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日々雑感2018

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テキストなどを放り込んでいく場.基本的には読書録・映画録になると思います.2018年は精読を心掛ける!
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#SF

分身、幽霊、グリッチ、ノイズ─『SFマガジン「やくしまるえつこ特集」』

書籍詳細 ●特集 やくしまるえつこのSF世界 音楽家、やくしまるえつこの総力特集をおおくりする。 本誌連載中の「あしたの記憶装置」など、 音楽のみならずSF的な世界観を持つプロジェクト、テクスト、 ドローイングや美術作品などでも活躍するやくしまるえつこ。 ディスクガイドや多方面からの評論で彼女のいままでの足跡をたどるとともに、 「タンパク質みたいに」で話題を呼んだやくしまるえつこ×円城塔による 言葉のやりとり「フラグメンツのあいびき」を始め、 彼女を愛してやま

SF小説からテクノロジーを考えるメモ1

現実を精彩に描くとSFになってしまう、と言われて久しい現代社会とテクノロジーですが、それでもSF小説に描かれる世界は私たちの現実社会やテクノロジーへ何らかの啓示を与えてくれます。 物語として楽しみつつもそこから何が考えられるか、ということを意識しながらなるべく読みたいな。ということで国内SFで色々とメモしてみる。 テクノロジーとの共存(共存した結果、究極的には人間がどのような存在になるかが描かれる) 野崎まど『know』...情報が増えすぎた時代「超情報化時代」に対して「

「死」とは?─『ニルヤの島』

人生のすべてを記録し再生できる生体受像(ビオヴィス)の発明により、死後の世界という概念が否定された未来。ミクロネシア経済連合体(ECM)を訪れた文化人類学者イリアス・ノヴァクは、浜辺で死出の船を作る老人と出会う。この南洋に残る「世界最後の宗教」によれば、人は死ぬと「ニルヤの島」へ行くという――生と死の相克の果てにノヴァクが知る、人類の魂を導く実験とは? ※※※ 柴田勝家 /『ニルヤの島』を読んで感じたこと。 その風貌や言葉遣いが柴田勝家そのまんまだということで一昨年去

AIと人類は共存できるか?

AIと人類は共存できるか? ■長谷敏司「仕事がいつまで経っても終わらない件」憲法改正を行うために総理大臣の大味はアドバイザーとして人工知能「あいのすけ」を採用することを許可したが。。。 人間の言語理解をするに至ってない「弱いAI」しか実現してない本作では、人工知能をカバーするために「人力」が投入される。しかし、その労働環境の誕生とは24時間弛まなく計算を続ける人工知能にあわせてうまれた「最先端のブラック職場」の登場でもあったのだ、その行きつく先は...。 面白すぎる。こ

「環境美化運動」─AR時代以後の都市風景

街は自室ではない。ねむるための巣穴ではなく、獲物を獲りにゆく山野なのだ。街の光景も多数の主体の自律的活動が織りなす点では、山野と変わらぬ一種の〈自然〉だ。自分の思い通りにならない他者の横溢、そこにこそ街の価値がある。ARを重ね書きすることは、狩り場じゅうに自分の体臭を塗りこめるような愚行だ。どこもかしこも自分の匂いしかしない山野で、どうやって獲物を嗅ぎ当てられるというのだ。 「#銀の匙」飛浩隆 あらゆる人が無償で利用できる「最低保証情報環境基盤」。 インターネットが普及し、

うなぎ絶滅後の世界を描く「ポストうなぎSF」─『うなぎばか』

もしも、うなぎが絶滅してしまったら? 「土用の丑の日」広告阻止のため江戸時代の平賀源内を訪ねる「源内にお願い」、元うなぎ屋の父と息子それぞれの想いと葛藤を描く「うなぎばか」などなど、クスっと笑えてハッとさせられる、うなぎがテーマの連作五篇。 仕事が落ち着いたので,久しぶりに国内SF小説を買い漁り,読んでいる. まずは倉田タカシ氏の「うなぎばか」. うなぎ絶滅後の世界を描く「ポストうなぎSF」 というキャッチコピーで土用の丑の日に発売された本作 . 著者の前作『母になる

