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日々雑感2018

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テキストなどを放り込んでいく場.基本的には読書録・映画録になると思います.2018年は精読を心掛ける!
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#建築

「おひとりさま」の都市─『ひとり空間の都市論』

同調圧力が高い日本の、おひとりさま。だが都市生活では、ひとりこそが正常だったはずだ。つながりやコミュニティへ世論が傾く今、ひとり空間の可能性を問直す。 *** 南後氏の単著,読了.面白かった.ざっくりと読書メモ. 導入はなんと『孤独のグルメ』から. 「ところで、『孤独のグルメ』の場面構成をパート別に分けた際、何か気づくことはなかっただろうか。そう、「食事」に関する描写と「都市」に関する描写が、ほぼ半々の割合を占めるのだ。都市を手厚く丹念に描写する『孤独のグルメ』は、漫

なぜ「〈物語〉シリーズ」では建築が描かれるのか─背景が語ることはなんなのだろうか

高校二年生の阿良々木暦はある夜、伝説の吸血鬼であり、 “怪異の王”キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードと 衝撃的な出会いを果たす。 まばゆいほどに美しく。 血も凍るほどに恐ろしく。 四肢を失い、痛々しくも無残な伝説の吸血鬼。 全ての〈物語〉はここから始まる— 西尾維新による原作小説「傷物語」を、「Ⅰ鉄血篇」、「Ⅱ熱血篇」、「Ⅲ冷血篇」の 全三部作として映像化。『〈物語〉シリーズ』、『魔法少女まどか☆マギカ』の 総監督新房昭之とシャフトが送る、『化物語』で描

物語装置としての窓

夜のファミレスが何故か好きだ。それは、都心ではなくて郊外のロードサイドであればあるほど、人気がなければないほど、私にとっての好みの場所となる。深夜のファミレスには情緒を誘うものがある。 なぜだろうか。 福田雄一によるドラマ『THE 3名様』は、深夜のファミレスでどうしようもない若者3人組がただダラダラとくっちゃべるという作品だ。 ただダラダラと喋るだけ。特に事件が起きるわけでもない。しかし、なぜ、これを面白いと思えるのだろうか。 ファミレス=物語の同時並列ファミレスには、

「初音ミク」を考える─『初音ミクと建築』1

初音ミクと建築について何か考えられないかと勝手に妄想したものです。時間ある方は暇つぶしにでも。 初音ミクとは 初音ミクは、クリプトン・フューチャー・メディアが2007年から展開している、ヤマハが開発した音声合成システムVOCALOIDにより女声の歌声を合成することのできるソフトウェア音源。初音ミクは「未来的なアイドル」をコンセプトとしてキャラクター付けされた。名前の由来は、未来から初めての音がやってくるという意味で、「初めての音」から「初音」、「未来」から「ミク」。ソフト

初音ミクから都市・建築を考えるための断想録─『初音ミクと建築』2

「初音ミク」を考える─『初音ミクと建築』1 ここからは、何か都市や建築につなげれないかなーと妄想したモノです。断片的な思考ですが。 「動員」の性質が変わることによって変わる音楽ホール 劇場や音楽ホールといったビルディングタイプは普段の私たちにとって馴染みのないものである。日本建築学会によって編集された『音楽空間への誘い-コンサートホールの楽しみ』という本にはこんな一節がある。 「…新しいデザインを生む以前にクラシックコンサートホールを支える社会的環境が微妙に崩れようと

「面会室」という異空間─『凶悪』

スクープ雑誌「明潮24」に東京拘置所に収監中の死刑囚・須藤から手紙が届く。記者の藤井は上司から須藤に面会して話を聞いてくるように命じられる。藤井が須藤から聞かされたのは、警察も知らない須藤の余罪、3件の殺人事件とその首謀者である「先生」と呼ばれる男・木村の存在だった。木村を追いつめたいので記事にして欲しいという須藤の告白に、当初は半身半疑だった藤井も、取材を進めるうちに須藤の告発に信憑性があることを知ると、取り憑かれたように取材に没頭していく。 「わたし」と「あなた」が向き

「武蔵野プレイス」はひとつの風景をつくりだしたのか─背景が語ることはなんなのだろうか3

「ランドマーク」は物語を生む. グーグルで「東京タワー 映画」と検索してみる リリー・フランキーの『東京タワー』が登場する.また右側には江國香織による恋愛小説が検索結果として出てくる.言うまでもなく東京タワーは多くの物語のモチーフとなってきた. 次は「おばけ煙突 映画」で検索してみる 見たことはないがアニメ作品とおばけ煙突を中心とした物語「煙突の見える場所」という作品が出てくる.またおばけ煙突をご存知ない方はこち亀の「おばけ煙突が消えた日」を読まれるといいだろう.昭

