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キライって言える

今期、第1話をみてはまってしまったドラマがあって。
持続可能な恋ですか、という上野樹里さんや松重豊さんご出演のもの。

ヨガインストラクター役の上野さん。
最初のシーンが素敵な湖(実際は芦ノ湖らしい)のほとりで
静かに座って瞑想しているかのような上野さんの後ろ姿で、
でもハッと現実に戻ると実際は自分の雑多な部屋の中で座っていたという…。

そこから始まって、
その後も生徒さんの前ではヤマニヤマ(八支則:ヨガの世界にある「やってはいけないこと」と「やるべきこと」の教え)を説きながら
控室では同じヨガイントラ仲間がチョコレートを食べている、
なんてのも散りばめられていて
「ヨガ講師的あるある」を感じてしまって、つい見続けている。
(私自身がヨガ講師でもあるのです)

婚活(ある種の恋愛?)という表向きのテーマを持ちながら
世代的なものもあるのか
それほどキャッキャした感じという訳でもなく、
働くこと、
女性の仕事、そして結婚とのバランス、
シングルファーザー、
伴侶と死別した後の恋、
なんて現実感のある糸が静かに織り込まれていて、
ドラマだから
そりゃ「どこにいけばそんな世界線があるんですか」的な展開もあるけれども、
その合間に見え隠れするリアルに惹かれているのだと感じている。

で、そのドラマの中で。
上野さんがみんなのために用意した食事が「お蕎麦」なのを目にして、
シングルファーザー役の田中圭さんの子供である「虹朗くん」が
「ぼく、おそばキライ」と発言するシーンがあったのだ。

すごく子どもらしい発言で、
こういうのってドラマのシーンとしてはあるあるだろうと思う。
昭和の時代から。

だけれど
そこにいた大人たちの対応が「え?」とか「は?」みたいなことじゃなくて、
「そうか、じゃあおにぎりでも作ろうか」と当たり前のように虹朗くんに提案し、
それに対して「ありがとう!」と虹朗くん自身も当たり前のように返事をして
楽しくおにぎり作りをするという
昭和のドラマならこうは行かないであろう場面が展開された。

そしてパパ役の田中さんに、上野さんが
「キライってちゃんと言えて、愛されているんだなと思った」と伝えるのだ。

ああ、なんてやさしい世界なんだろう。
風の時代の象徴のようだ。
そして、やっとこういう世界が
当たり前にドラマのワンシーンとして受け入れられる土壌が
私たち視聴者の中にも醸成されているんだ、と
嬉しくなってしまったのだ。

多分、昭和のドラマなら、こうはならない。

おそばキライと言った虹朗くんはまずパパに叱られ、
周りの大人たちに
「好き嫌いすると大きくなれない」とか
「わがまま言うもんじゃない」とかたしなめられ、
キライなおそばを涙でしょっぱくなりながら食べて
またさらにキライになるという無限ループに放り込まれるわけだ。
そして「大人になったら自分の子供には絶対にそばを食べさせない」とかいう訳のわからない決意をして
キライって言うとろくなことが起こらない、
だから本心は開示しない、という呪いを自分にかける。

キライなものを食べなきゃいけない上に、
大人たちの価値観を盛大に押し付けられ
お叱りまで受けるという三重苦だ。

それはあかん。

キライだと言う感情は、
好きだと言う気持ちと共に尊重されて然るべきものだと思う。

キライだけどチャレンジする、
というのは、自分で決めたなら立派なことだけれど
それは決して他人に強要されていいものではない。

それがキライでない人からしたら
こんなこと大したことない、とか
ほんのちょっとしたことだ、とか思うのだろうが
嫌なもの、キライなことを強要された心の傷は
周りが思うより深くじわじわとしっかり刻まれる。
信用とか信頼といった人間関係に、十分影響する程度には。

昨晩、ドラマを見ていて、
キライと言った自分を受け入れてくれる大人たちがいる、ということは
「私は私のままでいい」
「私は私らしく生きていい」
「他の誰かでなく、自分自身を信じて愛していい」
という自己肯定感や自信や自己信頼に
非常にダイレクトにつながるんだな、
やっぱり環境って大事だな、とすごくすごく思った。

おそばキライな虹朗くんに
『イヤな顔ひとつせず』に(←ここ大事。どんな言葉でフォローしようが子供は本質を見抜く)
おにぎり作りを提案した杏花さん(上野さんの役名)、
あなたは本当に素敵な人だよ、私も惚れちゃうよ。

キライって言えるって大事。
そしてキライって言える環境も大事。
キライって言えるのは、その環境あってこそ。

だから、私も周りの人に対して
キライって言ってもらえる余地を残しておこうと思う。
キライって言っていいんだよ、と思っている。
それが直接的に自分自身に対しての言葉だったら、そ
りゃやっぱり傷つくかもしれないけどさ。


キライは、
好きを見つける大きな手がかりになってくれるかもしれない。

そういう意味でもとっても大事なものだと、私は思っている。

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