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【試し読み】R・J・フレデリック(著)花川ゆう子(監訳)『感情を癒やし、あなたらしく生きる4つのステップ』(日本語版刊行によせて+第1章冒頭)

優しく心を癒やす新しいカウンセリング・モデルAEDPのシニア・ファカルティであるロン・フレデリック博士が提唱する「感情的マインドフルネス」の4つのステップを、さまざまなキャラクターのエピソードを基に、ひとりで実践できるようにわかりやすく解説。

 『感情を癒やし、あなたらしく生きる4つのステップ:気づく・鎮める・感じきる・心を開く』が2022年10月26日に発売されました!
 それぞれのキャラクターの心の動きを丁寧に追って、避けていたつらい感情への気づきと向き合い方、激しい動揺の鎮め方を学び、そして本来の自分らしさを見出していくセラピーの過程に沿って、理論的な裏付けと具体的な実践方法を詳しく解説していきます。エピソードはまるで小説のように読みやすいので、現役のセラピストや臨床心理に興味のある方だけではなく、セラピーって何をするの?と不思議に思っている方にもおすすめです。

 ここでは試し読みとして、本書の「日本語版刊行によせて」の全文と「第1章」の冒頭を公開します。
 続きが気になる方は、ぜひ全国の書店・ウェブストアでお求めください!
(本書の詳細はこちら。各種ウェブストアにもアクセスできます)
*本記事は2022年10月26日発売の『感情を癒やし、あなたらしく生きる4つのステップ』から該当部分を転載したものです。

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日本語版刊行によせて

 ようこそ。『感情を癒やし、あなたらしく生きる4つのステップーー気づく・鎮める・感じきる・心を開く』を読もうと選んでくださったことをうれしく感じると共に、あなたの感情の発見と成長の旅にご一緒できることを光栄に思います。
 本書の執筆中は、せめて何人かがこの本を目にして役立ててくれればいいなと願っていました。それがアメリカ国内で広く読まれることになるとは思ってもいませんでしたし、さらに英語の原著が様々な言語に翻訳されて世界中に広がっていくとはまったく予想もしていませんでした。2009年に初版が刊行されてから10年ちょっとが過ぎましたが、今やオランダ語、中国語、ペルシア語、そしてこの日本語による翻訳本、またスウェーデン語やドイツ語による研究書版が出され、さらに他の言語への翻訳も予定されています。本当に身に余る思いです。
 思うにこうした広がりは、私たちが共有する人間性の証、感情表現や心のつながりが必要であることの普遍性の証なのではないでしょうか。私たちは感じ、他者とつながるべく創られているのです。これは文化を超えて生まれ持った性質であり、それぞれ文化的規範によって自己表現の仕方は異なるかもしれませんが、人間としての感情体験の基本は万人に共通しているのです。  
 したがって、中 核(コア)的な感情体験からの断絶や他者からの断絶とい
った、感情的な苦しみの根本的原因もまた普遍的であるということになります。自分のなかの感情体験とつながり、協調し、うまく活用して伝えるといったことがなんらかの理由でできないとき、私たちはもがき苦しみ、人生はうまくいかなくなってしまうのです。
 しかし人間には立ち直る力があります。回復し、力強く生きていくようにできているのです。 成長、自己実現、そして深い結びつきを求める傾向もまた普遍的なものです。 適切な助けがあれば、みな本来の自分を取り戻し、立ち直って豊かに成長してゆけるのです。
 本書のなかで後述しますが、「感情的マインドフルネス」によって、こうした人間が本来持っている力を解き放ち、自身や他人の感情に寄り添う能力を引き出すことができます。肯定的・建設的なやり方で意識を集中させることで、古い習慣や恐怖から解放され、感情体験に近づいて新たな関わり方を築くことができるのです。 自らの幸福や成功のために、脳の回路を配線し直すことは実際に可能なのです。
 感情的マインドフルネスのスキルを養うことは、単にそれがよいというだけではなく、実際に苦痛を和らげ、脳の働きを最適化し、メンタルヘルス全般を改善するということが経験的に実証されています。本書の初版が出たあと、私の紹介した4つのステップに基づくプロセスを研究基盤として用いたリサーチが、スウェーデンのリンショーピング大学を通じて行われました。それらの調査のなかで、スウェーデン語を話す参加者たちが感情的マインドフルネスを培うためのツールに関して読んで実践したところ、それが不安、うつ病、社会不安に対する治療として効果的であることが分かったのです。 同じことがあなたにも起こりえます。
 だから私は遠くから文化を超えて手を伸ばして、人生を本気で生きようとするあなたの努力に協力します。
 本書を通じて必要な助けやサポートが得られますように。
 一緒に頑張りましょう。

