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032:再び同居人。リチャード登場

この部屋に移動してから一週間ほどしたある日、朝の点呼の後で出かけてお昼前に戻ってくると、部屋に同居人がいました

事前に何も聞いていなくて、突然のことでちょっとビックリです。ただ、B棟には既に空室はなく、私の部屋は他と比べても結構広い方だったので、この棟だったらこの部屋にくるのは仕方ない状況だったと思います。でも、ようやく少し環境に慣れてきたところだったので、「できれば一人が良いんだけどなぁ」というのが本音でした。

新しい同居人は穏やかで物静かな感じで、私より少し年上に見えるリチャードという名前のニュージーランド人。かなり長い間バリに住んでいるのですが、今回はマリファナ所持で捕まったとのこと。やはり外国人が逮捕される理由は、ドラッグが一番多いようです。

同じ部屋に二人で過ごす事になったため、今までと違ってちょっと気を遣わなければならなくなりました。私達の部屋にはテレビやオーディオはなかったので(同じ棟の何人かは持っていて、夜などは良く音が聞こえていました)お互いにうるさいようなことはありませんでしたが、それでも、一人の時とは違って、相手の生活リズムを考えて行動する必要があります。

例えば、自分ひとりだったときは日中部屋から出る際に、入り口のドアに南京錠をかけていました。手荷物は少ないとはいえ、誰でも好きに出入り出来る状態ではなにかと不安です。留守中に何かを盗まれるという心配をなくすために鍵をかけていたのですが、今度はリチャードがいて私一人ではないため少々勝手が違います。

彼は問題があるようには見えませんでしたが、でも、例えば私が出かけた後で彼が部屋を出る時に鍵をかけ忘れるということもあるかもしれないし、なにせここは犯罪者だらけの刑務所の中。とにかく問題が起こらないように、つねに先回りして注意しておく必要があるのです。正直なところ、彼に会った日は、二人になることによるデメリットしか思い浮かびませんでした。

突然の同居人。「リチャードって、いったいどんな人なんだろう?
と思い、その日の夜に食事をしながら彼といろいろ聞いてみました。

彼の話では彼は作家で、ちょうど3部作からなる本を書き終えたところとのこと。また、結構スピリチュアルな人のようで、毎日何度か瞑想をするようでした。また、マッサージもできて、作家に加えて仕事としてもやっていたようです。私はマッサージをしてもらうのが大好きなのですが、その話をしたら「少し落ち着いたらやってあげる」ということになり、それはちょっと嬉しいニュースでした(同じ部屋なので、いつでも好きな時にできる)。

実際に、それから数日後の夜、食事が終わってからマッサージをしてもらいました。時計は見ていませんでしたが、1時間ほどだったと思います。とても気持ちよくて、最初はいろいろな話をしていましたが、途中からは心地よくて眠ってしまいました。マッサージの技術が上手だったのはもちろんですが、彼のエネルギーが私に合ったんだと思います。

リチャードからのメッセージ

マッサージをしてもらった夜、私は彼に、バリでホテルを作ろうと思ったきっかけからここに来るまでのストーリーを話しました。

どんな思いでバリにホテルを作ろうと思ったのか。信頼していたパートナーに裏切られたことがどれだけショックだったか。そして、なんとかしてホテルの権利を取り戻したいことなど、私が話しをする間、彼は相づちを打ちながら黙って聞いていました。

そして私が話を終えると、ダディットがそうしてくれたように、彼もいくつかのメッセージをくれたのです。

「もしも」とか「たぶん」はダメ。自分の心で思うことがすべてを作る。こうなって欲しいと思うことがあったら、それを強く意図することが大切。

警察に捕まってから約1ヶ月。まだ裁判にもなっていなかったので、いったいいつになったら日本に帰れるのかもわからない。そして、刑務所の中は過去の常識が全く通じない別世界。もしも日本に帰ったとしても、ホテルのことがどうなるか全くの未知数。そんな状況の私に対して彼がかけてくれた言葉です。

人生は海のようなもの。とても深く、静かでそして安定している。いろいろ起こる良いこと、悪いことは波のようなもの。日々起こる出来事に一喜一憂せずにもっと大きな視点で捉えること。

人生において、毎日起こる出来事ひとつひとつを全て思い通りにすることはできません。でも、「波のような日々の出来事」に左右されるのではなく、最終的にどうなりたいのかをイメージし意図することがとても大切ということです。リチャードの言葉でそのことをあらためて感じることができ、そしてとても力づけられました。

起こった出来事はプラスに受け止める

この部屋に同居人がきたとき、正直なところ最初は「せっかく一人で過ごしていたのに嫌だなぁ」と思いました。でも、リチャードと話をすればするほど、彼の人間性の良さが伝わって来て、彼との出会いに感謝するようになりました。

最初は「なんでそうなるんだ?」と、否定したくなるような出来事も、後から振り返った時に「あの事があって良かった」と思うことがあるんだと、あらためて実感できる出来事でした。

環境が変わると、どうしても不安な気持ちになってしまうものです。特に、一人きりで誰も話をする相手がいないとなおさらです。そんな私にとって、彼はまさに絶妙なタイミングで現れてくれました。そして、それ以来ずっと、私がここを出るまでの間良きサポーターとなってくれたのでした。

読んでいただいてありがとうございます。何かを感じてもらえたら嬉しいです。これまでの経験について本にしようと考えています。よろしければポチッと・・・。