シカゴ旅行記 -ゴッホと限りなく微妙なラーメン-
シカゴを旅行する上で"ど定番"の場所を訪れたい。そう思ってダウンタウンの辺りを散歩することにした。
シカゴの街はぼくが住んでるシアトルに比べると建物が古く、そしてどのビルも背丈が高い。それもあってか、歩いていると背筋をピシャリと伸ばしたくなる。この街のクラシックな雰囲気は都会のカッコ良さというものを体現している気がする。ちょっとおしゃれをしてさっとクールに歩きたくなる。
Millenium・Park (ミレニアム・パーク)
とりあえずシカゴと言えばここ、という場所に行ってみる。Millenium・Park (ミレニアム・パーク)だ。ダウンタウンをミシガン湖に近づく形で歩いていくとたどり着く。
公園はだだっ広い。なんとなくニューヨークのセントラルパークみたいだなと思うけれど、そんなことを口にしたらシカゴの人にもニューヨークの人にも「全然違う」とか言われて面倒そうだ (ただの想像に過ぎないけれど)。井の頭公園と代々木公園も同じようなもんだと言ったらムッとする人がいるだろう。それと同じように。
ときたま思いついたようにオブジェが置かれている。それは例えばヨーロピアンなモニュメントだったり、2001年宇宙の旅に出てきそうなモノリスのような石柱だったり。
そしてお目当てはもちろん、ビーンだ。名前の通り豆 (ビーン) の形をしたオブジェでシカゴ名物といえばこれである。どんな観光ガイドにもシカゴといえばまずこの写真が出てくる。このビーンの前で写真を撮ってはじめて「シカゴ旅行したなー」という感慨を持つ人だって多くいるに違いない。いやーーー楽しみだ。いよいよ見れるぞ。
ワクワクしながら公園の中を歩き進めると何やら灰色のフェンスに覆われている一帯がある。「ん?」と思い恐る恐る近づくと…
なんとビーンは工事中とのことだった。ぜんぜん観れない (笑)。
仕方ないのでフェンス越しにパシャリと一枚だけ写真を撮った。遠くから見ると随分と縮こまっているように見えた。工事現場にうずくまった姿だったからだろう。
残念ではあったけど、まあこういうことは旅に付き物だと納得して次に進む。
ミシガン湖沿い
シカゴ美術館に行く前にもう少し散歩をしようと思いたつ。ミレニアム・パークを突き抜けてミシガン湖の方へ。
はじめて見るミシガン湖は衝撃だった。少しくすんだ、されど鮮やかなブルーが眼前に広がる。すっと横に広がる水平線には何一つ遮るものもない。小さな漣 (さざなみ) が太陽の光を淡く反射して微かに眩しい。ずっと海面を、じゃなくて湖面を眺めているだけで感傷的な気持ちになってくる。それにしても、これが海ではなくて湖と信じろという方が無理な話だ。はるか昔に住んでいた人はきっと本当にこのミシガン湖を海だと思っていたんじゃないか。それくらい湖としては色んな意味でスケールが違う。
人々は気持ち良さそうに湖の周りを散歩したりジョギングしたりしている。すれ違いざまに会釈をするときにはお互い「気持ちいよね」と言葉に出さずにとも声を掛け合っているかのような気がする。
あまりに気持ちが良かったので気付いたら1時間ほど散歩をしていたことに気付く。そしてお腹がグーっとなっていることにも気付く。さて腹ごしらえの時間だ。
シカゴと言えば、厚底のピザでしょ。というわけで近くのピザ屋に入って早速注文してみる。注文してから待つこと20分…底が厚いから焼くのに結構時間がかかるみたいだ。
やってまいりました。ガバッと口を大き広げてパクッとひと噛み。じゅわっと口の中でトマトの味と濃厚なチーズの味とが混ざり合って広がる。これは美味しい。だけど、何よりデカい!(笑)
The Art Institute of Chicago (シカゴ美術館)
昼食を済ませシカゴ美術館へと向かう。ここは全米、いや世界的に見ても圧巻のセレクションを持つ大人気美術館だ。シカゴに旅行するとまずここは外せないだろう。印象派やアメリカ美術、その他アフリカやアジア関連の展示など目白押しだ。
この美術館のイチオシといえば、なんと言っても2階にある印象派のフロアだろう。教科書にまんま載っているような絵がほんとゴロゴロ置いてある。
ちなみに最初にびっくりしたのがみんなガンガン写真を撮っていたことだ。絵にギリギリまで近づいて接写している輩もちらほら。美術館ってそんなところだっけ?と思いつつ、自分も遠慮なく写真を撮っていく。
初っ端からセザンヌ、ゴーギャン、モネの絵などがお構いなしに出てくるので面食らう。少しの出し惜しみもない。
ただそれでいてここから更にブーストしていくから面白い。印象派のフロアの真ん中から先はまさに「これどっかで見たことある!」という類の絵がぽんぽん出てくる。
いやーーー大満足だった。2時間もあれば全部回れると思うが、もっとじっくり観たければ優に3時間は必要だろう。きっとまた来たい、いや来るのだろう。そう静かに決意をして美術館を後にする。
ラーメン屋さん
