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"ミニ" イーロン・マスクを作るには

ぼくは幸いなことに「きっとまじめにやっていれば、いつかはそれなりの成果を出すことができるだろう」ということを信じることができるみたいだ。もちろんこれまでに穴があったらダイブインしたいような恥ずかしい失敗は一つや二つではない。大学生のときの就活はさっぱりうまくいかなかったし、社長から直々に「プロジェクトから外れてくれ!」と言われたこともある。思い出すだけでどんよりとした気分になってくる。

それでも「頑張っていれば (ある程度) 自分がたどり着きたい場所にいけるはずだ」という気持ちをどこかで持てている自分がいる。それは要領はともかくたくさん手を動かせる性格だったり、ちょっとばかしの成功体験だったり (それはたとえば念願だったアメリカ移住を含む)で自信がつく機会があったからかもしれない。それはきっとそんなに悪いことじゃない。

ただ良くもわるくも、そんな心持ちに変化が起きた。この1年のことだ。

それは「こいつには到底叶わないな」と思える人に、ここアメリカでは出会うからだ。

もちろんこれはぼくが働くAmazonのようなテックの分野の仕事で、という限定付きの話にはなってしまう。ただなんとなく考えてみる価値があると思うので書いてみる。

アメリカのすげーやつ

結論を先に言おう。

アメリカには、技術とビジネスの両方を熟知しているすごいやつがいる、ということだ。

「ん?それが?」って感じかもしれないので例を出したい。

ぼくが働いているチームはAmazon全体のセール機能を開発している。プライムデー、ブラックフライデー、はたまた日本だったらほぼ月で (ほぼ日ではなく) 実施している"Amazonタイムセール祭り"でわんさか出品されているセール。あの裏側のシステムを開発している。

このチームはおおよそ100人ぐらいの規模だ。ざっとエンジニアが90人くらいで残りはプロダクトマネージャーやデザイナーなど。この100人のなかで、とんでもない輩が少なくとも2人いる。

サトイモさんの話

1人はこのセールの開発チームのトップだ。ここではサトイモさんと呼ぶことにする (なんとなくそんな感じの頭の形をしているので…って言ってるのがバレたらまずいけど笑)。

サトイモさんは企画書のレビューやビジネス指標を確認するWeeklyのミーティングなどでプロダクトマネージャー陣に対してキレキレの質問をしてくる。「この数字のYoY (昨対比)とWoW (前週比)の乖離をどう説明する?」とか「この閲覧数の数字はどう見てもおかしくない?ロジックはどうなってる?」とか。そして企画書のレビューでは「カスタマーにとってのメリットを最大限クリアにしてほしい」といったことにも余念がない。

かと思えばエンジニアたちとのミーティングでは、ガンガン技術的なことを指摘する。「このシステム障害を次起こさないためにどこにアラームを設定するの?」だったり「システム移管をするときにどの機能は作り直さないといけないのか?」だったり。

ジャガイモくんの話

もう一人は30歳ぐらいの若手エンジニアだ。彼の場合、そのコロコロとした頭付きからして"ジャガイモくん"と呼ばざるを得ない (これもバレたら怒られそうだ笑)。メイクインではなく男爵芋といった感じだ。

ジャガイモくんは20代のエンジニアから羨望の目で見られている。彼は他のエンジニアが1のアウトプットを出す間に10ぐらい出す。これは誇張でもなんでもない。

ちょっとだけ話は逸れるけど、シアトルでご活躍されている牛尾さんという方が書いたNoteを読んでいた。

この記事の中で優秀なエンジニアを指して、

ややこしい構造でもすぐ理解できて、まるでピアノを弾くようにコーディングする。

記事「仕事ができない感から完全脱却してみる」より

とあった。この表現に出くわしたとき「めっちゃ分かるーーー」と思った。ジャガイモくんがまさにこれで、どんな複雑なことも鼻唄をふんふん歌いながらやってるんじゃないか?というような軽快さで紐解いてしまうのだ。

ジャガイモくんはビジネスに関する仕事でもキレキレだ。ぼくがとある企画書を書いて彼にフィードバックをお願いしたところ「お安い御用よ!」とあっさり引き受けてくれた。翌日の朝にぼくがパソコンを開いたときには企画書にびっしりフィードバックが書き込まれていた。「この機能を一時的に制限するなら、どの機能を代わりに提供してユーザーの満足度を下げないようにするか?」とか「個々のプロダクトの機能を話す前にそもそもプロダクトの方向性や原理原則について定義しないとじゃない?」とか。うん、彼はプロダクトマネージャーでも十分やっていけるだろう。