心を込めて
ロン

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第1章 感情は感じたほうがいい? 感じないほうがいい?


勇気の持ちようによって人生は広がったり縮んだりする。
―アナイス・ニン

 リサは、ボーイフレンドのグレッグを空港で時間通りにピックアップするため、少し早めに仕事を抜けた。途中、店に立ち寄って、出張から帰ってくる彼のために特別に準備した夕食に必要なものを最後にいくつか買い足した。数分後、車の助手席に座ったグレッグは「そりゃいいね」とリサに言った。「君と食事してから、あとで友達と一杯やりにいく時間は充分あるはずだし」。リサの頬がこわばった。私とずっと会ってなかったというのに、帰ってきたその晩に自分の友達と会う予定を立てているですって? なんてこと! リサは内心イライラしてきたが、クールに笑ってごまかすと尋ねた。「それで、出張はどうだった?」

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 アレックスは、なにか音楽でも聴こうとカーラジオのスイッチを押した。すると、ちょうどクリスマスキャロルを流しているラジオ局にあたった。「あら、私、この曲大好きなの。あなた、聴きましょうよ」。「きよしこの
夜」のおなじみのメロディーが車内に満ちるなか、妻が言った。アレックスは、なにか胸がつまるような感触を覚えた。今まさに運転しているこの道で自分の両親が車の事故で亡くなった日から、ちょうど一年が経とうとしていた。アレックスの頭のなかに、両親と過ごした幸せな時間、自分が若かったころのクリスマス休暇の記憶があふれた。目に涙が湧き上がってくるのを感じたが、妻に見られたくなくて顔を背けた。アレックスは心のなかで、どうしたんだ、しっかりしろよ、もっと強くなれ、そう自分に言い聞かせると、ハンドルを握りしめ、必死に湧き上がる気持ちを押し戻そうとした。

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 ケイトは、友人とのこの休暇を何か月も前から計画していた。ずっと残業続きの末のやっとの休みだ。みんなで早起きをして、前からとても楽しみにしていたハイキングに出発した。最初の展望地点に到着すると、みんなでしばし立ち止まり、山からの景色を楽しんだ。朝日が乾燥した砂漠の景色にオレンジ色の光を投げかけ、空気はすがすがしい。最高の日だわ、深呼吸をしながらケイトは思った。と、突然、どこからともなく、ふいに不安の波に襲われた。ケイトは、そわそわしていたたまれなくなり、きびすを返すと、不思議そうに見る友人たちをあとに先へと歩きだした。

