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帰る国があるということ -アンドレとデシオの話-
ぼくは目にちょっとした病気があり(それについては以下の記事で書きましたが)ずーっと同じ眼科に通院をしている。アメリカに移住した後も、日本に帰国する度に決まって訪れる眼科があった。
最初の帰国時のこと。ぼくはアメリカに移住してから初めて日本に帰り、そしてその眼科へと向かったのだった。久しぶりだ。
ぼくはいつものルーティーンとして通院している病院へと向かった。目黒にある会社のオフィスに程近いその眼科にはいつもの光景が広がっていた。全体的に白くシンプルな内観、優しく声の高い受付の方 (ミドルエイジの女性の方)、声を異様にヒソヒソとさせながら会話するお客さん。
「福原さん、検査するので中にお入りくださーい」
この呼び声もいつも通りだ。慣れた足取りで診察室へと入る。そこには「待ってました」と言わんばかりにいつもの眼科助手の方がいた。40代ぐらいの男性で白衣越しにムキムキの筋肉がチラついている。
ぼくは目の診察を受けるべく検査台の前の椅子に腰掛けた。ここもいつも通りだ。ぼくはふっと息をつく。ルーティーンとはなんて心を穏やかにしてくるものなのだろう。
そんなことをふと考えていたら、その眼科助手の男性がこういきなり話しかけてきた。
「どうです、アメリカ?日本よりきっといいですよね?」
ニヤニヤと不適な笑みを浮かべ、なにやら悪い話をコソコソとするかのようにそう言うのだった。
ぼくはなぜだかげんなりした。「日本よりきっといいですよね?」という質問には答えず、さらっとテキトーなことをを言った。
なぜげんなりしたのだろう?その質問がいつものルーティーンには含まれていなかったからというのもあるかもしれない。
でもそれよりもなによりも「なんでそんなことを言うのだろう?」と素朴に思った。
日本を悪く言って悦に浸っている言葉を本当によく聞く。ぼくはその度に「なんでだろう?」と首を傾げてしまう。
アンドレとデジオの話
その言葉を聞いてぼくは同僚のアンドレとデシオのことを思い出した。アンドレとデシオは両方ともブラジル出身だった。お互い30代後半〜40代前半ぐらいの成年男性という感じで子供のいるお父さんだ。アンドレはアメリカのアマゾンで、デシオは日本のアマゾンオフィスで働いていた。ぼくは仕事柄二人とはよく一緒に仕事をしていた。
コロナが始まるちょっと前の話。スペインのマドリードでサミットというのがあった。サミットとは簡単な話、Amazonの各国のチームが一つの場所に集まってあれやこれや話すイベントだ。ぼくが担当しているAmazonのセールに関する関係者が一堂に集まるのだった。
各国のプレゼンが終わった後に、同僚のアンドレとデシオが大部屋の一角で話し込んでいるのを偶然耳にした。ぼくは近くのデスクで仕事をしていたこともあって自然と会話が聞こえてきた。
「しばらくはブラジルに帰れないよね」
そんな話だった。政治が不安定で家族と暮らすには不安があるし、キャリアのことを考えるとブラジルに戻るという選択肢はない。そんな話をあくまでカジュアルに、されどどこかシリアスさを滲ませたトーンで話していた。
ぼくはその会話の一部始終を聞いて「そうか、そんな事情があるんだな」とつくづく思った。アンドレがアメリカにいるのも、デシオが日本にいるのも理由があるのだった。そして二人ともブラジルに帰れないと思う事情があるのだった。それは正直に言うと帰る国 (ぼくの場合は日本) があるぼくには到底想像が出来ないものだった。そんなこんなについてしみじみと考え込んでしまった。
今アンドレはAmazonを辞めてアメリカのスタートアップの会社で活躍しており、デシオはカナダへと渡った。
デシオとは別れ際に話したけれど、カナダに渡った理由はあんまり分からなかった。分かったのは「まあそこには色んな事情があるんだろう」ということだけだった。故郷ではないにしろ、他に居心地のいい場所を探していたのかもしれない。何はともあれ元気にやっているといいなーと思う。
「日本ぜんぜんいいぜ」って話
「日本は生きづらい」という気持ちはとってもよく分かる。狭い国土にたくさんの人が住んでいるわけだから耐え難い同調圧力もあるし、息苦しく思っている人も少なからずいると思う。経済もイケイケで伸びているわけでもないし、なんなら「30年以内に人口が30%ぐらい減るだろう」とも言われてるわけだから不安は募るだろう。これからキャリアを築こうとする人は「日本にいていいのだろうか」と真剣に悩むこともあるかもしれない。なんならぼくもその一人だったわけだし。
それでも帰れる場所として日本があるというのはとても素晴らしいことだ。そしてその事実は当たり前のことではなかったりする。もちろん日本は問題だらけかもしれないが、それはアメリカも同じだし他の国だって様相はさして変わらないだろう。それでも日本はご飯は美味しいし街は綺麗だし。それだけでも日本ってぜんぜんいいなって本気で思う。ネガティブな部分に目をつけてしまうとキリがないぜって思ってしまう。これはどんなことにも当てはまるかもしれないけれど。
日本という枠 = 自分の枠と考えて卑下する人。遠くのどこかに桃源郷を見ているんじゃないか、と思ってしまう。日本という枠に狭さや限界を感じていると、それが自分自身のポテンシャルを抑え込むものだと思ってしまう。それは部分的には当たっているところもあるかもしれない。
でも自分の枠というのは周りに規定させるのではなく自分自身のアクションによって大きくしていかなくてはならないと思う。アンドレが帰る国がなくてもアメリカのスタートアップでガンガンやったり、デシオが日本を離れてカナダで挑戦を続けるように。
人生の可能性を生まれた場所によって阻めさせない。そのために闘わないといけないんだよなって思う。
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今日はそんなところですね。旅行で訪れたニューヨークにて。夕暮れのロッカウェイビーチをてくてくと散歩しながら。
それではどうも。お疲れたまねぎでした!
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