テラダ一家の宇宙旅行 その 3◆テラダ家の真実・よどんだその魂



宇宙船はぐんぐん上昇していきます。
あっという間に、テラダ一家が住んでいる町を見下ろし、都市を、地方を見下ろし、そして日本や世界を見下ろせる大気圏にまで突入しました。
パパはぎゅっと目をつむり、ママは壁にはりつきます。
マコとケンタはアトラクションのようで、おおはしゃぎです。
だって、速度はすごいのに、とてもスムースで、衝撃も苦しさもないんですから。
「うわあ、地球だぁ」
「きれい…………」
目の前いっぱいにひろがる地球のクローズアップに、マコとケンタはためいきをつきます。

振動が止まったので、やっとパパは目を開けて、目の前の光景に目を見張りました。
「たしかに…………、これはキレイだな」

『これは、夜の部分の地球。光っているところは、電気がついているトコロ。街が栄えて、人がいっぱいいるネ』

「ええっと、あれがアメリカかな? あっちがヨーロッパで、あっちが中国。こっちがインド。…………日本は小さい国なのに、さすが、いっぱい明かりがついてるねえ」
しだいに宇宙船になれてきたパパが、得意げに解説します。
地球の大部分は海なので真っ黒なのですが、光源のある部分は、細かく光る粒をばらまいたようにキレイです。
大陸はあっても、人が住んでいなかったり、それほど文明が発達していないところは、くろぐろと闇に溶け込んでいます。

画像1

『以前は夜ともなれば、ほんとに真っ暗だったヨ。けど今の地球は、夜でもこんなにいっぱい明るいネ。………じゃあ、こんどは、電気の光源じゃなくて、ココロの光源を見てみよう。電気のあかりじゃなくて、人間のココロの明かりがついている、シアワセを感じている人たちの分布図だヨ』


 ピカリィがさっと翼のような腕のような部分を振ると、たちまち景色が変わり始めました。
 今まで輝いていた部分の明かりがどんどん消えていって、今まで暗かった場所にぽつぽつと光が灯り始めます。
 それはもう、びっくりするくらいの変化です。

『ホラ。光の分布が変わっていくヨ。電気をいっぱい使う都会のほうが人口が多いのに、しあわせを感じている人たちの割合は減っていく。今までまっくらだったところに、ぽつぽつとしあわせの灯りがふえていくネ』

「うーん。たしかに。自由で豊かな国でも、しあわせを感じられなくて、自殺する人が多いっていうなあ。交通事故より戦争より、自殺者が多いこともある、って」
「え、そうなのパパ? なんでなの?」
 ケンタがたずねると、それはネ、とピカリィは、少し身体をふくらませながら言います。

『豊かな国は、それだけ悩みも多いヨ。しあわせになるためには、いろんな条件やモノが必要。そのほかにもいっぱい理由はあるケド─────、最近では魂の老化も大きな原因だヨ。おもに電気を使った、現実じゃない世界や物語。バーチャルな世界に自分のエネルギーや時間をキブしすぎると、タマシイが老化していくんダ。自分じゃナニも行動していないのに、ぜんぶ知っている気になって行動力が吸い取られチャウ。冒険心もなくなル。たくさんの人に薄まったジブンを与え続けて、それと同時に、小さく小さく、深いさみしさをためこんでいく。そのうち、だれかと深く関わるチカラがなくなって、だれにも頼れない。つらい時にお互い支えあえない。ココロのブーメランが変な飛び方しちゃうから、批判ばかりで、ココロから感動できなくなって――ダークサイドに堕ちやすくなるんだヨ!』


 ぱたぱたと羽を羽ばたかせるピカリィのことばに、パパは眉をつりあげてにやりと笑いました。
「魂の老化? はーん、わかってきたぞ。これはあれだな、悪徳商法。あれこれおどして、最後には健康食品とかをどっさり買わせるつもりだろう? はっはっはっ。その手には乗らないぞ!」
 ピカリィは、一瞬、ゆっくり大きくまたたきました。

『パパさん、安心して。ピカリィの目的は、そんなコトなんかじゃナイ。でもネ、パパさん、もっともっと、不安にナッテ。さいきんのパパさん、仕事でもプライベートでも、パソコンばっかりしすぎダヨ。仕事や趣味だけじゃナイ。いろんなヒトの無責任な意見のタレナガシにも、時間とりすぎ。タマシイのこもっていない、人の経験や意見に時間やココロをつぎこめばつぎこむほど、魂はエネルギーを吸い取られて老化スル。パパさんのタマシイ、ちょっと運動不足のメタボ。あぶないレベルだヨ』

 うっ、とパパは少したじろぎます。
 あいかわらず怪しい言葉のオンパレードですが、魂のメタボは、なんだかイヤです。
 するとママが、
「ねえ、ネットとかテレビとか、どうしてダメなの? テレビには若返りの知識の番組とかもあるし、ためになるわよ。ネットにだって、役に立つ情報、いっぱいあるのに」

