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職業としての図書館員(3)図書館員の業務一覧

誰にでもできる仕事?

「図書館の仕事なんて、カウンターで貸出返却してるだけだし、暇なときは本読んでればいいし、誰にでもできるでしょ」
実際に面と向かって言われたこともありましたが、図書館員への誤解あるあるです。まず貸出返却は、図書館業務の中でごくわずかなパーセンテージを占めているに過ぎません(大切な仕事ではありますが)。
「誰にでもできる」という部分については、「誰かが辞めたくらいで立ち行かなくなるのは組織として問題なので、ある程度仕事というものは誰にでもできるようにしておく必要がある。また患者がどうなってもよければ盲腸の手術だって誰にでもできるし、日本がどうなってもよければ内閣総理大臣だって誰にでもできるので、その意味では図書館員も誰にでもできる。ただ誰にでもやらせることが賢い選択かどうかは別問題」と言えるかと思います。

具体的な業務内容

例として、私が携わっている業務をざっとご紹介します。
(ただし、これはあくまでも私の事例なので、図書館によってはもっと担当が細分化されて自分の担当業務以外はやらない、というところもあります。私の勤務先は規模の小さい図書館なので、比較的何でもやる傾向にあります。またここに挙げた業務をすべて私がメインで担当しているわけではなく、担当者をサポートしたり、担当者不在時に代行したり、臨時で頼まれたりしたものもあります)

閲覧系(窓口業務)
貸出・返却
相互貸借(他館からの取り寄せです)
予約・購入希望の受付
レファレンス(本の探し方がわからない、データベースの使い方がわからない、こういうテーマの本はないか、○○について調べているがどうすればいいか…などなどの問い合わせ対応です)
督促(延滞している人に返してくれと連絡します)

整理系(事務業務)
本の発注、書店とのやりとり
納品された本の検品
請求書の処理
書誌データの作成(利用者が検索したとき正しくヒットするように、書名・出版者・版などの情報を入力します。既存のデータを利用することも多いです)
分類(本の内容によって分類します)
所蔵データの入力(配架場所や請求記号などです)
書類のファイリング
リスト作成(「こういう条件でデータを抽出してほしい」と頼まれることが多いです)
予算執行状況の計算
決算関連業務
移管(本の住所変更みたいなものです)・除籍(本を廃棄するために必要です)関連業務

手仕事系
装備(本にラベルを貼ったり、ハンコを押したり、フィルムコーティングしたりです)
壊れた本の修理

力仕事系
配架(本を所定の棚に並べます)
書架整理
本の移動

蔵書点検
定期的にすべての本の在不在を確認するために行います。
職員総出で何万冊の本をスキャニングするので、けっこうな重労働です。さらにそのあと「見つからない本を探す」「見つかった本をスキャンしなおす」「データの誤りを修正する」なども加わります。

施設管理系
巡回(ルール違反の利用者を注意する、なんてこともあります。飲食とか騒音とか、最近だとマスクしてないとか)
除菌・消毒(最近増えました。清掃は業者さんが入っています)
施錠・鍵の管理
館内掲示

イベント系
展示の企画・設営(定期的にテーマを決めて本の展示をするので、アイデアを出したり、準備をしたりします)
各種イベント準備(利用者参加のワークショップや、講師を招いてのトークイベントを開催しています)

その他
電話応対
来客の応対
備品管理
統計調査関連(図書館はよく来館者数や貸出冊数などの数字を出すことを求められるので、その作業です)

一般事務と図書館事務の違い

私自身はたいした人間ではないので、司書の資格を持っているとは言え、超優秀なエリート専門職司書とはほど遠いのですが、自分のやっていることにまったく専門性がないわけではありません。
たとえば請求書の処理みたいな「それ、ただの一般事務だろ」と思われるようなものでも、書誌の知識がないと「発注した本と微妙に違う本が納品されている」「納品された本は正しいが、請求書の記載が間違っている」といった事態に対応できないのです(「版と刷の違い」「書誌の階層構造」「現物資料からの情報源の取り方」などの知識が必要になります)。データ入力も同様です。もちろんそこまで難しいことではないので、一定のレクチャーとトレーニングを受ければ誰でもできるかもしれませんが、今度はその「レクチャーとトレーニング」を誰がやるのか、という問題が発生しますので、やはりある程度わかる人が安定して存在する職場であることは必要になりそうです。

司書と図書館員の違い

ものすごく乱暴な例えで、語弊があるかもしれませんが、司書と図書館員の違いは、医師と医療事務員の違いのようなものです。ただし日本の現状では「医療事務までやっている医師もいれば、医療事務の名目で雇われているが医師免許を持っていて、診察や手術までしている人もいる」という点が違います。
前項で挙げた仕事のうち、「レファレンス」や「書誌データの作成」は司書の専門的な業務とみなされることが多いです。またそれとは別に「予算折衝」「広報」「システム管理」「労務管理」のような仕事も重要ですが、こうした方面で有能な人はどこの部署でも使い道があるので、とくに図書館に限ったことではありません。一方で「貸出・返却」や「配架」は非専門業務とみなされがちで、非正規職員やボランティアに任せているところもあります。
ただ、私はそれが良いとは思っていません。専門職の司書がレファレンスおよび管理運営にかかわる仕事だけやって、貸出返却や配架はバイト任せ、というのでは、レファレンスカウンターに来る人は限られていますので、利用者からみればもっとも接する機会の多い、いわば図書館の顔である業務を放棄することになるからです。また仕事というのはそれぞれがつながっていて、「重要な仕事」と「どうでもいい仕事」と簡単に仕分けられるものではありません。その意味では「何でもあり」の現在の職場は、私にとって幸せだと思っています。体が一つしかないのは困ったところですが…。


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