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私のためのプロジェクト?|飯田千晴|2022-23 essay 01

「ふくしデザインゼミ」は、福祉やデザインに興味のある学生たちが、実際の福祉法人を舞台に、分野や領域の垣根を越え、実践的に福祉を学ぶプログラムです。いまはまだ福祉の外側にいる学生たちが、福祉施設をめぐり、その担い手と対話を重ね、図鑑記事を執筆する。編集やデザインの考え方を活用しながら、より本質的なかたちに整えてゆく・・・。このエッセイは、そのプロセスを通して、試行錯誤を重ねた学生たちの思索の記録です。


私にとってのふくしデザインゼミ

「ふくしデザインゼミ」。私にぴったりだと思う。大学時代、福祉を学び、大学院ではデザインを専攻した私にとって、そう思うのは自然なことだった。当事者性というのだろうか、とにかく自分の根幹に関わる大事な活動だと感じていた。私が福祉を学んでいたところから畑違いのデザインへ目を向けたのは、福祉の捉え方や関わり方を模索したいと考えたからだ。福祉もデザインも私たちの生活に深く関わっている。そして、福祉もデザインも人と人、人と社会をつなぐものだと思う。

福祉とデザインは相互に関わり合い、人々がよりよく生きることにつながっている。だからこそ、どちらも学び、福祉を捉え直すこと、関わりをつくることに挑戦したいと思った。ふくしデザインゼミはそんな私に福祉の捉え方だけでなく、自分らしさを考えるきっかけをくれた。

インタビューのいろはを学ぶ

ふくしと編集の交差点?

2022年8月25日、八王子にある武蔵野会本部で、ふくしデザインゼミはひっそりと幕を開けた。9月17日の公開講座「デザイン編集会議+フィールドワーク」に向けて、予行練習がてら本部の経理担当・津川さんと採用担当・菅さんのお二人を、学生が主体となってインタビューを行うことになっていた。参加した学生は私を含めて4人。みんなどことなく緊張している様子だった。かくいう私も不安と緊張、ワクワクが入り混じったような形容しがたい思いを抱えていた。

ふくしデザインゼミでは、「ふくしに関わる人図鑑をつくろう」をテーマに「人」に焦点をあてた図鑑をつくっていく。インタビューはその人らしさを表現するうえで重要なプロセスだ。でも、私にとっては未経験で未知の世界。そもそもインタビューってなに? どうやるんだ? 疑問ばかりが頭に浮かぶ中、小松理虔さんのレクチャーが始まった。正直、パンク寸前だった。何を考え問いを投げかけるか、ものがたりを描く意識、図鑑になることを想定した俯瞰的な視点など、初めて聞く言葉が一気に押し寄せてくる。メモする手が止まらないのは初めてだった。息する間も忘れるくらい必死に食らいついていく。だんだんと体温が上がっていくのを感じながら、とにかく吸収しようとひたすら頭と手を動かす時間だった。ぶわっと、何かがこみ上げそうになる感覚。面白い!

ぎっしりとメモをとる

インタビューって、編集って、もしかしたら福祉、いや「ふくし」だ! 最初は自分とは遠く離れた未知の世界だったものが、途端に隣人になったような気がする。私にとっては、学問的な「福祉」に対して、「ふくし」はより生活、生きることに根ざしているイメージがある。「ふくし」は人と向き合うこと、「ふだんのくらしのしあわせ」を一緒に考えること。「ふだんのくらしのしあわせ」はその人が大切にしたいこと、その人らしさに通底していると思う。インタビューも編集も、デザインも、人と向き合い、相手と良い関係を築きながら、その人らしさを大切に表現することだ。私にとって大きな発見で、また体温が上がった気がした。

「自分を愛するように、あなたの隣人を愛せよ」

レクチャーが終わり、ようやく深く息を吸う。心地よい疲労感と動悸を感じたまま、次はいよいよ本番。実際にインタビューをしてみる。まだ知りたてほやほやの知識と技術を総動員して、質問していく。壁打ちのような、ぶつかり稽古のような拙いインタビューだ。武蔵野会本部の津川さんと菅さんは、それを受け止め、返してくれた。

インタビューをしながら、私はどこか俯瞰的に自分と向き合っている感じがしていた。その人を知ろうと質問していると同時に、その人らしさの中に自分らしさを探しているような、不思議な感覚だった。取材の中でその人らしさを探しながらも、自分との共通点や相違点に気づき自分を知ることにもなっている。これは、武蔵野会の理念だ。「自分を愛するように、あなたの隣人を愛せよ」。その輪郭の部分にそっと触れた気がした。


私らしさの相対性理論

私は、私を私たらしめるものをずっと探している。だが、見つからないと思っていた。好きなもの、こだわり、熱中すること…どれも見当たらない。何かに熱中し、没頭できる人を羨ましいとさえ思う。絶対的な自分らしさがない。しかし、インタビューを通して少しずつ自分らしさの片鱗を見つけることができたようにも思う。

思ったことを口に出さずにいられなかったが、武蔵野会で伝え方を学び、変わろうとしていた津川さん。そんな津川さんへの取材を通じて、思ったことを表現することが苦手で言葉を尽くして思いを伝える方法を模索している自分が見えてきた。菅さんの言葉を伺い、菅さんが選ぶ明るくポジティブな言葉を、私は普段選んでいるだろうかと我が身を省みた。

津川さんへのインタビュー

こうして、インタビューの中で少しずつその人らしさ、自分らしさを手繰り寄せようとしてみたら、不思議と、こういう自分への向き合い方もあるんだ、と少し安堵できた。自分らしさとは、絶対的な指標に基づいたものでなければならないと思っていたけれど、人と関わる中で見えてくる相対的な自分らしさがあってもよいのだ。これは、「人」と向き合いその人らしさを表現しようとする「ふくしデザインゼミ」だからできたことなのだと思う。そして、「自分を愛するように、あなたの隣人を愛せよ」という理念を掲げる武蔵野会だからこそ。

帰り道、怒涛の1日を終えて少しゆっくり歩いた。頭も体も少し疲れている。でも心地よく、感慨深かった。「ふくしデザインゼミ」。やっぱり私にぴったりだと思う。

| このエッセイを書いたのは |

飯田 千晴(いいだ ちはる)
慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科1年

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~お知らせ~
2023年3月21日㈫~26日㈰
「ふくしデザインゼミ展」開催決定!

来る3月下旬、「ふくしデザインゼミ」の成果を、さまざまな形で 鑑賞・体験する企画展を開催することが決定しました。ゼミ生が制作した『ふくしに関わる人図鑑』に関する展示を中心に、トーク、ツアー、さらには「仲間さがし」に至るまで…

詳細は近日リリース!乞うご期待!

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