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簡単に諦めるのはけしからん!登大遊     ~世界をリードするICT人材育成のカギ~

◇「情熱大陸 登大遊」を見逃した!

 2021年2月7日放送の「情熱大陸 登大遊[ サイバー技術開発集団 統括 ]」の回が見たい。

 ツイッターで流れてきた『(CEATEC出展)「シン・テレワークシステム」おもしろ開発秘話』を見て、癖の強い感じの登大遊(のぼり だいゆう)さんのことがもっと知りたくなってしまった。2021年2月7日の情熱大陸で放送されているとのこと。

 最近は、放送後1週間なら無料視聴できるサイトが増えてきている。TVerとか。ところが、今日は2月15日。無料見逃しの1週間を超えてしまい、見れない。諦められないので、YouTubeにあがってる動画を何度も何度も観て、内容を文字起こししてしまいまいた。

 以下は、2020年10月22日12:30~13:30で配信された(CEATEC出展)「シン・テレワークシステム」おもしろ開発秘話の動画をベースにしました。こちらが聞きやすいのですが、2020年12月4日19:30~21:00で開催された日本におけるDX実現のヒントをつかめ!-「シン・テレワークシステム」開発秘話をヒントには、内容はほぼ同じですが、更に話が盛り込まれていて面白いです。途中音声が切れているので、字幕をオンにして、Internet Week 2020で使われた資料を見ながら観てください。登マニアは、当然両方観ましょう。

 PDF資料「C41 日本のけしからん組織の人材がシン・テレワークシステムやSoftEther VPNのようなおもしろICT技術を作る例が増えると各社で自然発生する正常な現象について」」

◇極限的プログラミングスキルについて

  日本には、OS、クラウド、通信、セキュリティ等のプラットフォーム技術や産業を自ら生み出せる人材がいない。これは、国家的問題で、どうすれば日本でも育成できるか?その答えは以下の2つにある。

その1.自律的なコンピュータ・プログラミング環境の重要性

その2.自律的なネットワーク環境の重要性

 世の中はゼロリスクが正しいと思っているが、これだと進歩について行けずに必ず破綻してしまう。行政のゼロリスク職場が破綻しないのは、税金の収入に頼ってるから。カオスな状態では破綻してしまうのは当然なので、答えはゼロリスクとカオスの間の絶妙な中庸のバランスに基づいた「けったいなこうい」というのがあって、そのぎりぎりを攻めていくのが正解だと思う。

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 システムソフトウエアは、生物の細胞や神経回路のようになっている。全体は、自然な流れで発生するモジュールがつながりあって出来上がっている。生物のように程よくカオスで程よくシンプル。

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 システムソフトウエアを作るエンジニアは、人類が経験した最も難しい部類の作業をやっている。潜在的能力がある人も、日本の大企業、お役所で仕事を始めると、ガバナンスおじさんがやってきて説明を求めたり、文書化させるので、せっかく思い描いていたぼやっとした繊細なアイデアが全部失われてしまう。極限の難しさを扱う場所がICTの中でも必要で、100人の中で10人か20人でいいので、この領域をやるべきだと思う。これを自然に育てて成功したのがアメリカやイスラエル、ヨーロッパ、中国。日本は、これから20年かけて世界一になると思うが、そのためには環境作りが重要となる。

◇自律的なコンピュータ・プログラミング環境の重要性

 2003年、経済産業省・IPAの事業「未踏」に採択され300万円の国の予算でVPNを作ります。この事業のいいところは、予算だけでなく、説教(竹内郁雄先生)がついてくるのです。自宅ラックでけしからんSoftEtherを作ったら、2003年12月に経済産業省から配布停止を要請される。理由は、導入が簡単で、VPN性能が強力すぎるから。危ないから、2007年には、経済産業大臣表彰をいただき、それ以降は、これはいいものだということになった。

