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モスキート・ナイト

今日も忙しい1日だった。

やっと寝られる。今晩も冷房がガンガンにきいた部屋で布団をかけて寝るのだ。顔と布団の下から足だけだして寝るのがまた気持ちいいのである。
特に1日仕事を頑張ってクタクタになった日には、もう最高だ。今日1日頑張った自分へのご褒美である。
私は幸せをかみしめながら、部屋の灯を消す。

今日も明日の朝まで熟睡できそうである。

目を瞑ると、よっぽど疲れがたまっていたのか、すぐに意識が遠のいていく・・・


「ここはどこだ」

少し肌寒いような気がする。しかも、まるで空を飛んでいるみたいに体がフワフワする。そして真っ暗で何も見えない。でも真っ暗な方が落ち着くのだ。
昼間は日光が眩しすぎて好きじゃない。ずっと当たっていると頭がクラクラするからだめだ。だから、動き出すのはいつも夕方から翌朝までと決めている。
別に肌の日焼けを気にしてるとかじゃなくて、日光を身体が生理的に受け付けていないような気がする。そもそも私の肌はすでに黒い。

私がこの暗く肌寒い空間をフワフワしていると、どこからか食欲をそそるような甘い匂いが漂ってきた。
私がその匂いを辿っていくと、暗くて何も見えないが目の前にご馳走が置いあることに気が付いた。形は見えないがこれほどおいしそうな匂いがする食べ物と出会うのは初めてだ。
まるで夢のようである。

おそるおそる、その食べ物を口にする。
「めちゃくちゃ甘い…」

わたしは、あまりのおいしさに、我を忘れてその食べ物を口に頬張った。最高だ。この時間が永遠に続けばいいのにな…

我を忘れて目の前のご馳走にむさぼりついていると、何か嫌な気配を感じた。そろそろ食事を終了した方がいいかもしれないと思った。

そのとたん、さきほど感じた嫌な気配が凄いスピードでこちらに向かっている気がした。命の危険を感じるのだ。早くこの場を離れなければ…

しかし、体が思うように動かない
「やばい、死ぬ・・」


「パチン!」鋭い音が寝室に響いた。気持ちよく熟睡していたのに首元に感じる痒みで目が覚めた。まさか部屋の中に蚊がいるとは。思わず、首元を手のひらで叩いた。

部屋の灯をつけて確認するが、手の平には蚊の姿は見当たらない。
逃がしてしまった…
ということは、まだこの部屋のどこかに蚊がいるのだ。

それにしても残念だ。エアコンのきいた部屋で気持ちよく寝ていたせいか、最高に幸せな夢をみていた。そこは、暗闇の世界で、何も見えないが、目の前には今まで出会ったことがないぐらいおいしそうな香りのする食べ物がある。おそるおそる手に取り一口たべてみると、口の中いっぱいに甘みが広がり、最高に幸せな気持ちであった。しかし、食べている途中に体全体が何とも言えぬ恐怖に包まれ、何とかあわてて逃げ出したが、そこで目が覚めてしまった。
できれば、もう一度あの夢を見て、食事の続きをしたい。

しかし、この部屋にはさきほどの蚊がまだ潜んでいるはずだ。
私は部屋のクローゼットの隅に置いてある、去年購入した置き型の殺虫剤機を持ってきてスイッチを入れた。機械の中の薬の気体が部屋中に回ったら蚊もすぐにあの世行きである。

そして、私はもう一度先ほどの夢を思い浮かべながら眠りについた。


「ここはどこだ」

少し肌寒いような気がする。しかもまるで空を飛んでいるみたいに体がフワフワする。そして真っ暗で何も見えない。でも真っ暗な方が落ち着くのだ。
昼間は日光が眩しすぎて好きじゃない。ずっと当たっていると頭がクラクラするからだめだ。だから、動き出すのはいつも夕方から翌朝までと決めている。
別に肌の日焼けをきにしてるとかじゃなくて、日光を身体が生理的に受け付けていないような気がする。そもそも私の肌はすでに黒い。

私がこの暗く肌寒い空間をフワフワしていると、どこからか食欲をそそるような甘い匂いが漂ってきた。

私はその匂いを辿っていく。おいしそうな甘い匂いを出しているものに近づいてきた。でも、なんだろうか、身体がだんだん重くなってきた。そんなに動いてもいないのに呼吸が荒くなる。しかも激しく息を吸えば吸うほど苦しさが増すような気がする。

「だめだ、もう死ぬかもしれない」

呼吸が苦しくなり、意識が朦朧とする私の頭の中には今までの出来事が走馬灯のように流れた。

幼稚園の時、好きだった先生。あれは今思えば私の初恋であった…。
小学校の時に友達たちと家の近くに池に魚を取りに行ったとき、池にはまった友達を見て大笑いしていた。帰りの自転車寒そうだったな…。
高校は進学校に進んだが、おかげで勉強づけの毎日。どうやってさぼるかだけを考えて生活してた。努力の方向を間違えていたな…
大学は田舎の山に建っていて、毎日の通学が大変だったなぁ。通学が大変すぎて、学校に着いた後の講義は寝てばっかりだった。なんのために通学していたのか…。大学でも努力の方向を間違えていた…
そして始めての就職。なんも覚えてないや…

これが走馬灯なのか。聞いていたよりも大した記憶が出てこないものなんだな。
それとも、私の人生自体大したことないような人生だったのかな。

私は今まで何のために頑張ってきたのだろうか。もちろん、受験勉強するのは進学のため。進学するのは就職のため。就職するのは、将来豊な生活をおくるためだ。
でも、そうじゃない。そのようなことのためではなく、もっとその奥にある見えないもののために私は頑張ってきたのだ。その時々だって、目の前には、進学や就職などの目標があったが、でもそれらの次元を超えたもっとその奥にある、自分自身中にある何かのために私は頑張ってきたのだ。

そうだ、私はまだその目標を叶えてはいない。まだ、こんなところで死ぬわけにはいかないのだ。


どこからか、新鮮な空気が流れてきている。
向こうの方からだ。そこにきっと出口があるはずだ。

暗闇の中で、私は締め付けるような胸の苦しみと闘いながら、ほとんど動かなくなった自分の体を無理やり動かした。

出口は近づいてきている。何が何でも、生き延びて、私はまた頑張るのだ。何のために頑張るのかはわからないが、頑張るのだ。それが幸せなのだ。

出口はもうすぐ目の前だ。しかし意識がだんだん遠のいていく・・・・



アラームが聞こえる。私が目を覚ますと朝であった。実にいい目覚めだ。
そういえば、昨日の蚊は死んだのだろうか。
もしかしたら、換気のために少しだけ開けていた部屋の扉の隙間から出ていったかもしれないな。
まぁそんなことはどうでもいい。なんかやけに今日は幸せな気分である。

今日も1日頑張って働こう!

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