025:本当の自由とはなにか
毎日、日中だけでも部屋から外に出て自由に行動することができる。それは本当にありがたいことでした。
警察の建物は塀で囲まれていますが、出入り口には門も扉もなくいつも開放されています。でも、警察の敷地とその向こうの世界の間には目に見えない、決して超えることができない大きな壁があるのです。手錠をされていなくて、自由に動くことはできるけれど、それは「目に見えない壁の中」でのみ許される自由なのです。
本当の自由とはなんだろう?
私はこの時、それまで自分が思っていた「自由」と、本当の意味での「自由」は違うんだということを実感しました。
失って、初めてわかること
それまでは「自由」というと、好きな時に好きなことができる時間や、好きなものを手に入れることができる経済的な自由があることだと思っていました。つまり、時間や経済力を手に入れることが自由を手にすることだと考えていたのです。
でも、この時の体験で自由の意味は大きく変わりました。ここでは自分がやりたいことをするという自由がありません。仮に私が億万長者だったとしても、好きな時に一杯のコーヒーを買いに行くこともできない。そのような自由は与えられていないのです。
警察ででは食事は出ないので、拘留されてからは毎日昼と夕方の二度、弁護士事務所のスタッフが日本食のお弁当を運んできてくれました。お弁当を作ってくれていたのは日本人がオーナーのレストランで、毎食とても美味しかったのですが、メニューのリクエストは一切できませんでした。そして、警察に届けられる時間もそれを運んでくれる事務所のスタッフ次第。こちらから指定はできず、日によって時間もまちまちでした。
また、バリの水道水は飲めないので、飲み水はミネラルウォーターの大きなタンクでした。タンクの残りが少なくなるとスタッフにお願いして新しいタンクを届けてもらうのですが、ある時、頼んでいたタンクが遅れたことがありました。どんどん少なくなっていく水を見ている時、
「飲み水がなくなってしまったらどうしよう」
という不安が込み上げてきました。もしも水がなくなってしまったとしても自分で買いに行くことはできません。できることはスタッフを待ち続けることだけで、目の前の道との間にある「目に見えない壁」を越えることはできないのです。
この時、自分の行動の自由を奪われるのがどれほど大きなストレスになるのかを実感しました。そして、それまでの自分がいかに自由だったかに気付いたのです。
それまでの私は、やりたいことがいつでも好きなときに、好きなだけできていたというわけではありません。欲しいものがなんでも手に入っていたわけでもありません。でも、少なくとも全ての行動を自分で選択する自由はありました。当然経済的・時間的な制限はありましたが、食べたいものを食べ、行きたいところに行き、やりたいことをやることはできた。そんな、ずっと当たり前と思っていたことがここでは何ひとつできないのです。
自分でやりたいことを自分で選択するという自由を失って初めて、それまでの自分がいかに恵まれていたのかということを、心の底から実感しました。
モノへの執着がなくなった
欲しいモノが自由に手に入らない状況に置かれると、どうしても「モノ」に執着しがちです。ある時、所長室でマンディ(水浴び)をしている時に、
自分がたったひとつしか持っていないものを、他の誰かが必要としていたらどうするだろう?
ということを考えました。
以前の私だったら「自分が使う時のために取っておく」と考えたでしょう。でも、その時の私には、ちょっと違った思いが浮かんできました。それは、
「その時にそれを自分が持っていたのは偶然ではなく、宇宙の大きな力によるものである。必要な人に分け与えよう」
というものでした。
自分が持っていたのが偶然ではなく必然だとしたら、仮にたったひとつのものでも分け与えることができる。もしもそれが自分が本当に必要なものだとしたら、仮にそれを手放したとしても、きっと必要なタイミングで再びそれを手にすることができるからです。
与える時に見返りを期待するのではなく、全てが大いなる力、大いなる流れの中で起こっていることを信じてとにかく与える事、そしてその流れを信じることが大切なんだ、という思いが浮かんできたのです。
この思いが浮かんできてから、不自由な環境にいることに対する不安がすっと消えていくように感じました。
全てのことは感謝に値すること
当たり前と思っていた自由が、実は当たり前ではなかった。そう思えたのはこの体験のおかげで、それは非常に貴重な体験でした。そして、このことを通じて
「どんなことも当たり前ということはなく、全て感謝に値する」
と思えるようになったのです。「普通のこと」「当たり前のこと」など何一つないと考えられると、日々普通に生活できていることもありがたいことなんだと感じられるようになります。それに気付いてから、毎日どんなときも幸福感に満たされて過ごせるようになり、そしてそれは今でも続いています。
読んでいただいてありがとうございます。何かを感じてもらえたら嬉しいです。これまでの経験について本にしようと考えています。よろしければポチッと・・・。