私たちの前に新たな存在が現れる─『遥かなる他者のためのデザイン』

本書は、メディアアートの実践者として、 また教育者として、最先端を走り抜けてきた久保田晃弘が、脱中心(=固着した人間中心主義から脱却すること、すなわち人間、ひいては社会が変わることを前提とした経験的想像力を超えたものづくり)を志向しながら、工学から芸術へ、「設計」から「デザイン」へと展開した、20年にわたる思索と実装を辿るデザイン論集です。 いま、何をつくったらいいのか? 見たことのないものを、なぜ人はつくれるのか? 真に新しいものをつくりだすということは、どういうことなの

さよなら,わたし─『ハーモニー』

『ハーモニー』4度目くらいの再読.相変わらず素晴らしい作品である. 21世紀後半、〈大災禍(ザ・メイルストロム)〉と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は大規模な福祉厚生社会を築きあげていた。 医療分子の発達で病気がほぼ放逐され、 見せかけの優しさや倫理が横溢する"ユートピア"。 そんな社会に倦んだ3人の少女は餓死することを選択した―― それから13年。死ねなかった少女・霧慧トァンは、世界を襲う大混乱の陰に、ただひとり死んだはすの少女の影を見る―― 『虐殺器官』の著者が描く、ユ

中二病の人工知能─『人工知能の見る夢は』

◎対話システム ◎自動運転 ◎環境知能 ◎ゲームA I ◎神経科学 ◎人工知能と法律 ◎人工知能と哲学 ◎人工知能と創作 3度目のバブルを迎え,人工知能(AI)という言葉は今や知らない人はいないだろうというほど毎日聞くキーワードとなった. しかし,一口に人工知能と言ってもそれらの仕組みと目指すものが違うことは多々ある.本書はそれを「物語」という形で提示する. 「物語」は人間が生み出した現実への媒介装置だ.これを読むことで人工知能にまつわるいくつかの事柄が理解でき

世界は「広かった」─『ペンギン・ハイウェイ』

毎日学んだことをノートに記録している勉強家の小学4年生アオヤマ君は、通っている歯医者のお姉さんと仲良し。お姉さんも、ちょっと生意気で大人びたアオヤマ君をかわいがっていた。ある日、彼らの暮らす街に突然ペンギンが現れる。海もないただの住宅地になぜペンギンが現れたのか。アオヤマ君は謎を解くべく研究を始めるが、そんな折、お姉さんが投げ捨てたコーラの缶がペンギンに変身するところを目撃する。 久しぶりに映画館に馳せ参じて映画を観たのである. あわせて今話題の『カメラを止めるな!』も観た

『伊藤計劃トリビュート』

「公正的戦闘規範」藤井太洋軍事ロボティクスの未来を描いた作品. タイトルのダブルミーニングが憎い.ドローン型戦闘兵器の存在の仕方というものについて考えさせられる.ドローンが落ちてニュースになっていたことがあるが,よくよく考えてみればそこに爆弾を搭載してテロを起こすということが容易にできるということだ. 世界はギリギリのラインで成り立っている. 「仮想の在処」伏見完著者は1992年生まれと何と年下. もうそんなに年になったかと妙に落ち込む. 「わたしの双子の姉。生まれた時に

読者よ,正解されたし─『正解するマド』

野崎まどが脚本を手がけたTVアニメ『正解するカド』のノベライズを依頼された作家は、何を書けばいいのか悩むあまり精神を病みつつあった。次第にアニメに登場するキャラクター・ヤハクィザシュニナの幻覚まで見え始め…… 2017年に放映された野崎まど脚本によるテレビアニメ『正解するカド』のノベライズ. 真道幸路朗(しんどう・こうじろう)は、外務省に勤務する凄腕の交渉官。 羽田空港で真道が乗った旅客機が離陸準備に入った時、空から謎の巨大立方体が現れる。“それ”は急速に巨大化し、252

いまのようなむかしのような不思議な時代─『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』

はるか未来、あるところにシンデレラという人類の進化形・トランスヒューマンの少女がおりました。〈魔女〉から拡張現実ドレスを与えられた彼女はカボチャ型飛行体に乗り、お城の舞踏会へ向かいます。しかしその夜、空から宇宙最強の爆発・ガンマ線バーストの閃光が降り注ぎ―― 「地球灰かぶり姫」ほか「竹取戦記」「スノーホワイト/ホワイトアウト」など、古典に最新の想像力を配合した童話改変SF全6篇を収録。 ハヤカワSFコンテストの受賞作は欠かさずチェックしているのですが,今回の優秀作. 本作は