019:八方ふさがり – 砕かれたかすかな希望
警察がやって来た朝は「説明すればなんとかなる」と思っていましたが、その日の夕方になるとガラっと変わり、まさにどうにもならない状況に陥っていました。
「こうなったら自分でなんとかするしかない」
そう思ってすぐに連絡をしたのは現地の弁護士事務所。電話をして事情を説明すると、すぐにスタッフが来て詳しい状況を確認してくれることになりました。電話を切ってからスタッフが到着するまでの間は、多分1時間もかからなかったと思います。でも、どうしたらよいか分からない状態で頭の中が混乱していた私にとっては、非常に長く感じられました。
来てくれたスタッフは日本人の女性でした。異国の警察の中で頼る人が誰もいない状況にある私にとって、同じ日本人がサポートしてくれるということは、それだけで大きな心の支えになりました。
私の話と警察からの説明で状況を把握した彼女は、まず弁護士に連絡をし、その後もしばらく何件も電話かけていました。誰にどんな要件で電話をしているのかも分かりませんでしたが、彼女が電話を終わるまで黙って隣で待っていました。
電話が一段落すると、彼女は私が置かれた状況や今後の対応などについて説明をしてくれました。
・インドネシアでは自分の持ち物からドラッグが発見された場合、それが自分のものかどうかは関係なく罪になる。そのまま何もしなければ確実に有罪(懲役刑)になる。
・ドラッグが発見されて逮捕された以上、裁判になる。仮に無実であっても自分だけの力ではどうにもならない。一日でも早く帰国するためには、弁護士を雇う必要がある。
バリでは、例えばホテルを建築する際の建築許可なども、担当の役人に幾ら払うかで処理されるスピードが大幅に違います。これはある意味「アジアの常識」と思っていましたが、まさか裁判でも同じようにお金がものを言うとは知りませんでした。
もしも日本なら、罪を犯した人はどれだけお金を払っても確実に有罪。そして、無実の罪なら、それをちゃんと証明することができれば無罪でしょう。法律の違いや警察や司法のシステムの違いはあっても、その点は同じだろうと思っていたのですが、インドネシアでは日本の常識は通用しないのです。
裁判と弁護士費用
後になって分かったことですが、インドネシアでは裁判の有罪・無罪はある程度「お金で買える」のです。私の場合も、部屋でドラッグが見つかった時にもしも警察に袖の下を払っていたら、その場で解放されていたかもしれません。まさに「地獄の沙汰も金次第」なのです。
弁護士事務所のスタッフは、弁護士の概算費用を教えてくれました。弁護士はどの国でも高いとは思いますが、インドネシアは日本に比べて非常に物価が安いので、「そうは言っても日本ほどではないだろう」と思っていたのですが、提示された金額を日本円に換算すると約150万円ほどになりました。
「思ったより高いけど・・・仕方ないか」
そう思ってスタッフの女性に話をすると何かが違う。そこで、もう一度計算をし直してみて驚きました。
「1,500万円!」
ひと桁違っていたのです。自分の部屋から全く身に覚えがないドラッグが出てきて、警察はその入手経路を調べもしない。そして無実の罪を証明するのはこっちの責任で、そのための費用が1,000万円以上!
しばらく呆然として言葉もでませんでした。日本で同じような裁判をするとして弁護士を頼んでも、間違いなくそんなにはかからないはずです。
なぜそんなに高いのか聞いてみると、裁判を有利に進めるためには警察・検察・裁判所などへの「袖の下」が必要で、さらに、報道機関にもお金を払って規制をかけるとのこと。そして、それぞれの対応は支払う金額によって大きく異なり、裁判にかかる期間も大幅に違ってくるのでした。
実際に、その後ドラッグで捕まった日本人青年に出会いましたが、彼は弁護士を雇うお金がないため裁判がなかなか進まず、逮捕されてから既に何年たっているのに未だに判決が出ていませんでした。
結局、すぐに解放されるだろうという当初の思惑は見事に外れ、長期戦へと突入するのは確実となりました。自分だけではどうすることもできず、何をどうしたら良いかもわからない状態の中、すぐに帰国するどころか「無事に帰国できるのだろうか?」という大きな不安に直面したのです。
それまで張り詰めていた緊張の糸が切れ、それと同時に一気に疲れと不安が襲ってきました。
読んでいただいてありがとうございます。何かを感じてもらえたら嬉しいです。これまでの経験について本にしようと考えています。よろしければポチッと・・・。