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図書館のお仕事紹介(11)相互利用

相互利用とは、要するに図書館同士でやる本の貸し借りです。
(Inter Library Loan、略してILLともいいます)
「自館に登録している利用者からの依頼で、他館の所蔵資料を利用させてもらう」業務と「他館からの依頼で、自館の所蔵資料を提供する」業務になります。

さらにそのなかで、本そのものを貸し借りする「現物貸借」と必要なページだけコピーして送ってもらう「文献複写」に分かれます。

さらにその前段階として、求める情報が掲載されている本を実際に確認する「所蔵調査」が加わることもあります。

また利用者が直接相手方の図書館を訪問するケースもあるので「紹介状の発行」という仕事もあります。

前回ご紹介したレファレンスの過程で他館からの取り寄せが発生することが多いので、図書館によってはレファレンスと相互利用の窓口が同じで、担当者も同じ人だったりします。

相互利用の大変なところ

何と言っても借りるのが「ひとさまの本」ですから、気を使います。
破損や延滞にしても、それが相互貸借した本だと、先方に謝らなくてはいけなくなるのでILL担当者の胃を痛めることになります。

また普通なら利用者に勝手に来てもらって、自分でカウンターまで借りたい本を持ってきてもらい、こちらは貸出処理するだけでいいものが、相互利用だと事前に所蔵調査を行い、貸出条件を確認し、スタッフが本を探しに行き、必要に応じてコピーを取り、梱包して発送し、訪問利用なら紹介状や身分証を確認し、このご時世なので事前予約を取り…というもろもろの作業が増えることになります。

さらに場合によっては送料やコピー代や交通費など、利用者に金銭的な負担が発生する可能性があるので、お金が絡むことだけにミスのないよう神経を使います。

「所蔵調査」というのも曲者で、以前どこかで間違った情報が拡散したらしく、存在を確認できない文献についての調査依頼が何回も舞い込み、そのたびに「当館所蔵資料を確認しましたところ、該当の文献は掲載を確認できませんでした」という回答を送るはめになったことがあります。このときはスタッフみんなで「もしかして巻号の間違いでは?」「○○で検索してみたらどうだろう?」などと知恵を出し合ったのですが、結局何だったのか謎のままです。

仕事の質を上げるための工夫

利用者の立場になって、すこしでも「早くて安くてラクな方法」を探るのが基本です。

求める資料の所蔵館が複数ある場合、どこに頼むかも重要です。ここはなかなかアナログな要素もあり、経験を積んだ担当者だと「この図書館はいつも仕事が遅いけど、こっちの図書館は担当者が優秀ですぐやってくれるからこっちに頼もう」などという判断ができます。
さらに「いつもお世話になっているので優先して処理しました」みたいな「義理人情」もあります。図書館といえども人間のやることですから信頼関係というものもあり、不誠実な対応をしていると「もうおたくには貸さない」となってしまう可能性もあります。
逆に迅速な対応をしていると「あそこに頼んでおけば間違いない」となって依頼がやたらと増えて忙しくなってしまう、というジレンマもありますが、評判がよくなるに越したことはないです。

また最近では取り寄せをしなくてもネット上でPDFがダウンロードできたり、デジタル送信サービスが利用できるケースもあるので、そういった方法が使えるか調査したうえで利用者に選択してもらう、という仕事もあります。

相互利用は後回し?

以前、上司に「他館からの相互利用は後回しでいい。自館の利用者が最優先なんだから、余裕があったらやることにして、無理なら断ればいいから」と言われたことがあります。
たしかにそれも一理はあり、小規模な図書館であまり大量の依頼が来た場合、作業的に対応しきれないことはあると思います。また公共図書館なら地元の自治体に納税しているわけではない、大学図書館なら学費を払っているわけではない外部の利用者に資料を提供するために、自館のスタッフが残業するのはいかがなものか、という考えもあるでしょう。
一方で目の前に資料があり、他方にそれを必要とする人がいるなら、利用の機会を逃したくない、というのが図書館員の情というものです。
他館から「よそには全館謝絶されてしまい、残る所蔵館は国内で貴館のみです。どうぞよろしくお願いいたします」と言われると断りづらくもあります。
結局これもお互いさまであり、こちらから借りるかわりに向こうからも貸してもらい、助け合って資料を融通していければ、ということではないでしょうか。

相互利用を活用しよう

「地元の図書館や通っている大学の図書館がしょぼい」とお嘆きの方もいらっしゃるかと思いますが、いっそ最寄りの図書館は「単なる窓口」と割り切って、相互利用を使い倒す、というのはいかがでしょうか。
近隣の自治体図書館、都道府県立図書館、大学図書館、専門図書館などの各種情報センター機関、さらには海外の図書館にまでネットワークをひろげれば、求める資料が手に入る可能性は飛躍的に広がります。

図書館の側に立っても、今後資料購入費や書架スペースの確保はどんどん難しくなるでしょうし、自館でまかなえない領域が増えるぶん、他館の所蔵資料をあてにする傾向は強まると思います。

また現時点ではは著作権が壁になってなかなか難しい部分もありますが、将来的に法整備が進めば紙のコピーを送るかわりにデジタル送信で対応できるようになって利便性向上も期待できます。

そんなこんなを考えると、相互利用というのはこれからけっこう重要になる業務なのかもしれません。



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