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接待テレビゲーム

fukusanity

3年ほど前の話になるが,仲が良かった女友達から「姉がいる男友達が"小さい頃は姉とゲームする時にわざと負けるように頑張ってた"って言ってたけど,本当?」と質問された.この質問を受けて,私は自身の行動に内在化してしまった「姉のいる男の振る舞い」の一種である「接待テレビゲーム」について初めて意識した.

私には2人の姉がいる.私が小学生の頃に2人は中高校生だった.十代の女性というのは大変に気難しく,獰猛で,繊細で,小学生だった私は姉の機嫌に注意を払いながら生活していた.私は末っ子長男だったものだから,両親からは当然のように可愛がられた.それを見て快く思わない姉は,私に対してよく意地悪(身体をつねるとか,その程度だが)をした.幼い頃は一日に一回は泣かされていた時期もあった.意地悪されること自体は別にどうでもよかった.だけど姉が悲しそう顔をするのがどうしても嫌で,できるだけ不機嫌にならないような立ち回りをしていた.自分が親に甘やかされたことは言わない,姉の頼みは断らない,姉に良いことがあったら褒める,姉が不機嫌そうなときはそっとしておく,嫌なことを言われても言い返さない,などが基本所作である.

私と姉は当時そんな関係だったものだから,姉からテレビゲームの対戦相手を頼まれると私は断ることができなかった.しかし対戦で勝ってしまうと姉の機嫌を損ねてしまう.そこで,わざと負けるような接待プレイを行う.スマブラならわざと復帰で失敗し,マリオカートならばミドリの甲羅に積極的に当たるように走行する.しかし接待していることに気付かれると,それもまた機嫌を損ねる要因になり得る.あくまでさりげなく負けることが求められていた.これが案外難しいのだ.だけど家庭内の平和を保つために必要なスキルだった.

ある日モンスターファーム2で遊ぼうとプレステを起動したときに,間違えて姉のセーブデータを開いてしまったことがある.モンスターファームのゲームの世界では,ファームの運営をするために資金を稼ぐ必要がある.この資金がひっ迫するとコルトが悲しそうな顔をしながら「もうお金がないんだけど…」と我々に告げる.このシーンでは何とも言えない悲壮感が漂う.姉のセーブデータの資金は,コルトが「もうお金がないんだけど…」と告げる閾値を,ほんの少しだけ下回った金額だった.「そういえばねーちゃん最近モンスターファームやってなかったな...」「コルトの悲しそうな顔を見てゲームが嫌になってしまったのだろうか...」などと考えていると,途端に私まで悲しくなってしまった.よくわからない思い出である.

ちなみに「接待テレビゲーム」について質問した彼女の男友達は,これを「接待マリオカート」と言っていたみたいだが,私はスマブラで接待をしていたので「接待スマブラ」である.世の中にはなんとしてでも姉の顔を立てたい弟による「接待○○」が多数存在しているのではないだろうか.また,彼女は2人の弟がいる家庭で育った.君の弟だって絶対にそういう配慮をしていたと思うぞ.

図1


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