026:見えない壁 - 警察での日々
ブノアでの生活が続いて時間が徐々に経過すと、ここでの生活にも少しずつ慣れてきました。そして精神的にもかなり安定してきて、不安が消えないながらも徐々に普段の自分を取り戻しつつありました。
当然ですが、警察署にいるのは警察官ばかり。そういった意味では誰かに襲われたり、欺されたりする心配がないので少し安心です。日数が経過し、新しい環境に慣れてくると、心もかなり落ち着いてきました。
警察署は24時間体制なので、いつも誰かがいます。きちんと数えたわけではありませんでしたが、日中は5〜6名、夜間は2〜3名のシフトで、全部で15名くらいはいたと思います。
ングラさんとの出会い
その中の一人に、ングラさんという警察官がいました。彼はとても優しい人で、自分が勤務の時はいつもそばに来て、いろいろな話をして私を元気づけようとしてくれました。
「きっとヴィラが戻ってくるから、それまで頑張れ」
「ここから出られたら家に遊びに来い。家族と一緒に食事でもしよう」
「欲しいものがあったら買ってくるから、遠慮しないで言え」
など、いつも気にかけてくれいたのです。デンパサールの警察ではダディットがメッセンジャーとして現れて、ドン底から救い出してくれましたが、ングラさんは立場や方法は違っても、同じように私を支えてくれる存在だったと言えるでしょう。
ある時「マンゴーが好き」という話をしたら、次のシフトの時に早速買ってきてくれ、それ以来、時々マンゴーを差し入れしてくれるようになりました。その後私は、ブノアの警察からクロボカンの刑務所に移ることになるのですが、刑務所に移ってからも時々差し入れをしてくれて、それは私が帰国するまで続きました。
さらに、毎日のようにSNSでメッセージを送ってくれて、常に励まし続けてくれたのも、ブノアの警察官の中で彼ただ一人だけでした。多分、私は二度とバリ島に行くことはないと思いますが、もしも機会があれば彼にはもう一度会ってお礼を言いたいです。
自分を見つめ直す時間
バリ島では、至る所にお寺があって神様がお祀りされています。私が作ったホテルにも小さなお寺があり、そこに毎日のお供えをしてお祈りをしていましたが、ここにも同じような小さなお寺がありました。
時々弁護士が来て、ドラッグの件での裁判と、ヴィラをどうやって取り戻すかに関して打ち合わせをすることがありましたが、それ以外の日は特にやることがありません。そこで私は、毎日、朝・昼・晩とお寺でお祈り捧げることが日課になりました。
時間はどんどん過ぎていくのに、私にできることは何もなく、そして目に見える進展は何もない。バリ島での裁判がどんな風に行われるのかもわかりませんでしたが、何もしていないと不安ばかりが大きくなるでした。そんな日々の中、自分の気持ちを落ち着かせることができるのは、お祈りや瞑想などしかなかったのです。
これまでの人生で、ここまで何もしない(正確にはなにもできない)時間を過ごしたことはなかったかもしれません。私はできるだけ多くの時間を、これから起こって欲しいことをイメージしたり、それまでに学んできたことをもう一度整理したりするために使いました。
そのおかげで、ブノアの滞在中に私のメンタルはかなり安定したように思います。その後、刑務所に移されるという状況になった時でも正常な精神状態を保てたのは、こうして自分を見つめ直す時間があったからだと思います。
毎日、ほとんど同じことをして過ごしていましたが、心の状態は日を追うごとに良くなっていきました。
読んでいただいてありがとうございます。何かを感じてもらえたら嬉しいです。これまでの経験について本にしようと考えています。よろしければポチッと・・・。