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魁!! テレビ塾 第1訓『2013FNS歌謡祭』

【注記】
これは、学研「GetNavi」2014年2月号〜2017年5月号に連載していたテレビ評コラムの再録です。番組データ、放送内容はすべて掲載当時のものです。私の主張や持論も現在では変化している点が多々ありますが、本文は当時のまま掲載し、文末に2023年現在の寸評を追記しました。

テレビはつまらないのではなく
最高に俗悪なドラッグなのだ!

 押忍!! ワシが当テレビ塾塾長、福田フクスケである!

 「最近テレビ全然見ないわ〜」とか言って“意識高い俺”を気取っている読者諸君! 確かにテレビは下衆で下世話だ。薄っぺらで不謹慎で悪趣味きわまりないとも思う。

 たとえば昨年末の『2013FNS歌謡祭』で見せた、華原朋美&小室哲哉の久々の共演。2人の破局、その後の朋ちゃんの顛末と復活を知る者にとって、「ずっと前から あなたをきっと見ていた」と歌い上げる彼女の姿は、うっとりするほど神々しくて、そしてえげつないほど痛々しかった。

 曲が終わり、小室にサプライズでこれまでのお詫びと感謝を伝える朋ちゃん。そのチープな茶番劇に乗ってしまう彼女の悲哀に、ほとんど泣きそうになっていたワシの顔は、ラム肉に舌鼓を打ちながら「クジラを食べるなんてかわいそう!」と嘆く動物愛護者の顔と、とてもよく似ていただろう。

 しかし次の瞬間、絶対そこじゃないタイミングで、気まずい静寂を切り裂いた三谷幸喜の絶叫を、ワシは忘れることができない。

「インユア〜! ポジショ〜ン! セェ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!」

 絶対そこじゃないが、これ以上ない完璧なタイミングでもあった。腹を抱えて笑いながら、何かが破滅していくようなカタルシスを感じた。きっとクスリでトリップがキマるのってこんな感じだ。

 人工甘味料と合成着色料に毒されたジェリービーンズが、しかしとびきりポップでキュートなように、キッチュでグロテスクなものにも等しく美と快楽は宿るということを、テレビは教えてくれる。

 この世を生き抜く嗜みとして、当塾ではテレビという「俗悪の美学」を諸君にスパルタで叩きこもうと思う。ついてくるように!

◆今月の名言

「これからはちゃんと前を向いて歩いて行けそうです」(華原朋美)

『2013FNS歌謡祭』2013年12月4日(日)OA(フジテレビ系)

小室の伴奏で『I’m proud』『I BELIEVE』を歌い上げた華原は、「迷惑と心配ばかりかけてすみませんでした」と元彼に訣別。間髪入れずにAKB48「Beginner」を絶唱した三谷幸喜の鋼の心には賛否両論(笑)。

                (初出:学研『GetNavi』2014年2月号)

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【2023年の追記】

私が『魁!!男塾』的な塾長キャラになりきり、読者を塾生に見立ててテレビの見方を上から目線で教え諭す、というコンセプトの連載でした。文中の一人称が「ワシ」なのはそのためで、決して小林よしのりに感化されてゴーマンかまそうとしているわけではありません。

ただ、塾長キャラのギミックをいまいち生かし切れないまま連載は進み、「押忍!!」で始まる定型の挨拶文も、「ワシ」の一人称も、連載の途中でしれっとやめています。やはり『魁!!男塾』をちゃんと読んだことがない人間には無理のある芸当でした。

この第1回は、私が思うテレビというものの本質をうまく言い当てている気がして、割と好きな原稿です。「ラム肉に舌鼓を打ちながら〜」のくだりは、露悪的になりすぎていて今なら書かないですが。

テレビは下衆で下世話で、薄っぺらで不謹慎で悪趣味きわまりない、しかしそこにこそ大衆(=私たち)の無意識が投影されていて、だからこそ見る/批評する価値がある。それは今でもそう思います。



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