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 2004年に、筑波大の中で自由に遊べる環境を作ろうとしたのですが、機材も小遣いもない。学内の廃棄日にサーバー、NW機器を大量に拾い集め、大学側と交渉し、機材、NW構築スペースとインターネットまでの直結回線を入手したが、まだ環境が十分でなかった。

 2006年、内閣官房情報セキュリティセンター(NISC)からの無理難題のネットワークプロトコルスタックの研究開発に参加して、予算と説教(伝説の山口英先生)がついてきた。このけしからん苦行のおかげで、無理難題をすんなり開発できる能力と、コンピュータ・ネットワークの機材拡充を実現。

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 2007年、慶應義塾大学、村井純教授(WIDEプロジェクト)が面白いという噂を聞き、夜中に見学し、その設備に感化される。Yahoo!オークションや大学廃棄で多数の機材を調達し、居室ももらうが、40平方メートルに10人と狭い。

 2008年、情報通信技術 (IT)担当大臣、松田岩男先生が部屋を視察に来られて、「君らはもっとちゃんとやらないといかんじゃないか!」と説教をもらったので、大学から新しい部屋(120平方メートル)をもらう。

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 2012年、某国の超大規模検閲用FWシステムが、筑波大のサーバーを遮断対象としてきたので、これはけしからん、すばらしいとGFWを分析・研究する。SoftEther VPNを拡張し、大規模分散システムを作り、検閲用巨大ファイアウォール Great Firewall に耐性のあるサイバー技術「VPN Gate」を開発した。これをUSENIX NSDI 2014 Seattleで論文発表して評価をもらった(筆頭著者日本人として初めて)。現在では、某国もSoftEtherを使ってサイバー攻撃をしているらしい。

 2016年、独立行政法人情報推進機構(IPA)に産業サイバーセキュリティセンターを建立し運営することになったが。次世代ICT人材育成のための環境であるのに、URLフィルターやファイアウォールを入れないといけなくなる。ファイアウォールを研究するのに、ファイアウォールがあっては研究できない。この現象は、国内のいろんなところで起こっているが、外国の若手エンジニアに勝てない。ルールを変えていかなければならない。

◇自律的なネットワーク環境の重要性

 モナコ公国と同じ広さを持つ筑波大学のキャンパスの1室に、情報系の学生が集まる部屋があり、ハッカーらしき学生たちが出入りしている。その学生たちは、コンピューターが好きなので、単位がとれない。筑波大学のけしからん成績管理システムについて調べたら、VPNが使われていた。けしからんVPNの研究を始めたら、そっちの方が面白くなって、もっといいVPNを作ろうとしたのが、SoftEtherを作るきっかけ。もちろん、成績改ざんは法律違反なのでやってません。

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 SoftEther社を立てた後に、やる気がなくなって、ハムスターを飼ってたら、大学にばれて、愛玩動物の飼育は禁止すると張り紙を貼られた。その紙には「実験動物は除く」とあったので、ハムスターにグローバルIPアドレスを振って実験動物だってことで、ネット中継を始めた。その頃、ネット中継しているところはほとんどなかったので、2chで大人気となり、同時接続数数百人で、500Mbpsくらいトラフィックを使い、学内ネットが落ちると苦情がた。ネットが落ちるのはけしからんファイアウォールのせいなので、それを迂回するため、屋上にLANケーブルを引いていたら、学生が屋上にLANケーブルを引くのは危ないと言われたが、光ケーブルなら雷が落ちても安全だからいいと言われたので、無断工事クラブを立ち上げ、大学の中に光ケーブルを引きまくり、公開VPNサーバーを学内に多数設置しました。

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 世界中から年に1000万ユニークユーザーくらい使われてたが、数件悪用されることがあり、警察から捜査令状が大学に届き、大学の総務部から怪しい研究はけしからんからやめてくれと言われる。総務部が学生の実験の中止を求めるは本当にけしからんことです。やっつけるには、大学の先輩がホームページに書いていた学長室につながる秘密の通路をたどっていって驚かしたらいいんじゃないかと行ってみたら、本当に大学の地下に総延長14kmにわたる共同溝があった。そしたら、もう総務部の話はどうでもよくなって、共同溝を調べることにしました。

