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「温泉入るっしょ」って言ったら「それ変態っしょ」って言われた話

2022年11月。ぼくはアリゾナの地に立っていた。Amazonクーポンの開発チームに直接会いに行くためだ。

Amazonの本社はシアトルにあるわけだけど、すべてのチームがここにいるわけではない。これを書いている時点で、Amazon Musicの部隊はサンフランシスコに、Prime Videoのチームはロサンゼルスに、広告のチームはニューヨークにいたりといった具合だ。そしてAmazonのセールの開発チームの多くはここ、アリゾナのTempe (テンピ) という場所にいる。

このヤシの木が生えていたり、サボテンが生えていたりするところがとってもアリゾナな感じがする。岩山に砂漠と、いかにも水分が足りていなさそうな感じである。

ぼくはシアトルに移ってからというもの、ずっとひとりでシアトルで働いていたもんだから、チーム全員と会うのは初めてのことだった。エンジニアのみんなはとっても若いという話を以前書いたけれど(こちら)、そんな彼らがオフィスで歓待してくれた。「よー!たまねぎ!」と。

初めて直接会う彼らは、パソコンの画面越しに見るよりもずっと若々しい。「大学とか大学院とか出たてほやほやなのに、グローバルで使われるプロダクトを開発しているって凄いことだなー」と一人で感心してしまう。

せっかくアリゾナまで来たからということで、仕事終わりにそのエンジニアくんたちはダウンタウンのバーみたいなところに連れていってくれた。いわゆるスポーツバーみたいなところで半袖半端の野郎どもがバスケやアメフトなどを映し出す大画面のモニターを眺めながらはしゃいでいた。ぼくらも全員男だったので同じく野郎どもである。

「シアトルの生活はどうよ?」とか「週末はどうしてんのよ?」みたいなたわいもない話をしながらビールを飲む。ぼくはチームで唯一の日本人であるがために色んなことをとにかく聞かれる。そのなかで一番どうでもいいんだけど、一番印象に残ったのが温泉についての話だ。

エンジニアくんたちの半分は日本のアニメが好きすぎてこじらせている。ぼくが10巻ぐらいで挫折したワンピースも読破しているし、電話会議でチラッと見える彼らの部屋には鬼滅の刃のポスターが貼られていたりした。「ハンターハンターでどのキャラクターが好き?」という話になった際には「あのーめちゃくちゃ強いんだけど、指プスってやって爆発しちゃう人誰だっけ?」「あーネテロ会長ね」みたいな会話をしたり。また「たまねぎはこち亀何巻まで読んだ?」と聞かれて「いや、一巻も読んでない」と答えたときに彼らが見せた引きつった表情は忘れられない。「いや、こち亀ぐらいおさえておこうよ」と言わんばかりだった。

そんな彼らはアニメを通して日本のことをよく知っているみたいだった。思わぬ質問が飛んできた。なぜかニヤニヤしている。

おいたまねぎ、Onsen (温泉)"って知ってるか?

もちろん、大好きだよと答えると、

日本人って知らない人同士で一緒にお湯に浸かって、"あー気持ちいい"とか言うんでしょ?…それって本当か。本当なのか!?

と。ぼくもよく分からないけどなぜか真顔で返事をする。

あーほんとうだ。

それを聞いてきたオタクエンジニアくんたちは被せて質問を飛ばしてくる。

しかも湯船に入るときはみんなスッポンポンなんだろ?

ぼくは答える

あーほんとうだ。

エンジニアくんたちはもうケラケラ腹を抱えて笑っている。「腹いてー」とか言ってむせかえっているやつもいる。ハイキングが趣味というオタクじゃないエンジニアの子もそんな話にもいよいよ乗ってきて

おージーザス!じゃあみんな変態じゃん!

と発してきたので、ぼくもなんでかは分からないけど

あーそうなんだ。

と真顔で答えておいた。今度はぼくから

温泉入るっしょ?君らも。

と言い切るかスレスレのところで食い気味に

入んないっしょ!

とツッコミが入った。きっと彼らは今後日本人に会うたびに「おい、お前ら"Onsen (温泉)"に入るのか?」と聞いて回るんだろう。その度に腹をよじらせて笑い狂うんだろう。

温泉というのは日本だけの文化じゃないとは思うけれど、それでも彼らにとっては馴染みがないものなのかもしれない。温泉に入るということがなんでこれだけ不思議に映るんだろうか。

思うにこれは湯船に浸かる文化の違いなんじゃないかと察する。まずお風呂を沸かして入るというよりはシャワーでさっと汗を流すだけという人が結構多いんじゃないかと思う。その証拠に色んな部屋でシャワールームはあるけどお風呂はない、というのを見たことがある。

アメリカでは大体の家でお風呂(もちくはシャワールーム)とトイレは同じ部屋に併設されている。面白いことにこれは部屋の大小に関わらず、なんなら結構大きい家に至ってもそうだったりする。アメリカに旅行に行ったり、住んでいたりする方には納得していただけるんじゃないだろうか。

なぜこうなのかという理由は詳しくは分からないけれど、水回りをできるだけまとめた方が部屋の設計上都合がいいとかそういう理由もあるのだろう。ただそれだけじゃなく"お湯で体を流す"という行為がトイレで用を足すということ、つまり"汚れを落とす"という同じレイヤーで括られているんじゃないだろうか。ちょっと汚い話になってしまったけれど。

こう考えるとお風呂にどこかリフレッシュのイメージを抱いている日本とはかけ離れた感覚であっても仕方ないと納得してしまう。アメリカ人からすると「一人でもお風呂に入ることそんなにないのに、みんなでスッポンポンで入るって…しかもみんな知らない人同士なんでしょ!」となれば、それはもう変態というしかない。こちらの負けである。

初めてのアリゾナで、「温泉入るっしょ」って言ったら「それ変態っしょ」と言われた話でした。いやー海外生活はなんて学びに満ちているんだろう。

今日はそんなところで。アリゾナはTempe (テンピ) にて綺麗な夕日を眺めながら。

それではどうも。お疲れたまねぎでした!

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