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 一見、てんでばらばらのようですが、同時に、この3人はお互いとても似通っています。みな、自分の感情を恐れているのです。
 リサは、自分の怒りを恐れています。ボーイフレンドに対する怒りを抱えつつも、取り合わないようにしています。しかし、どんなに頑張っても、それはくすぶり続け、結局イライラして怒りは収まりません。
 アレックスは、自分の悲しみを恐れています。感傷的になること、そして両親の死に対する自分の悲しみを表に出すことを恐れています。それを許してしまったら、きっと抑えがきかなくなって感情的に不安定になり、妻に弱い人間だと思われてしまうと心配しています。
 そしてケイトは、自らの幸せを恐れています。リラックスして楽しみ、友人たちと一緒にただすてきな時間を過ごすということに対するなにかが、彼女を不安にし、緊張させるのです。ずっと楽しみにしていた休暇なのに、それを心から楽しむことができないなんて、なんと悲しいことでしょう。
 本当に、3人ともかわいそうなこと、このうえありません。
 リサが、もし自分の怒りをもっと素直に受け入れられていたら、そしてその感情に触れ、その力を感じることができていたら、おそらく彼女はグレッグに対して自分がどう感じているかを思い切って伝えることができたでしょう。
 アレックスが、もし自分の悲しみを恐れなければ、両親の死をもっと率直に嘆き悲しむことでいくらか苦痛が和らいだかもしれません。妻にその気持ちを伝えて、彼女をより身近に感じたなら、そこまで苦痛で孤独ではなかったかもしれません。もしかするとアレックスは、苦痛を独りで丸抱えしている間は信じられないかもしれませんが、人と苦痛を分かち合うことがどれほど心地よいものかと理解さえするかもしれません。
 そして、ケイトが、もし心置きなく友人たちと楽しむことができていたら、きっと……、いや、ちょっと待ってください。楽しいという感情を持つのは簡単ではないのでしょうか? そう、本来そうであるべきなのに、私
たちの多くにとってはそうではないのです。大多数の人間は自分たちの感情に対し、ときに楽しい感情に対してですら、ある程度の違和感を持っています。感情が近づきだすと不安が押し寄せ、急にその流れを止めてしまうのです。もしくは、本当に自分が感じていることを感じる代わりに、ひたすら洗濯物をたたんだり家の掃除などし始めたりしてしまうのです。話題を変え仕事・テレビ・食べ物などで気を紛らわせ、沈黙の殻に閉じこもるのです。私たちは、自制を保つためならなんでもする名人だと言っていいでしょう。
 つまり私たちは感情恐怖症なのです。自分たちの感情が怖いのです。

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【著者】
ロナルド・J・フレデリック(Ronald J. Frederick)

カリフォルニア、ビバリーヒルズにあるカレジャス・リビングセンター(The Center for Courageous Living)共同設立者、AEDP研究所シニア・ファカルティ(教員)。
20年以上にわたり、感情に特化した体験療法を個人やカップルに施し、さらに他のセラピストのトレーニングを積極的に行ってきた。
本書の原書『Living Like You Mean It』はアメリカでベストセラーとなり、シリーズ近著に『Loving Like You Mean It』がある。また、親密な関係への恐れに関する研究で、アメリカ心理学会(The American Psychological Association)のメイロン-スミス奨学金(Malyon-Smith Scholarship Award)を授与された。
世界中のワークショップで講演、指導にあたっている。

【監訳者】
花川ゆう子(はなかわ・ゆうこ)
NY州臨床心理博士ライセンスを持つサイコロジスト、AEDP研究所のシニア・ファカルティ(教員)、AEDP JAPAN設立者・現ディレクター。
マンハッタンにあるセントルークス・ルーズベルト病院の外来クリニックでスタッフや訓練生のトレーニングや患者の治療にあたり、2014年まで博士課程学生対象のトレーニングプログラムのディレクターとして勤務。現在病院から独立し、マンハッタンにて個人開業中。
AEDPの入門書『あなたのカウンセリングがみるみる変わる! 感情を癒す実践メソッド』(金剛出版、2020年)を上梓。『心理療法統合ハンドブック』(誠信書房、2021年)ではAEDPの章を、『Undoing Aloneness and the Transformation of Suffering Into Flourishing: AEDP 2.0』(APA、2021年)ではトラッキングについての一章を、分担執筆。また、AEDPの教科書である『人を育む愛着と感情の力――AEDPによる感情変容の理論と実践(原題:The Transforming Power of Affect: A Model for Accelerated Change)』(福村出版、2017年)を、岩壁茂博士他と共監訳。
アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、日本などで国際的にトレーニングを行っている。


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