見出し画像

たぶん、きっとね。(父を看取る。その一)

意識なくなってからたたみかけるありがとう 無駄かも、でも言わずにおれず

弱っても不平を垂れる頼もしさ あなたらしさと安堵したのに

延命を拒否していたのに 文明はやすやすと死ねる道は許さず

嫌である管人間になってでも その愚痴は言わぬ強さが辛い

握り返す手の感触は弱すぎて 逆に強く刻まれてしまう

酒厳禁 それでも良い酒で乾杯という 退院の望みついにかなわず

ICUはマスク着用ゆえ父の見た家族の最後の顔みなマスク顔

化粧水で父の足を拭き 伸びている爪にいのちと希望を見たのに

延命の管を外した父の口に スポイトで垂らすウィスキー五滴

せめて今生で最後にほろ酔いであって欲しい も少し前から飲ませればよかった

波乗りのように希望と絶望を翻弄されてた日々 それも終わりか

表情の読めぬ先生 打てる手はまだまだあると そこが残酷

言われてる数値と目の前の姿のギャップ これ以上はエゴだと思う

もうすでに彼の魂は旅に出ている これ以上呼び戻すのはこちらの執着

ええかっこしいの父の望まぬこの姿 忘れてあげる術はあるのか


きっちりと最後に訓戒を述べた父の気持ちは安らかだったかしら

すべてゼロに終息していく愛情も憎しみも無限大に溶けていく

親の死はあぶりだしのように自分の生 そのこもごもを容赦なく焼く

管を取る なるほど今は親族が寿命決めるのか、薄笑いする

先生も、賢明をくれた 疑えず 我々も鮮明にするしかない取るタイミング

たんたんと管を外し行く看護婦の非情と強さ いや、優しさだ、それは

延命をやめる 反転して我々が窒息の心地で励まし合ってる

手洗と水分補給をちゃんとして 我々は父の最後に備える

降圧剤飲んでた人が上を40切る このカウントダウンは震えが走る

お父さん 魂はいまどこにありますか? 今こそ快方より解放に向かえ

魂が抜けそうな母 見てやはり 父は確かに愛されていた

このシーン、オペラならまさに絶叫のアリア しかし無機質な機械の伴奏


脈のゼロになるのを顔よりもモニターを凝視する我々の不思議

父の手を握るわたしの手を握る この人をきっと大切にしよう

走馬灯は見守る側にも走りゆく 叫ぶ、少しでも巻きもどすように

真空に放り出されマヒする心地する マヒしなくては生きていかれず


この温もりが最後であるか冷えていくそれが恐くて、手を離すリアル

それは解放であったろう最後の息は 機械にまぎれて聞こえなかった


先生は出棺まで立ち会ってくれ 同じDNA皆も気をつけて、と言う

熱がでて 先に帰ったわたしもう あの先生とは会わないのだろう


内臓を吐きだすウミウシの心地  嗚呼 わたしの一部も今死んだのだ

その後の事務的なリアルたんたんと 離脱しわたしは眠ろうと思う

その後の事務的なリアルは醜悪か いや強引なリハビリと思う

酒で死にし父を看取りて後に飲む酒は ・・・彼の分まで飲んでるのですよ

嗚咽・波 冷え切った痛み だんだんと温もりに続く、たぶん、きっとね

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?