ジェフ・ベゾスやイーロン・マスクだって

二人に共通するのはエンジニアリング・ビジネスの両面で秀でているということ。ぼくは技術の部分で彼らに勝てるわけはもちろんないけれど、ビジネスの部分でもPM (プロダクトマネージャー) 顔負けの活躍をされると出る幕がない。

周りの開発チームを見渡してもこういう人がそれぞれのチームに何人かいるような気がする。そして決まって彼らはチームの要であるようにぼくには見える。そう、Amazonのアメリカ本社に来て思ったのはこういう人材がゴロゴロとまではいかないけれど少なからずいるということだ。そしてこういう人材がいるとプロダクトをユーザーにとって有効なかたちで成長させることができる。

思えばジェフ・ベゾスやイーロン・マスクだってこのタイプだ。元々は自分でコーディングをしてプロダクトを開発していた人だが、市場やユーザを深く理解して戦略を練ることができる一流のビジネスマンでもある (ぼくが言うのもなんだかおこがましいけれど)。マーク・ザッカーバーグだってラリー・ペイジだってそうだ。

アメリカにはビジネスと技術の両輪を一人でガンガン回せる天才がいる。その数はもちろんごく少数なんだけど、そのわずかな数の天才によってアメリカの(いやなんなら世界の)未来が形作られている部分がある。

ひるがえって日本では

ぼくはアマゾンジャパンとフリービットという二つの会社で働いたことがある。どちらの会社にも心から凄いと思える人にたくさん会うことができた。プロジェクトのPDCAをガンガン回すPM、気概とユーモアに富んだ人間味溢れる組織のリーダー、はたまた研究者気質のエンジニアなどなど。

ただ「技術とビジネスの両方で長けた人材」となると、少なくともぼくが知る限りではほとんど見たことがない。エンジニアリングで、もしくはビジネスで、その片方において突き抜けている人はいくらでもいるだろう。ただこの掛け算を強みにした人材というのはほぼいないんじゃなかろうか。とはいえ、これは日本だけでなく他の国でも同様で、アメリカという国のユニークの強みなのかもしれない。

じゃあ日本でどうすればこういう天才を生み出すことができるのだろうか?ということも考えずにはいられない。次のジェフ・ベゾスやイーロン・マスクをどうやったら日本という土壌から輩出できるか。

これはぜんぜん簡単な問題じゃない。安易なことは言えないけれど、例えば日本でもコンピューターサイエンスの教育にガンガン投資していくことなのかもしれない。コンピューターサイエンスの学位を取る大学・大学院をめちゃめちゃ強くするのだ。国内外からの優秀な学生を引っ張ってくるためには様々な有効で魅力的な施策が渇望される。うーん、例えば授業料がすごく安かったり、夏休みがエグいほど長かったり(海外留学や帰省の全額サポートとかあったらいいですよね)。GoogleやAmazonといったビッグ・テックのリクルーターをばんばん呼んでインターンや本採用のサポートをすることも欠かせないだろう。イケイケの名物教授や起業家も講師に招く必要だってある。

日本にはお金をたくさん持っている成功者がたくさんいるはずだ。上場まで漕ぐ付けた起業家なんかが寄り集まって投資をしてこういう学校を作る、となったらなんだかワクワクする。日本に、ほんと一つだけでいいからこういう大学・学部を作ったらもう万々歳なんじゃなかろうか。もう既にやっていることはあるのかもしれないけれど、本気でやるとなるとまた話は変わってくる。

ぼくがこう思うのは前述のサトイモさんやジャガイモくんもやっぱりアメリカの大学・大学院でコンピューターサイエンスの学位をしっかり取っているからだ。この二人以外でも凄いなと思う人材はまずはこういう学位を取って、その後エンジニアとして活躍して‥というキャリアを辿っていることが多い。技術力がまずは基盤にあるわけだ。

この中から更にビジネスにおいても類稀な才覚をもっている輩が世界的なテック企業を引っ張っていくのだろう。もちろんみんながみんなイーロン・マスクのようなレベルに到達するわけじゃない。その10分の1のレベルでもいい。そうした"ミニ" イーロン・マスクみたいな人が少なからず生まれて、名も知れない彼らがビッグ・テックを影で支える。もしくは有望なスタートアップをぐんぐん牽引していくのだと思う。サトイモさんやジャガイモくんのように。

サーモンを釣った帰りに

今日はそんなところかな。波のないシアトルの穏やかな海を眺めながらそんなこんなを考えましたとさ。

それではどうも。お疲れたまねぎでした!


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