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男のコンプレックス Vol.15「しがらみ男子のふんぎり不器用」

【注記】
これは、マガジンハウス「POPEYE」2010年2月号〜2012年5月号に連載していたコラムの再録です。文中に出てくる情報や固有名詞はすべて連載当時のものです。現在では男尊女卑や女性蔑視、ジェンダーバイアスに当たる表現もあり、私自身の考えも当時から変化している点が多々ありますが、本文は当時のまま掲載し、文末に2023年現在の寸評を追記しました。

女は“男捨離”、
男は“女ったいない”の達人なのである!

 男の玉袋の中には「○○」が詰まっている。さて、「○○」に入る言葉を埋めよ。

 これが大喜利なら、穴埋めの答えは「フリスク」「カブトムシの幼虫」「タレよりも塩のほうが通という風潮」など、おもしろければ何でもアリだ。

 しかし、私はその穴をあえて「未練」と埋めてみたい。吾朗が駿の、美香さんが恭子さんの呪縛から逃れられないように、男は「未練の檻」に囚われた無期懲役の模範囚だからだ。 

 人生には、かつて交際したりフラれたり、勢いで寝ちゃったことのある女性と、それからも友人・知人として付き合わなければいけない事態がある。それはもう、やむなくしばしばある。

 そんなとき、しれっと割り切って友達ヅラできるのは、えてして女性のほう。女は、恋愛フォルダを上書き更新して片付ける“男捨離”の達人だ。

 一方、男は一度自分の恋愛フォルダに入った女性をなかなか削除できない。とっくに賞味期限切れなのはわかっているのに、冷蔵庫の奥のジャムや佃煮が捨てられないあの心境だ。そんな、女性への間違った“MOTTAINAI”精神、いわば“女ったいない”精神こそ、男のふんぎりを悪くさせ、しがらみを長引かせる原因なのである。

 かく言う私も、女ったいなくて未練がましく思っていた女性から、バッサリと男捨離の仕分け対象にされたことが何度もある。「福田ってガムみたい。噛んでると味がなくなっていくから」という“ねづっち”ばりのうまい名言から、「君はいつまで待てばできあがるのか、完成図が見えない」というサグラダ・ファミリアのような評価、「ゴメン、男に見えてなかった」というだまし絵のような感想、「あなたとセックスしてる姿が想像できない」という心臓をモリで一突きするような致命傷まで、枚挙にいとまがない。

 恋愛フォルダに自分の名前を残されたくなければ、これぐらい言わないと男の未練は消えないのだということを、女性は覚えておいてください。……あ、いや、泣いてなんかないです。

(初出:『POPEYE』2011年4月号)

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【2023年の追記】

「女は上書き保存、男は名前を付けて保存」みたいな恋愛あるあるは、10年前でもすでに手垢のついた今さら感のあるクリシェでしたが、これって要するにタネを明かすと、シンプルに「男は経年変化に疎い」ということではないかと思うのです。

得てして男性は、身体構造的にも、外的環境の面でも、経年によって自分を変化させられる/変化を意識させられる機会が女性に比べて乏しい傾向があると思います。10年前からファッションセンスや食習慣が変わっていないとか、気がついたら肥満やハゲが一気に進んでいたとか、マッチングアプリのプロフィールにすっかり面影のない5年前、10年前の写真をいつまでも使っているとか、そういうことが男性って割と起きがちではないですか? かくいう私も、61kgだった体重がたった1年半で69kg近くに増え、慌てて65kgまで減らしましたが、驚くべきことにその間、太っているという意識はほぼありませんでした。

そして、この「自分自身の経年変化に対する無頓着さ」は、恋愛にも深刻な影響を及ぼしているような気がします。つまり、相手の心境や、自分との関係性は刻々と移ろっているにもかかわらず、「あの頃はいい感じだったはずなのにどうして?」「最初はいいって言ったじゃないか」「あんなに好きって言ってたのに」「もしかして相手はワンチャンまだ俺のことが好きなんじゃないか」「久しぶりに会ったらあの頃を思い出して焼け木杭に火がついちゃったりして」という意識で止まったまま、いつまでも変化に追いつけていない。

つまり、「男は名前を付けて保存」の正体とは、とっくに終わった恋の相手との思い出フォルダを開きっぱなしにしたまま、ただ一度もしまえていないだけなんじゃないでしょうか。


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