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インクルーシブデザインとユニバーサルデザインとの違いについて

きっかけは会社の同僚からのメールだった。

インクルーシブデザイン(UD)

ユニバーサルデザインはインクルーシブデザインに包含(include)されてしまったのか?()ではなく&の間違えでは?など考えを巡らせたが、実のところ両者の違いがよく分からないということであった。

このように似て非なるものとしてよく議論の的となるインクルーシブデザインとユニバーサルデザイン。両者の違いについて自分なりの考えを述べてみようと思う。

そもそも〇〇デザインと名の付くコンセプトは、発信者の意図をくみ取りながら、いろんな解釈が生まれ、発展していくものである。ゆえに、これは〇〇デザインではない。などと糾弾することは卑屈であり論ずる価値もない。考えの違いに対する解像度を高めることで自分なりの解釈をより具体的なものにするだけでよいはずだ。
なので、このnoteを書くことで私自身、そして読んでくれる人が自分なりのデザインに対するまなざしをもてるようになればと思っている。

ユニバーサルデザイン

ユニバーサルデザインは80年代のアメリカで大量生産されたプロダクトの多くが障がい者に対する配慮がなされておらず、できるだけ多くの人が使えるようにデザインしようとしたものである。この考えを浸透させるためにユニバーサルデザインの7原則を制定したことは言うまでもなく有名な話である。

インクルーシブデザイン

一方、インクルーシブデザインは、イギリスを発祥とするもので、デザイン界や産業界に対し、これから増加が見込まれる高齢者のニーズや価値観の変化を深く捉える必要性を当時RCAの学長であったロジャー・コールマンと社会的歴史学者のピーター・ラスレットが示したものである。(アメリカで提唱された概念をそのまま鵜呑みにしないところがイギリスらしい。)
彼らはユニバーサルデザインの原則に沿うだけでは高齢者が抱える真なる問題が見過ごされてしまうことを懸念し、個々の高齢者に寄り添い、彼らのニーズや価値観を深く理解したうえでデザインすべきと考え、デザインプロセスに可能な限り当事者である高齢者の参加を促した

よく両者の違いとして、当事者のデザインプロセスへの参加有無が示されるのをよく目にする。しかし、ユニバーサルデザインでも当事者へのヒアリングや共同でアイデアを考えることもよくある。それは両者が歩み寄った結果なのかどうかは定かではないが、もっと明確な違いについて具体的な事例を踏まえて考えてみたい。

誰でも使いやすいハサミmimi

ユニバーサルデザインの傑作として誰もが使いやすいハサミmimiというものがある。円弧を描く特徴的な持ち手により上から押すだけでも切れるため、握力が弱いひとや、手指が動かしづらいひとにも使いやすくなっている。

〈新規〉みんなのはさみ本体w

デザインプロセスは不明だが「使える」ユーザの幅は通常のハサミよりも広くなっていることは確かである。

実は、「ハサミ、インクルーシブデザイン」と検索してもこのハサミが多く表示され、両者の混同が見て取れるのだが、今回は私がインクルーシブデザインであると感じた車いすを紹介したい。

電動車いすWHILL

スタイリッシュで未来的な外観が特徴の電動車いすWHILLである。ここではそのユーザの声を見てみよう。

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2013年の10月にALSを発症し、歩行が大変になってきたタイミングで、車椅子を使おうと思いましたが、自分が乗りたいと思えるものがありませんでした。かっこいいものに乗りたいという思いが人一倍強く、昔から自転車やスケボーなどの乗り物が大好きだったのですが、WHILLはそういった新しい乗り物に出会ったときの感覚を与えてくれました。(以下省略)

ユニバーサルデザインの車いすであれば、安定性および移動性を満たせばよい。しかし、当事者に使いたいと思ってもらうためにはそれらの機能だけでは十分ではない。WHILLはスタイリッシュなフォルムによりユーザに「使いたい」という気持ちを生んでいる。

これは、決してユニバーサルデザインがユーザに対する理解が浅いと非難するものではなく、だれでも「使える」ことは、だれもが「使いたい」とは限らないということだ。

ユニバーサルデザインとインクルーシブデザインともに、社会的に排除されつつある個人や集団を社会に取り込もうとする発想の起点は共通だが、その違いは、「使える」と「使いたい」のあいだにある。

公共性の高いトイレやエレベーターの多くがユニバーサルデザインと謳うのは、できるだけ多くの人が「使える」ものを作らければいけない要求があり、それを満たしているからである。

一方、インクルーシブデザインは、社会的に排除されつつある人々に対する深い理解のもと、その本音をくみ取り、その人が「使いたい」と思うものを作ることで社会に取り入れようとする。人々のニーズや価値観はバラバラなので、無理に同じものを使うことを期待しないという態度である。

最後に、両者の違いをまとめると
ユニバーサルデザインは、原則に則り多くの人が「使える」ものを作ることで社会から排除される人々をなくそうとするデザインアプローチ。公共性が高い場所など多くの人が使えるようにしなければならない条件のもと多用される。

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インクルーシブデザインは、排除されつつある個人のニーズや価値観を深く理解したうえで、「使いたい」と思わせるものを作ることで社会に取り込もうとするデザインアプローチ。特定の問題や状況の改善を起点とし、より大きな問題を解決しようとするプロジェクトにて多用される。

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このような違いを理解することで、社内資料などでよく見かける「インクルーシブデザイン(UD)」といった両者の混同がなくなり、問題とする状況に応じて、適切なアプローチを用いて臨むことができると思う。

また、著しく変化する社会においては、過去の考えに縛られることなく、様々な考えが入り混じる混沌とした状況を受け入れ、そのなかで自分なりの考えをより鮮やかにしていくことがなによりも大切なことであると思う。

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