005:ベトナムでの出会いが人生を変えた
ベトナムに行くことを決めた数ヶ月後、以前から会ってみたいと思っていたNさんに出会う機会がありました。彼はビジネスで大成功して自由を手に入れ、世界中を旅して楽しんでいるとても素敵な方。実際に直接会って話をするのは初めてでしたが、とても素晴らしい感性を持っている方です。
一緒に食事をしながら彼にベトナムに行くことを話すと、
「ベトナムに行くなら、絶対にシクロに乗った方が良いよ」
とアドバイスをもらいました。シクロとはいわば「自転車タクシー」で、前側に座席があり、後ろで運転手が自転車をこいで進む乗り物です。ただ、どのガイドブックにも「シクロはトラブルが多く、観光客は利用しない方が良い」と書かれており、彼の話を聞くまで全く利用する予定はありませんでした。
「なぜシクロに乗った方が良いのか?」と質問すると、彼はこう答えました。
「シクロは歩くよりも速く程よい速度で進む。車だと一瞬で通り過ぎてしまう景色がゆっくりと、歩くよりも少し上のちょうどよい目線で味わえるんだ」
彼はベトナムでシクロに乗ったときの体験も話してくれましたが、話を聞いているとまさに目の前にその時の情景が拡がってくるようで、シクロに乗っている私がリアルにイメージできました。
ガイドブックに「乗るな!」と書いてあってもお構いなし。その場で「ベトナムに行ったら絶対にシクロに乗ろう!」と決めました。ガイドブックよりも口コミの方が当てになることが多いですが、それが素晴らしい感性を持った人からであればなおさらです。人生を楽しく生きるコツのひとつは、自分よりも経験が多い人からのアドバイスに従ってみることだと思います。
そして訪れた初めてのベトナム。初日の朝にホテルから出ると、ホテルの正面にいた二人組のシクロのドライバーに声をかけられました。
「どこから来たの?」
「日本から」
「おー!実は僕たちのママが日本にいるんだ!」
どう見ても完全にベトナム人。おまけに顔つきも背格好も違っていて兄弟にすら見えない二人。そんな二人が「僕らのママが日本にいる」と言ってくる。もう怪しさしか感じません。
「こうやって観光客を騙すんだな。注意しなきゃ」
と思いながらも、警戒しながらとりあえず話を聞いてみることに。すると、二人のうち一人がおもむろに手紙を取り出し、私に手渡しながら言いました。
「これがママからの手紙なんだ」
事前に「日本からの手紙だと言って、手紙のコピーを差し出して信用させようとするのも欺しの手口のひとつ」と聞いていたので、「あ、きたきた!」という感じで、とにかくこの人は即座に断ろうと考えながら、手紙を手にしました。ところがよく見てみると、彼が手にしている手紙はコピーではなく直筆で、さらに驚いたことに、差出人は私の家のすぐ近くに住んでいる方だったのです。
詳しく話を聞いてみると、想像したとおり二人は兄弟ではなく、日本の「ママ」といっていたのは、経済的に援助をしてくれている人という意味だったのです。もともと非常に貧しい生活をしていた彼らは、そのママの援助のおかげで、生活が向上して水上生活から陸に上がることが出来たとのこと。そして子供を学校に通わせることもできるようになったそうで、本当に心から感謝をしているのが伝わってきました。
しばらく話を聞くうちに、「ここで出会ったのも何かの縁かもしれないな」と思い、彼らのシクロを利用することにしたのです。
運命の出会いは偶然のように起こる
誰でも、起こった時にはなんでもない普通に感じられる出来事が、後から振り返ると人生の大きな転機だったという経験があるはずです。
Nさんとの出会い。それによるシクロの二人との出会い。彼らをサポートしている日本人がすぐ近くに住んでいたという偶然。これらは何か運命的な出会いのように感じられました。もしかしたら、これは何か意味があるのかもしれない。漠然とそんな風に感じました。
そして実際にその後、運命的に引き寄せられたような彼らとの出会いが、人生最大の出来事へと繋がっていきます。
二人ともとても誠実で、会う度にどんどんお互いの距離が縮まり、それと共に彼らの真面目で一生懸命なところに惹かれていきました。彼らもそう感じたようで、私が日本に帰る前日に自宅での食事に招待してくれたのです。
招待してくれたことは心から嬉しかったのですが、本音を言うと、最初は現地の人の家で食事をすることにとても不安を感じました。地元のレストランで食事をしてもお腹を壊してしまうことがあるのに、現地の人の家に行って平気だろうか?そうは思いましたが、またとない機会だし、彼らの誠意も無にしたくなかったため、ありがたく招待を受け入れることにしました。
彼らの家に行ってみると、確かに水上生活からは脱していましたが、決して裕福な家庭ではなく、どちらかといえばギリギリの生活に感じられました。家には彼らの家族が全員そろい、たくさんの手料理が並んでいましたが、それらの料理はその場にはちょっと不釣り合いなくらい立派で、日本からのゲストに対して精一杯のおもてなしをしようという気持ちが伝わってきました。
彼らとの食事は本当に楽しい時間でした。とても心が満たされて豊かな気持ちになり、私にとって忘れられない体験となりました。
二人と過ごした数日間であらためて実感したことがありました。それは「日本に生まれて本当に良かった」ということです。日本は何をするにも自由で、自分で努力をすれば自らが望む生活をすることが出来る。それまでは当たり前と思っていたことですが、そんな自由がない二人に会ったことで心から感謝の思いが生まれました。
もしも私が彼らと同じ環境に生まれていたら、今と同じだけの努力をしてもこのような生活を手にすることは出来なかったはずです。
そのことに気付いたとき、それまでなかった気持ちが心の中に灯りました。それは「途上国に住む彼らのような人達のために何かをしたい」という思いで、それはそれからどんどん大きくなり、遂には私をビジョンへと導いてくれるのです。
読んでいただいてありがとうございます。何かを感じてもらえたら嬉しいです。これまでの経験について本にしようと考えています。よろしければポチッと・・・。