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020:二つのトラブル

警察に連行されて少し時間が経つと、ようやく自分の状況を冷静に観察する余裕が出てきました。一番大きな疑問は「そもそも、なぜ私の部屋にドラッグがあったのか」ということです。

私の部屋はホテルの敷地内にありましたが、入り口は通路に面していたため外出するときは必ず鍵をかけていました。私が部屋を留守にしている時に部屋に入れるのはホテルのスタッフだけ。

逆の言い方をすれば、スタッフなら私の留守中に私の部屋にドラッグを持ち込むことも簡単にできるということです。考えてみればあたりまえの事なのですが、捕まった時、まさかスタッフの誰かがそんなことをしたとは考えられませんでした。そうすることのメリットが何もないと思ったからです。

しかし時間が経つにつれて事態の全貌が明らかになってくると、その考えは大きな間違いだったことが分かってきました。

明らかになった陰謀

警察に拘留されてからしばらくの間、ホテルのスタッフは私のことを全面的にサポートしてくれていました。毎日スタッフの誰かが必ず面会に来て、必要なものを届けてくれたり、服の洗濯などを行ってくれたりしていたのです。弁護士事務所には主に警察に対する対応を依頼し、生活する上で必要なことはホテル側で対応してもらっていましたが、非常に協力的でした。

しかし、弁護士がいろいろ調査を進めてい中で、ある意外な事実が浮かび上がってきたのです。それは、ホテルの名義についてでした。

ホテルの建設資金の大半は日本からの出資金だったので、ホテルの名義は私が代表を努める会社のものになっていました。弁護士が詳しく調べてみると、確かにその会社は私の名義で登記されているのですが、実は非常に似た名前の会社がもう一つ登記されており、その会社の代表はパートナーであったマネージャーとなっていました。私の会社の名義になっていると思っていた(実際に、彼は私に何度もそう説明していました)ホテルは、あろうことか彼の個人企業の所有になっていたのです。

弁護士からそこのことを伝えられたとき、私はすぐには現実を受け入れるられませんでした。それが本当なら、全ての陰謀はホテルを作ろうと決めた初期の段階から計画的に行われていたことを意味するからです。

・彼に初めて出会った時に二人で夢を語ったのは全て嘘だったのか。
・協力者してくれた人達への感謝や笑顔もすべて作り物だったのか。
・オープニングパーティで喜びを分かち合ったのはなんだったのか。

完成したヴィラを眺めながら二人で「遂に完成したね」と喜び合ったあの瞬間も、実はその裏で着々と陰謀が進められていたなんて・・・。

ドラッグを仕込んだのは・・・

ずっと二人で同じ気持ちで、同じ夢を目指してきたと思っていたのに、彼は最初からホテルを自分だけのものにしようと画策をしていた。それはすぐには受け入れがたい事実でした。

私は、信頼していたパートナーに裏切られたことよりも、あの数年間が全てウソだったという事実の方がショックでした。私が「ホテルをオープンしたい」と思ったのは、本当にバリの人達のことを思ったからでした。日本人である私がそう思っていたのに、バリ人である彼は自分の利益しか考えいなかった。そのことも非常に残念で悲しいことでした。

全ての事実が明らかになった今となっては、ドラッグを誰が何の目的で私の部屋に持ち込んだのかは明らかです。彼はホテルを自分のものにしただけでは満足できず、刑務所に送ることで私という存在そのものを消し、全てを自分の思い通りに進めたかったに違いありません。

ドラッグ所持の問題を解決するだけでも大変なことなのに、更にもうひとつ、ヴィラの所有権をどうやって取り戻すのかという大きな問題にも直面することになったのです。

読んでいただいてありがとうございます。何かを感じてもらえたら嬉しいです。これまでの経験について本にしようと考えています。よろしければポチッと・・・。