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ミュンヘンの"変わらなさ"と会社のカルチャー

2022年9月下旬。ぼくはドイツはミュンヘンに一週間ほど滞在した。出張というやつである。

ぼくが所属するセールの部門では、開発チームと各国のセールイベントチームが集まってサミットというものを開催している。開発プランを共有してフィードバックを集めたり、各国での成功事例なんかを発表したりする場だ。

サミットは定期的に開催される、といったきっちりしたものではなく、なんなら至って気まぐれだ。なんというか、どこかの国のチームが「なんかそろそろやりたくない!?」と盛り上がっちゃったら思いついたかのように自然と発生する。コロナ期間中はご無沙汰ではあったものの、3年前にはスペインのマドリードで、そのもう少し前には日本でも開催した。

ミュンヘンのとんでもない景観

今回はミュンヘンでの開催。皆が集まった会場のオフィスはミュンヘンの街のど真ん中にあった。このいわゆる旧市街地というところはとんでもなく美しい場所で、「コーヒーでも買うか」とふらっとオフィスの外に出たら最後、ぜんぜん戻ってこれる気がしない。荘厳で圧倒的に美しい建築物の数々に魅了され、知らず知らずにどんどん街の中へと吸い込まれていく。

パステル調の可愛い色した建物のなかをスタスタと進む。

うーん。まあこりゃ凄いわけだ。 圧巻である。

うひょー。なんかドラクエの主人公になって街をトコトコ歩いているような感覚に陥る。

歩いても歩いても、目に飛び込んでくるのは中世ヨーロッパを喚起するような歴史ある建物の数々。実際に数百年の時を経て今の景観を維持しているものも珍しくないみたい。

変わらないということ

東京ともシアトルとも大きく異なるこの街の景観。見惚れながらフラフラと街中を歩きながら、色々な考えが頭をよぎる。それはまずもって「なんで街の景観がこんなにも綺麗に保たれているのだろうか?」というところから始まるわけだが、歩を進めるうちに「これは街に住む人々の不断の努力によって守られてきたのではないだろうか?」という考えにすり替わっていく。それは疑問というものから、少しづつ確信へと変わっていく。

ヨーロッパの国々がクラシックな建造物とそれにあやかる街の景観を守るために、法律やらなにやらで様々な方策を取っているということは何も今に始まったことではないし、取り立てて騒ぐことでもない。ただそういった制度なんかの裏側に存在する、人びとの思いに想像を膨らませると、なんだか深く胸を打つものがある。

この「誰かが守ってはじめて価値が保持される」という法則は、人類がこれまでに築き上げてきたありとあらゆる"構築物"にあてはまるように思う。それはお城やお寺なんかの"ハード"な建造物だけではなく、"ソフト"なもの、つまり目には見えないのだけど人間がずっとずっと大事にしてきた価値観やしきたりといったものまでその影響は及ぶ。その人類にとって大事なソフトの一つが文化・カルチャーといったものだと思う。いろいろな例を出すことが出来るけれども、例えばスポーツであればチームの"カラー"というものが時間とともに形成され、そして維持されるものだ。会社なんかでも同じようにチームのカルチャーというものはあるし、それぞれの構成員が時間をかけて形作るものだ。

会社のカルチャーの話

ぼくが働いてきた会社で例を出すならば、アマゾンの「地球で最もお客様を大切にする企業」というスローガンは、生きる文化として今もしっかりと根付いているように思う。アマゾンに転職してきたときに、色んなミーティングでペーペーの若手からおえらいさんまでみんな口を揃えて「お客さんから見たらどう思うだろうか?」といったことを話すものだから「この会社すごいな」とつくづく感心した記憶がある。こんな会話が今でもオフィスの至る所で起こっているのは (もちろん在宅勤務でその形はいくらか変わったとしても)、やっぱり"制度"というよりは"文化"みたいなものとして機能しているように見える。それは社員一人ひとりが努力を重ねた結果としてカルチャーとして築き上げられ、今日も社員の行動や言動、そしてもちろん提供するサービスの中で息づいている。

もう一つ例を。ぼくが新卒で入社したベンチャーのフリービット (とはいっても今では立派な一部上場企業なわけだけど)では、"本を読む"ということを大事にする風習があった。会社には"道真公の愛"というなんだか和な感じの制度があり、読んだ本の感想を社内のネット上でシェアすれば、本代を半分くらい負担してもらえるというものだった。ぼくはこの制度をふんだんに利用し、『イノベーションのジレンマ』や『ロングテール』といったテクノロジー関連のビジネス書を片っ端から読んだ。同僚が書く示唆に富んだ感想文もとっても興味をそそるもので、自然とオフィスの片隅では本にまつわるささやかな議論が行われていたものだ。当時の"ITベンチャー"というともっとキラキラしていてイケイケなイメージだったと思う。そこからは大きくかけ離れているし、はっきり言って地味だ。なんだけどこの真面目で勉強熱心なところがフリービットならではで、それは立派なカルチャーの一部だったように思う。フリービットのホームページを見る限りではこの制度はまだあるようなので、これもまた社員がコツコツと本を読んではサラサラと感想を書いて、というのをそれはもう地道に続けているのだろう。フリービットから離れて何年もしてこれを書いているわけだけど、今でもぼくはこの読書文化というものに深い尊敬の念を抱かずにはいられない。

ただ別の角度から見ると、こうしたカルチャーは「変革」や「進化」といったカッコいい言葉を引っ提げたムーブメントに対して脆い部分もあると思う。誰かが守ろうとしなければコロコロと別のカラーに様変わりしていく、というのもこれまた真実だろう。この「なにを守って、なにを壊すか」というのは会社を経営する上で、カルチャーを作る上で、とっても難しい課題なんだろうなと思う。

オクトーバーフェスにて

そんなこんなをミュンヘンの街をてくてく歩きながら、何世紀も前に立てられた美しい教会や聖堂を眺めながら、じっくりじっくり考える。一通り街散歩が終わったら、今度はグイッと一杯ほしくなった。

写真はミュンヘン出張中に訪れたオクトーバーフェストにて。老若男女が入り乱れてビールを飲み明かしている。このオクトーバーフェストというのも、1810年以降ずっと続いてきたというのだからたまげたもんだ。ずっと毎年この時期は飲んで騒いでを繰り返してきたのだとしたら、それはまあハッピーな文化だこと。それでもこのビールをわんさか飲んで騒いでってことだって文化を守ることに大きな大きな貢献を果たしているのではないだろうか。ぼくらは生きているだけで、人類が作り出すなにかにいつだって寄与をしているのだと思う。

パンデミックもあって今年は3年ぶりの開催だったみたい。それはもうみんなニコニコしながらしこたま飲んでいたな〜。なんだか見ているだけで酔っ払ってきそうな。

ぼくはバックヤードでおっちゃんに混じりながらしっぽりとビールをいただくことにする。これがまた旨いのよね〜!

それではどうも。お疲れたまねぎでした!


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