夕方にジャズクラブに行く予定だった。まだ時間もあったからぶらぶらと散歩をする。すると"Ramen"の文字がすっと目に入る。アメリカのラーメン屋というと当たり外れがあるから気をつけなきゃとは思っているのだけれど、旅行中ということもあって気が大きくなっていたのだろう。気付いたら暖簾をくぐっている自分がいた。
いやはや。見てくれはなんとも"ぽい"じゃないか。こういう感じのお店、新橋とか品川でも入ったことあるぞ。ま、細かいことをいうと白い暖簾みたいなところになんか書いてあるなと思ってみたら「なごや」とか「べっぷ」とか書いてあるじゃないか。普通メニュー書くと思うんだけどな。まあいいか。
ここはラーメンと餃子ということで早速頼んでみる。注文を終えると「しゃーーっす!」とか意味の分からない奇声をあげてボーイの人がキッチンにバタバタと踏み込んでいく。ふぅと一息着く間もなく「ギョーザです!」と言いながら一皿持ってくるではないか。
なんだこれ。それを一眼見たときには手裏剣に膜が張ってしまったもののように見えた。忍者の人に言わせれば「そんなことはないよ」と普通に否定されるだろうが。まあ、何はともあれ食べてみる。一口かぷっと。
なんだこれ。口に広がる粉感。肉汁とかじゃない。皮の生乾きの粉っぽさが口いっぱいに広がる。餃子を食べてこんなに粉を感じたことは人生で初めてだ。肝心の膜の部分も「サクッ」としてくれたら「いい焼き加減ですね」とでも言いたくなるが、なんかブヨブヨしているのだ。一体どういうことなんだ。なんだこの手裏剣餃子は!!
そうこうしているうちにラーメンがやってきた。豚骨ラーメンだ。
一目見て思わずニヤリとしてしまう。「お、これは美味いぞ」と直感的に理解する。ちゃんとしたラーメンじゃないか。匂いは香ばしく、具もスープも質の良さが伺える。何よりも見てるだけで伝わってくる、この味わい深さ。きっとコッテリのスープに病みつきになってしまうだろう。なんだか博多にもでも来た気分になってきたぞ。味を想像しただけで、ほくほくしてきた。
どうやら餃子はアメリカ人には難しかったみたいだ。まあ仕方ない。あんな白い袋に入った肉の塊、よく分からなくて当然だ。全力で白い袋を作るのを手を抜いたのだろう。そうでないとあの絶妙な粉感はあり得ない。期待したぼくが悪かったよ。さ、気を取り直そうじゃないか。ラーメンはきっと美味いさ。
食べかけの手裏剣餃子を横に押しやり、ラーメンを正面に置く。蓮華でスープをずずずっと一口飲み干す。
なんだこれ。
おい、なんなんだ、この味のなさは!
そしてなんだこの奇跡的なコクの無さは!!!
見た目は美味い店のラーメンのスープだ。ただ蓮華で一口スープを啜ればわかる。ほとんど味がないのだ。ぬるま湯に塩を「えい」って適当に振ったとかそんな感じの味がする。そんなことがあっていいのだろうか。
具と麺はどうか。これは…なんというか…すごく微妙だ。上手くも不味くもない。100点満点で言えばちょうど50.0点だ。50.1点でも49.9点でもない。こんな抜きん出た普通さがあってもいいのだろうか。
とても深刻な表情でラーメンを啜っていると、やたらとボーイの子が「食べ終わったか?お会計するか?」と聞いてくる。「いや思いっきり食べてるだろうが。しかも深刻な顔で!」とか思うのだけど、まあこれも仕方ない。「客がラーメンは食べ始めたら一刻も早く店を出るようプレッシャーをかけるべし」といった誤ったレクチャーを受けているのかもしれない (一体誰がそんなことしたんだろう)。
神妙な面持ちで (文字通り) 後味悪い中、店を後にする。
なんだろう。すごく不味かったわけではないのだ。美味しいところもあった。でも何かが決定的に欠けているのだ。こんな不思議な食べ物はあるのか。
また一つ世の中のことを知った。そう心得てジャズクラブにてくてくと歩きながら向かう。
Andy's Jazz Club (アンディーズ・ジャズ・クラブ)
シカゴのジャズクラブと言えば、ここを挙げる人がきっと多いんじゃないか。老舗のAndy's Jazz Club (アンディーズ・ジャズ・クラブ)に訪れる。
店内は思ったより広く頑張れば数十人は入りそうだ。内観はヒップな感じで、いい意味でジャズジャズしていない。
この日はシカゴの地元のミュージシャンの演奏を聴く。ロイ・ハーグローブに影響を受けているのかなと思うような佇まいと音使いのトランペット。バンドサウンド自体も彼のバンドを彷彿させるようなところがあった。縦ノリの思わず踊ってしまうようなグループに唆されてアルコールがよく回る。気持ちくビールをグイグイと飲みながら音の渦に飲まれていく。
ぐるぐるとした頭の中で今日の旅を振り返る。すると頭に浮かぶのはゴッホの素敵な絵画たちと、あのどこまでも微妙なラーメンだった。
今回はそんなところです。
それではどうも。お疲れたまねぎでした!
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