「死」とは?─『ニルヤの島』

人生のすべてを記録し再生できる生体受像(ビオヴィス)の発明により、死後の世界という概念が否定された未来。ミクロネシア経済連合体(ECM)を訪れた文化人類学者イリアス・ノヴァクは、浜辺で死出の船を作る老人と出会う。この南洋に残る「世界最後の宗教」によれば、人は死ぬと「ニルヤの島」へ行くという――生と死の相克の果てにノヴァクが知る、人類の魂を導く実験とは? ※※※ 柴田勝家 /『ニルヤの島』を読んで感じたこと。 その風貌や言葉遣いが柴田勝家そのまんまだということで一昨年去

建築の(ちょっとずれた)面白い本を紹介してみる

最近忙殺されていて思考が硬くなり気味です.ということで,変なことに思いを巡らせたいなと思いまして,キーボードを叩いてみている. 世の中には変わった本が山ほどありますが,例に漏れず建築界にも変わった本が山のようにあります.僕が読んだ建築の中でちょっと変わっているな〜,と思った本を簡単に紹介してみようと思います. という訳で最初はこの本です. 『グッドバイ・ポストモダン』隈研吾 今や,日本人なら誰でも知っているであろう建築家・隈研吾氏が著者のこの本.1989年出版です.ア

卒業制作について

色々悩み始めた時は自分が卒業制作にあたってつくったステイトメントを眺めてみたりするのだが,毎回読むたびに,自分はここから(良くも悪くも)離れられてないなー,と思う.結局制作したものがよかったのか悪かったのかも判断できずに,なんとなく「建築」とか「都市」というものを理解することすらできずに,それに近いのか遠いのか分からないような職について,今もずっとその周辺をうろうろしている. そんなどっちつかずな態度がこのステイトメントにも表れている.そして,このステイトメントは「ここが悪

夢の場所、夢の記憶

さて,前回の予告通りに今回は建築計画学の創始者である吉武泰水氏による著書『夢の場所,夢の記憶』を紹介します. 合理性の極みと言っても良い建築計画学をつくり上げた人による夢日記の空間分析という一見チグハグな本書.そのチグハグさがとても興味深い本書を簡単に紹介していきます! なぜ夢には自分が育った場所がよく現われるのか。25年間にわたってとり続けた自らの夢の記録をもとに、建築計画学の第一人者が、夢に現われる場所/建築の考察に取り組む。 *** 建築計画学とは?吉武泰水とは

東京駅丸の内駅前広場にもっと注目してほしい

最近,日本の都市空間においてとてもインパクトのある空間が誕生しました. それが,2017年12月7日に全面供用が開始された「東京駅丸の内駅前広場」です. 2012年に復元が完了した東京駅の駅舎はインパクトを持って完成し,すっかり東京のお馴染みの顔となりました.そして,歩行者空間「丸の内中央広場」,交通空間からなるこの駅前広場も地味ではありますが,東京駅の駅舎と同じくらいとても興味深いプロジェクトです. 何が興味深いのか簡単に解説します(正確な表現ではなかったら,ご指摘く

都市景観についてのノート

パーソナルな世界実写版『ゴーストインザシェル』などで描かれている多言語の看板が入り混じる都市風景に違和感を感じていたが、ウェアラブルデバイスやインプランタブルデバイスで文字をリアルタイム翻訳して表示言語の統一化をはかれるようになると考えれば、その風景に自分が違和感を感じてしまうのもなるほどなと感じた。 リアルタイム翻訳が浸透すれば、今のように日本語の下に英語、中国語を書く必要もないしいちいち表示選択もする必要がないので、むしろ広告のありかたがスッキリするのではないか。そし

場所と空間と認識についての断片的なノート

「マンション」 マンションの廊下。ただただドアや窓などの開口部が延々と続くように立ち並ぶ空間、そこは映画「マトリックス」に出てくるような無機質な空間にも思える。空き室があっても廊下からは知ることはできない。実はそこにはだれもいない何も無い空間がぱっくり口を開けて待っている。資本主義の欲望によって生み出されたこの空間は空間が人間を欲望している。 「新しい」 「人間にとって既に熟知した建物と基本的に、類似した空間構成を持つ建物は、外見的にかなり異なっていても、なじみやすく受