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建築を通してレベルデザインを学ぶ─『ゲームデザイナーのための空間設計 歴史的建造物から学ぶレベルデザイン』を読む1

プレイヤーの感情をコントロールする、空間デザインの原理を学ぶ 名作と呼ばれてきたゲームタイトルには、プレイヤーが気が付かないうちにプレイ方法を教え、導き、のめり込ませる工夫が満ちています。
それらの工夫を実際のゲームタイトルから抽出した上で建築理論と融合させ、読者のゲーム開発に役立つ知識として提供します。
また、「ムービーが多すぎて集中できない」「次にどうしたらいいのかわからない」といった、プレイヤーが飽きてしまったり、ストレスを感じてしまう課題の解決にも、人が過ごす空間を研究してきた建築の原理は先例として役立ち、ヒントを与えてくれます。

ゲームデザインの持つ側面の中で、レベルデザインはデザインに用いるツール、利用するエンジンによって具体的な手法が異なります。 ゲームジャンルごとに中心となるメカニクスも違うため、方法論を導くことが難しいとされてきました。

本書は、空間設計という点でゲームと共通項を持つ建築・空間デザインの原理を学ぶことで、ゲームデザインへのヒントを得るというアプローチを選択しています。
建造物と実際のゲームタイトルを比較しながら分析していくことで、空間をレイアウトするスキル、空間を用いて感情を喚起するテクニック、建築理論に裏付けられたゲームレベルを作成する技術を身に付けることができます。紹介する数々の建造物は、見た目の良し悪しだけではなく、空間の組み立て方について多くの事を教えてくれます。 特に、歴史的に評価された建物は訪れた人に与える「体験」を重視しており、ゲームプレイに通じる要素に満ちています。
- 優れた建造物の空間は
・ストーリーを伝える
・アクションを促す
・交流を促進する
つまり、説明が無くとも、人の感情をコントロールする力を持っています。また、ゲーム制作の技術はすぐに過去の物となりがちですが、空間の原理は古びることがありません。
本書の研究内容は、制作環境が変化しても使える原理として有用です。

建築の修士号を取った後,さまざまなゲームのアーティスト,レベルデザイナーなどとして活躍するクリストファー・トッテン氏によって書かれた本書.
他の分野から見る(参照する)建築への視点,というもののまとまった書籍というのはなかなかないので,少し前からメモを取りながら読書を進めている.

だいぶ読み進めたので,ひとまずメモをちょっとずつ簡単にまとめていこうかと.

なぜ,ゲームと建築なのか?

「ゲームのレベル,環境,世界はまさしくデザインされた空間」

近年,建築を掘り下げるゲームやレベルデザインのトピックが増えてきている.
なぜか?ゲームの歴史はまだまだ短い.だからこそ,他分野から学ぶことでゲームの歴史からだけでは埋めることのできない要素を補っている.
その中で,建築には視覚的な要素だけでなく,空間がどのように人間に影響を及ぼしているか,空間を構成するためにどのようなインスピレーションを得ているか,などさまざまな学問的蓄積が存在しているためレベルデザインにとっても有益と言える.

建築と同じようにゲームもまた「空間」を生み出す.
その意味で,ゲームが建築の空間デザイン原理を取り入れることで,「歴史的に成功している空間の配列をデザインの出発点として使用できる」「ゲーム空間を作成するためのより幅広い語彙(表現手段や技術)を手に入れられる」といった大きな効果を得られる.

本書で定義されているゲームのレベルデザインはこうだ.

「レベルデザインとは,レベルの構成をよく練って,ゲーム”プレイ”を,プレイヤーが住む”空間”へと変えること」

まさしくレベルデザインとは空間をつくることであるらしい.

以上のことから,本書では,空間デザインに重心をおいたレベルデザインの建築的アプローチを提示する,とのこと.


「空間体験」について考える

本書ではこんな一文が綴られている.

「コンピュータの中の小さな人々を,小さなコンピュータ環境の中で喜ばせるにはどうすれば良いでしょうか? 
クリストファー・アレグザンダーの『パタン・ランゲージ─環境設計の手引』を読んでみましょう」

アレグザンダーは建築分野でも度々言及される建築家.彼は建築や都市を考えるにあたっての形態言語「パタン・ランゲージ」をつくり出した.
「パタン」は建築の型と出来事によって構成される言語であり,その組み合わせにより,詩のように建築をつくることをアレグザンダーは考えた.
この「パタン・ランゲージ」の考え方はネットの世界にも取り入れられている.

「K.ベックとW.カニンガムは、パタン・ランゲージにおけるアレグザンダーの思想に影響を受け、この成果をコンピュータのシステム設計やプログラミングに取り入れられないかと考えた。彼らが共感したのは、パタン・ランゲージの使用法に関してアレグザンダーが示した、「使い手自身が作り手になるべき」という考え方であった。オブジェクト指向プログラミングという新しいプログラミング言語パラダイムの渦中にあったベックとカニンガムは、コンピュータの使い手自らがプログラミングを行う未来を夢想してパタン・ランゲージを読んだのだ。」
ドグマとしてのアレグザンダーを超えて──設計方法論の臨界と転回

国内にもアレグザンダーが「パタン・ランゲージ」の手法を利用して設計した建物がある.

さまざまな意匠がパッチワークされた外観に一瞬面食らってしまうが,そこには豊穣な体験を持った建築が現れているように思う.
建築や都市における言語化しにくい「空間体験」をモジュール化したアレグザンダーの手法は他分野から見れば参照しやすいのだろう.

私たちは普段から建築や都市に否応なく接しているが,その空間がどういう考えでつくられ,私たちに何をもたらしているのか,をきちんと考える,ということは少ないだろう.
「空間体験」を言語化し,それを参照可能な形に落とし込むことで,私たちが現実空間で享受している空間をゲームの中にも取り込むことができる.



本書の想定読者には建築家も含まれている.

「ゲームデザインの手法を取り入れることで,建築デザインを活性化することも本書の目的の一つです.」
「ユーザの入力に依存するインタクティブメディアとしての空間と建築について,歴史も含めて説明しています.」

建築に蓄積があるようにゲームの歴史にも蓄積がある.建築にはない要素としてはその「インタラクティブ性」だろう.
『ポケモンGO』のような現実空間を利用したゲームが登場する現代,今後はより現実とゲームの境目は曖昧になるかもしれない.
その時に,今度は逆に「ゲームの空間デザイン」というものも重要性を帯びてくるだろう.



目次

(本記事ではChapter1にもいかなかったです...)

●Chapter1 建造物からレベルデザインを学ぶ準備
●Chapter2 レベルデザインのツールとテクニック
●Chapter3 基本的な空間配置とゲーム空間の種類
●Chapter4 ビジュアル要素によるチュートリアル
●Chapter5 生存本能を利用したレベルデザイン
●Chapter6 報酬の空間でプレイヤーを誘い込む
●Chapter7 ゲーム空間におけるストーリーテリング
●Chapter8 インタラクティブ空間とワールドデザイン
●Chapter9 プレイヤーの交流を生み出すレベルデザイン
●Chapter10 サウンドによるレベルデザインの強化
●Chapter11 現実世界を舞台にしたレベルデザイン


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