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毒山凡太朗 「少女像」に絶対的な壁

ソウルの日本大使館前に設置された少女像。被害を受けた元慰安婦のハルモニ(おばあさん)たちの、少女時代を表した銅像である。設置した市民団体は慰安婦問題を記憶するためのモニュメントであると主張する一方、日本政府は外交公館の尊厳を著しく損なうとして、撤去を求めている。この銅像は、慰安婦問題が、今も解決していないことの象徴なのだ。

東京の画廊「青山|目黒」で毒山凡太朗の個展「Public archive」が催された。毒山は特定のイデオロギーを背景にすることなく、社会的政治的な問題に取り組む気鋭のアーティスト。この銅像の脇で日本政府による謝罪と賠償を求めて座り込みを続けている学生や元慰安婦と交流しながら制作した作品を発表した。

毒山は少女像を各方向から立体的に撮影したデータを、QRコードに置き換えて公開。観客はスマートフォンの専用アプリで読み取れば、そのデータを再現できる。さらに、その画像を拡大させたり、回転させたり、自在に動かしながら鑑賞できる。韓国の公共彫刻を日本の公共空間に接続したのである。

むろん、データはあくまでもデータにすぎない。彫刻の一部に刻まれた少女の影は、年を重ねた姿を映し出しているとも言われるが、その影はデータに反映されていない。そもそも現実の慰安婦問題を解決するわけでもない。しかし、そのイメージによって現実の慰安婦問題に私たちを導いたのは否定できない事実である。

毒山は、慰安婦にさせられたというハルモニに、現地で取材した映像も発表した。映像の中でハルモニは辛い経験を語るが、証言を拒むようなシーンもある。その「拒否」や沈黙の前では、どんなアートも無力であることを痛感させられた。だが、それが無意味であるわけではない。その超えようがない絶望的な壁に、私たちを直面させることができるのもまた、アートの効能だからだ。

その先は政治の問題だろう。毒山凡太朗はアートに可能なことを最大限に実現してみせた。

初出:「茨城新聞」2018年8月16日[共同通信配信]

毒山凡太朗「Public archive」
会期:2018年6月30日〜2018年7月14日
会場:青山|目黒

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