執筆計画法について

はじめに

論文を書くときに使っている執筆計画法を紹介する.私はこれを独自に構築したが,共著者も同じ方法を使っているらしく「〇〇さん(すごく優秀な研究者)もこれやってるんですよ!」と言われた気がするので,わざわざ私が書くまでもなく定番の方法かもしれない.ちなみに私は情報系の分野で研究をしており,同じ分野の人は使える可能性が高い.また,この方法はどちらかというとショートペーパーでうまく機能する方法である.ロングペーパーでも使えるとは思うが,結構大変かもしれない.ちなみに「執筆計画法」という名前は今適当に決めたものである.「論文を書くぞ!!!」っていう時にはこれを使ってみてほしい.

①原稿の配置を決める

論文と同じサイズの紙を準備して「どこに何を書くか」という配置を考える.具体的には,「イントロダクション」「アブストラクト」「関連研究」など論文の完成図を思い浮かべながらペンで四角く囲ってスペースを割り当てる.1ページ目から始めると,上部にタイトル,その直下に著者の羅列が入る.共著者が何人かによってこのスペースが変わる.その直下にアブストラクトのスペースを確保して(分野によってはTeaser Figureかもしれない),次にイントロを書くスペースを四角く囲む.4パラグラフ程度で書けるならば,ダブルカラムの2ページ目の1/4ぐらいまで必要だと思う.シングルカラムなら2枚目からイントロが始まるかもしれない.このあたりは投稿予定の雑誌や会議が規定しているフォーマットに依存する.当然それらを精読して確認する.

関連研究も引用する論文が決まってれば大体の文章量がわかるので,それに伴って埋める.もし「決まってないから埋められない」という場合は先に引用する論文を決めてしまう.関連研究のサーベイが終っていない段階で論文を書き始めてはいけない.手戻りの発生の原因となり,工数を食ってしまうからである.システム構成やアルゴリズムはその後に書くが,技術的詳細の文章量はあまりぶれるものではないので,これも文章量は予想できるだろう.次は全部とすっ飛ばして最後のリファレンスを埋める。引く論文が決まってれば文章量もわかる(くどいようだがサーベイが終ってないなら先に終わらせる)結論は1パラグラフなので,リファレンスの直前に1パラグラフ程度のスペースを四角く囲む.

例えばこんな感じ.実際に書いたものは後輩にあげちゃったから手元にない

②実験計画の設計

ここまで埋めると紙の余白から「実験と考察にどれぐらいのスペースを使えるか」が決まるので,ここから逆算して「どんな実験をしてどんな図を見せれば読んだ人が納得するか」を考えて実験計画を立てる.例えば「軽く検証実験をしてから、それに基づいて設計した重めの実験を記述する」とか「システムの前にPilot Studyを入れて,それに基づいてシステムを構築して検証実験を記述する」とか,まあ分野によって「普通ならこうする」っていう実験方法があるだろうから,それに則って計画する.

つまり,「実験の記述に使用できる文章量」を予測して逆算して実験計画を立てる方法であり,これの何が良いかというと,自分の仕事を効率よく原稿に落とし込むことができる点である.何も考えずに雰囲気で実験してその内容をまとめようとすると「ページが埋まらない」という状況に陥り意味が薄い情報を入れる羽目になる.せっかくの原稿に冗長な部分ができてしまうのは良くないことである.どうせならもう少し規模が大きい実験を計画するべきだろう.あるいは,逆に「内容が多過ぎて入りきらないよ」となると,良い結果が出たのに内容を削る羽目になる.折角時間をかけて出した結果を載せられないのは避けたいことである.アウトプットである論文の内容量に合わせて実験計画を立てることで,こういった差分を小さくしようというのが狙いである.

というかさ,「研究やるぞ!!!」って何も考えずに実験して成果出して「はいじゃあそれを10ページ以内にまとめてください」っていきなり言われたら「ページが足りない」か「ページが余った」になるのが自然だよね(実際はいきなり言われるわけではなくCall for Paperに書いてあるんだが).シニアの人はキチっと仕事の量を論文の文章量に合わせられるかもしれないけど,できないなら時間をかけて計画立てた方が良いじゃん.2,3回ぐらいやれば論文に書くことができるサイズ感がわかってきて自然にできるようになるだろうけど,それができてくるのって博士課程進んだぐらいじゃないかな.

最近気付いたことだが,執筆経験が豊富な人は無意識に論文に記述できる内容量から適切なサイズの実験計画を立てることができる.こんなことは別に特別な話ではなく,例えばフルペーパーを書く場合とショートペーパーを書く場合で実験内容を変えるのは自然な話である.良い結果が手元にあっても論文に乗せられないなら評価されないし,逆に結果が少ないと貢献が小さいと判断されるし.

この手法の良い点

良い点は,原稿を書く段階ではない場合にそれに気付くことができる点である.例えば「文章量の予測ができない」のであればまだ内容が成熟してないので書き始める前に議論をするべきであると言える.また,この論文のアウトラインを埋める作業をした後だと「何を書くか」という議論の目的が決まっているので,物事は決まりやすい.この段階で先走って文章を書くと手戻りになるからやめた方が良い.

加えて,実際にアウトラインを作ってみると「書けない箇所」を発見することができるのも良い点である.例えばイントロを4パラグラフで構成するなら1パラの出だしはどんな文章?2パラ目は?3パラ目は?4パラ目は?どんな文章で書き始める?それらはTopic Sentenceだけど,そこだけ読んでイントロのストーリーは繋がっている?みたいなことを意識することができる.すると「なんかライブ感で書けそうな気がしてたけど書けないな」ということに気付く.執筆前にそれに気付くことができるのは,手戻りを減らすことができるので良いことである.議論して書く内容が決まったらアウトラインを埋める作業に戻って埋める.

もう実験終わっちゃったよっていう人

まだ間に合うからアウトライン書いてください.このアウトラインはないよりあった方が良いから

書いてて思ったこと

要するに自由度を意識できるかという話かもしれない.適当に手を動かすと「論文にはこれぐらいの情報を載せてね」という自由度の削減にフィットさせるのが難しい.上手い人はこの自由度の削減を利用してほぼ無限に存在する実験計画の中から適切なものを選択できる.早熟な人は修士からこれができてる.

これは情報系の話なので他の分野の人は違うかもしれない.「俺はそんなこと意識してないけど論文書いてるよ」って人もいるだろうけど,多分無意識にやってるか,教官やらメンターやらが意識的にコントロールしてるんじゃないかなと思う.執筆計画って適当にやると簡単に崩壊するっていうか,大体は壊れてるし…

締め切り数時間前に苦しむよりも数ヶ月前に少し時間をかけてこの荒いドラフトを書いた方が良い.同時に実験計画も出来上がるから教員に事前に添削してもらえるし.でもまあ論文のページ数が多いと予測と実際の文章量の差が大きくなるから,フルペーパーだと難しいかもしれないね~

なんでこんな文章を書いたか

なんか暇だな~って時に後輩にこの執筆計画法をやらせたらすごく感謝されたから.なかなか良い手法らしいのでここにやり方を書いておこうと思った.

参考ツイート


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