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 共同溝の中を光ファイバーが通っているのを見つけたので、地図をつくっていきました。その中にNTT東日本のファイバーを見つけたのですが、それを辿っていくと、一番南がそれ以上人が通れない空間になっていて、「あー隠してるな」と。この先が一番面白いんじゃないかと思って、この先はどうなっているんですかとNTTの営業の人に訊いたら、東京初台の相互接続推進部に行きなさいと言われ、行ってみたら、歓迎されて色々説明をしてもらった。

 コロケーション(電話局の中のラック)を借りたり、ダークファイバー(未使用状態にあるケーブル)を借りたりしてNTT東日本の設備で遊んでいて、面白いので、NTTつくば、水戸、銀座、池袋ビルなどどんどん自分のラックを設置して自前ネットワークを設置していった。この超高速低遅延ネットワークが現在「シン・テレワークシステム」の基盤となっています。

 NTT東日本のマニア(NTT東好きとか局舎が好き)は、フレッツの故障の際は作業員さんと一緒に電話局に入って工事を眺めたりして、電話局の中の配線や地下道での工事も、NTT作業員さんたちと同じくらい詳しくなった。

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 2016年11月に、なぜかNTT持株本社で「けしからんNTT東日本について」というプレゼンを行うことになった。なにがけしからんかというと、フレッツの拠点間通信の遅延を解決するために、フレッツ内にIPv6のDDNSサーバーを置かして欲しいと言ったら、NTT東日本は独裁ネットワークなので、デススター(初台本社)に連れていかれて、ダースベイダー(回線大王の山口肇征氏)からダークサイド(できない理由)を説かれた。ダークサイドはけしからんので、やっつけるためにドキュメントをたくさん書いたり、電話局を称える記念切手を作ったり、電話お化けをやっつけるゲームも作った。結果、NGN内に無償DDNSを作ってみました。

 NTT東日本は、世界最大級のコンピュータ・ネットワーク環境を持っているので、日本における高度なICT人材育成の環境として使えるようになれば、日本でも世界最大級のICT能力の成長、ICT技術の創出、世界への普及が可能である。

 ところが、ネットワークの仕組みを調べようとネットワーク装置のポートに接続したり、装置を改良しようとしたり、勝手に拡張しようとすると警報が鳴って止められる。大学では新しい試みをすると褒められるのに、NTT東日本の社員になったら怒られる。日本のけしからんICT事業者は全てこのようになっていて、イノベーティブなICTサービスの研究開発のためには、大学の学生の気質を思い起こす必要がある。

 ちょうどその頃(2016年)、経済産業省から「遊んでいないで国のためにサイバーセキュリティやれ!」と言われた。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)で「サイバーセキュリティセンター」を建立し運営することになったが苦行の連続だったが、その予算でフルルート(インターネット直結)の大規模なネットワーク実験環境を作ることができた。また、東京23区内インチキ自作ネットワークも拡張し、人材育成基盤とした。

 親交のある某SBグループのラーメンおじさんの紹介で、先のダースベイダーこと、NTT東日本の回線大王・山口肇征さんが持ってきたのは「でんでん」という歌って踊るロボットだった。そして、フレッツ回線と接続すれば電話も掛けられる。

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 こんなよくわからんものがあるのはすばらしい、面白計画を実現して、将来のICT人材を作る環境が作れるのではないかと思い入社できるか相談したが、既に3つの苦行を続けているので常勤はできない。それまでになかった非常勤社員の制度と「特殊局」という新しい部署を半年で作ってもらい、2020年4月1日に入社して4つ目の苦行を始めることができた。

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 さあ、面白いたずらをやるぞと思ったら「シン・テレワークシステム」(Thin Telework System)を作ることになった。これは、これまで遊んできた全部がないと2週間で作れなかった。世界と競っていくためには、こういうことをもっと大人数がやれば自然と出てくる。そのカギを握っているのが、NTT東日本やIPA、総務省研究所というところだと思う。

