんないわ。あなた魔法使いなの?」
 ママが聞くと、光る物体はくるくるとタテに回転しました。

『ちょっとちがウ。みんなの導き手、案内役のエネルギー体だヨ。この声は、声じゃなく、コトバでもなくテ、ミナサンの意識に直接、流れ込んでル』

 案内役? エネルギー体?
 いったいなにがなんやら。
 さっきまでぬくぬくとおうちで快適に過ごしていたテラダ一家は、不安げに顔を見合わせます。

 そんな様子にかまわず、エネルギー体は楽しげに言いました。

『アハ、エネルギー体じゃよびづらいよネ。コミュニケーションするのに、ナマエ、ニックネーム、あると便利ダネ。そうダ、ミナサン、ワタシに名前をつけテ!』

 クリオネのような光のカラダをきらめかせます。
「えっ、私たちが……あなたに名前を?」
 テラダ一家は、ふたたび顔を見合わせました。
 といっても、ふわふわ宇宙空間に浮きながらなので、バランスをとりつつなので、なかなか顔が見合わせられません。顔を合わせたくても、どうしてもおしりが浮いてしまいます。
 でも、じたばたしているうちに、両手をひろげて空気をおさえるようにすると、おしりがしずんで態勢が安定するのに気づきました。それでなんとか安定して顔を見合わせることができます。
 どうしよう? 何で名前をつけなきゃいけないのかな? そう相談していると、光のかたまりは言いました。

『エネルギー体たちは、巨大なエネルギーの一部。だから、個体としての意識、名前をもつ必要がナイ。だから、カタチや何と呼ばれるかは、あうヒト、あうバショ、そのときどきで変わル、いっときのもの。だから深く考えすぎず、フィーリングで適当にネ』

 フィーリングと言われても…………。
 丸いからマル君? さん付け? マルっち? クリオネみたいだからクリオーネ? ちょっと待って、このヒト、じゃなくて、これには性別とかあるの? いくら適当にと言われても、何か設定くらいは欲しい。

 その時、ケンタが手をあげました。
「えっと、じゃあ、ピカリィはどう? ピカピカしてるから」
「うわ、だっさ、っていうか、まんまゲームのキャラって感じじゃん」
 マコは顔をしかめます。
「うるさいなぁ。だったら、マコねえちゃんが決めてみなよ」
「えっ、急には考えつかないわよぉ、無理!」
 そこで、光はうれしそうにまたたきました。

『ピカリィ。いい名前だネ。気に入ったヨ。じゃあ、今からワタシはピカリィだヨ。よろしくネ』

「じゃあ、言わせてもらいますけどね、ピカリィ、せっかくの土曜日、リビングでダラダラくつろいでたのに、これはいったいどういうこと? 私たちに、何の用なの?」
 ママが怒り気味に言うと、

『テラダ家のミナサン、ちょうどいい具合に、さみしくないのがさみしいファミリー。だから今回の旅のメンバーに選んだヨ。その意味をわかってもらうために、これから、ミナサンの地球の現在を見せるネ』
 

 さみしくないのが、さみしいファミリー?
 みんな煙に巻かれた気持ちです。
 それがぴったりというので、旅のメンバーに選ばれた?
 いったい、どんな旅なのでしょうか・・・・

 その時、ピカリィの頭に、ポコッとふくらみが生まれ、それはピカピカ光る、小さなハート型になりました。
 え? と思って、みんなはマコを振り返ります。
 だって、ハート型は、ネットアイドルMACCORONのイメージ・モチーフですからね。
「あはっ。今のままじゃ、まんまクリオネだなって思って。ピカリィっていうなら、もっとピカピカしてなくちゃね。で、ちょっとデコってしまいましたぁ」
 ピースサインをするマコ。
「なんだ、おねえちゃん、ピカリィって名前、けっこう気に入ってるんじゃん」
 ケンタは少し得意そうです。

その3 ◆テラダ家の真実・よどんだその魂


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