『ソウダネ、ママさん。たとえそれがどんなにおもしろくてタメになって、頭はよろこんでも、知るだけで満足してたラ、それはやっぱり、タマシイメタボになるってことだヨ。ちゃんと栄養にならないジャンクな情報をぱくぱく食べるだけじゃ、タマシイにとってはストレス。ココロのエネルギーが循環しないデショ。そして、どんどん衰え、老化すル

 老化と言われ、美容大好きなマコはぴくりと反応しました。
「そんなこと言っても、しょうがないじゃん。今はそういう時代なんだもん。仕事だって勉強だって、電気やネットなしではやっていけないし。それで老化って言われてもさぁ」
 ケンタも、大きな声で同意しました。
「そうだよ。今どき小学生だってスマホは必需品だし、それにゲームだって、すごく、すっごく大事だし!」


『うん。みんな、電気がダイスキ。ネットがないと、生きていけないみたいだネ』

 ピカリィは、濃かる身体をリズミカルにはずませながら、宇宙船の中を浮遊します。

『まさに今はそういう時代。それは必然、わかってル。この進化は止められない。便利だし恩恵はいっぱいあるんだネ。でも、だからコソ、どっぷりひたりきらないよう、魂のアンチエイジングが必要なんだヨ!! テラダ家のミナサン、ヤバスギール! それぞれ魂が老化して、よどんでル!』

「な、なに言うのよ。 私、まだ魂が老化なんてしてないわよ!」
「パパだって負けてないぞ。たしかにカラダはちょっとなまってるけど、気持ちはまだまだ若いんだ!」
「私だって、遊び盛りの高校生よ。老化なんてしてないっ」
「ボク、まだ小学生だよ。老化って言われても、それって困っちゃうな……」
 みんな、口々に反論します。

『そう。ミナサン、タマシイが淀んでいる自覚がないんだネ。肩こりと同じ、こっているのが当たり前で、すっきりした状態をわすれかけてル。それじゃ、ミナサンの魂の今の状態を、魂センサーで目に見えるようにするネ?』


◆テラダ家の真実・よどんだその魂


 ピカリィの身体が青白くなり、帯のようなひかりをみんなに向かってはなちました。
 熱さもなく、逆に、スウッと涼しさを感じる光の帯です。
 すると、ひかりを当てられたパパの肩の周りに、モヤーン………と、黒っぽい影のようなものがあらわれました。
「やだ。パパ、たいへん!! 肩のあたりに、大きな黒いものがひっついておんぶしてるわよ!!」
 パパはパパで、ママの頭を指さしています。
「そういうママは、頭だよ! ススみたいなものがママの頭をとりまいてる!!」
「えっ、ヤダ、ほんと!? きもちわるいっ」
 見ると、マコは胸のあたり、ケンタはお腹のあたりに、うじゃうじゃした黒いものがわきでているのでした。

『それが、魂の淀みだヨ。魂が老化して、詰まっているシルシ』

 みんな、なんとかふりはらおうとがんばるのですが、黒いモヤはいっこうに消えません。ピカリィは微笑むようにぱたぱたと羽ばたきました。

『これでわかってくれたかナ?』

 ピカリィが青白い光を放つのをやめると、どす黒いモヤが見えなくなり、みんなはホッとしました。
『安心して。ミナサンだけじゃない、最近は、たくさんのヒトの魂がよどんでるヨ。みんな、こういうよどみを抱え、魂の老化をくいとめないまま生活してル。だから魂の若返り。アンチエイジングしなくちゃネ』
「魂のアンチエイジング…………?」
 ママとマコが、同時に顔をかがかせます。
「そんなこと、できるの?」

《できます》

 落ち着いた、優し気な女の人の声が、宇宙船の上のほうから響いてきました。
《魂のアンチエイジングをすれば、心のサビが取れ、デトックスできて、身軽になれます。そして生まれた時から誰もが乗っている、死に向かう下りのエスカレーターから、少しのあいだ逆行して、浮き上がっていられるのです》
「んん!? なに、やさしいこの声? また新しい光の玉!?」
 みんなはあたりを見回します。
 するとピカリィが、

『ちがうヨ。この声はね、マザーヴォイス。この宇宙船をつくっているエネルギーそのものの声。これから、ミナサンを宇宙と魂の旅につれていってくれるヨ』

《はい。私はマザーヴォイスです。みなさん、よろしくお願いします》

 その声はとても優しく落ち着いていて、みんな思わず聞きほれてしまいます。
「はい、こちらこそよろしく」
 テラダ家のみんなは、こんなふうに宇宙船と会話したりする不思議な状況に、すでに慣れつつあるようです。

これから、どうなっていくのでしょうか・・・?

その4 ◆老化、そして死に向かう下りのエスカレーターとは


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?