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八谷和彦 OpenSky2.0

ひとりで乗れるパーソナル・ジェット・グライダーを制作する、現在進行中のプロジェクトを見せる展覧会。

多くの場合、プロジェクトの過程を見せる展覧会は山積みにされた資料を黙読させたり、ドキュメント映像を無邪気に垂れ流したりして、味気のないものになりがちだけれど、この展覧会はそうしたトラップにはまることを免れている。それは、じっさいにフライト・シミュレーターを用いて飛行感覚を体感できる体験型の展示構成に工夫が見られるからだけではなく、なによりも「ぼくらが一番ほしいと思うタイプの飛行機を自分たちの手でつくろう」というコンセプトの磁力が強いからだろう。大空を自由に飛び回るという空想は、誰もが一度は思い描いたことのある普遍的なファンタジーであるだけに、その訴求力は絶大だ。

とはいえ、このプロジェクトの魅力は夢物語の実現に果敢に挑む、ドン・キホーテ的な性格にあるのではない。そうではなく、国家によってガンジガラメに規制された上、戦争と巨大資本に蹂躙されるがままの大空を自分たちの手に取り戻すことこそ、このプロジェクトの醍醐味である。それは、たとえば自動車に占有されている道路を路上パーティーによって取り返すreclaim the streetや自転車によって奪い返すcritical massのような活動に近いといえる(日本には高円寺の「素人の乱」がある)。

ファンタジーがファンタジーの強度を保ちつつ、同時に広い意味での政治的な実践に接続していること。相矛盾するかに見える両者を無理なく両立させているという意味で、オープンスカイはきわめてラディカルなアートなのだ。

初出:「artscape」2007年03月01日号

八谷和彦 OpenSky2.0
会期:2006年12月15日〜2007年3月11日
会場:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

※写真はすべて「八谷和彦 秋水とM-02J」展(2021年4月18日まで、無人島プロダクション)より。


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