 「シン・テレワークシステム」は、ラズベリー・パイを組み合わせて出来上がっている。通信装置を自分たちで作るということも、これから新しいことを始めるためには復活する可能性がある。

 なんでこんなヘンな代物が出来たのか?プログラムと通信の融合によるものです。

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◇ICT人材育成法スーパーまとめ

1.ICT人材には、普段使っているシステムの裏側を分析し、知ろうとする欲求がある。この欲求を満たすには、低レイヤへのアクセスが必須である。

2.情報処理(プログラミング)と、通信(ネットワーク)の両方について、直接触れて自律的に構築・改良できる試行錯誤環境は、ICT人材の育成のために、極めて重要である。

3.国、大学、NTT東日本等は、豊富な面白い環境を有している。10~20年スケールでの人材育成には、これらの豊富な面白い環境を活用し、若手ICT人材がこれらを用いて色々な試行錯誤ができるようにすることが重要である。

4.けしからんと思ったときは、放置してはならない。納得がいくまで追求しようとすることで、偶然に思わぬ道が開ける。それが、だいたい正しい方向である。

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◇けしからん90年代を思い出そう

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 90年代は、混沌とした、けしからんソフトの中で技術力を高めていった。2000年以降の20年間は、その頃作られた技術を回して動いている。これからは、新しいものを作らないとメシが食べれなくなっている。20年代は、もう一度90年代の精神を思い出して、色々なものを作るというのが良いことだと思うのです。

◆感想

 登さんとNTT東日本のファンになってしまいました。うちの通信回線も、フレッツに契約しなおそうと思いました。

 今の人は想像できないでしょうが、90年初期のインターネットは、PCを買ってきたままでは使えません。Windows3.1ですから、インターネット通信機能は標準ではできなくて、ソフトも機材も調べて入手し、自分で組み込まないといけない。インターネット機能が標準で入ったWindows95や、Yahoo!もGoogle検索などが出てきて、ネットサーフィンが快適になるのは90年代後半です。それまではどうやってホームページを探すかというと、URLアドレスの書かれた電話帳のような本とか、パソコン雑誌を買ってきて、そこに書かれたアドレスを入力します。そんな中不便な面白ツールをいじりながら、色々な仕掛けを考えて作ったり、もっと面白いものがないか手探りで探すのが楽しい時代でした。けしからんものも多数ありましたし、怪しいものも多数ありました。

 今や、ネットの世界も、現実世界と同様に、危ない場所には柵が作られ、危険の張り紙がされ、それを守らないと社会的な罰を受けることになってしまいました。子供は、全て安全が保障された世界では学べないもの、危険を経験して得られるものもあります。ゼロリスクとカオスの中庸である「けしからんいたずら」のできる自由な砂場(ネットワーク環境)と自由に遊べるおもちゃ箱(プログラミング環境と機材)を作るのは、とても健全で重要なことだと思いました。そして、そこは、こどもだけでなく、おとなだって遊べるはずです。

 最後に、ここが登さんの特別すばらしいところなのですが、このような壮大なことを自分たちの手で実現しようしているところです。ここで出てくる話のすべてで、誰かにお願いするのではなく、どんどん奥まで入り込み、壁に当たっても諦めることなく全てにおいて自分たちで作ってゆこうとする姿勢が回りの人を動かすのです。まったくけしからんのですが、すばらしいのです。

◆参考記事 

CTEC2020「テレワーク環境を変革した“夢のシステム”は、なぜ2週間で完成したのか 天才プログラマーが語る理由

「けしからん発想」が創造性を生む 天才プログラマー・登大遊氏が語る「シン・テレワークシステム」開発秘話

【登大遊】「みんなすぐに諦め過ぎ」約2週間で『シン・テレワークシステム』を開発した天才プログラマーの“粘り力”


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