トイレでウォシュレットが止まらなくなった話。
数年前、あれは冬だった。その日、僕は、お腹をめちゃくちゃ壊してしまっていた。下痢が止まらなくて、30分に1回くらいのペースで、トイレに駆け込んでいた。とにかく気持ち悪くて、吐き気も止まらず生死を彷徨っていた。
十数回に及ぶお便所通いのすえ、最終的に下痢のしすぎで、出すものがなくなったのか、おしりからきれいな水が出てきた。時刻は深夜0時を回ったところだった。
冬だったこともあり、
下痢は夜更けすぎに~♪
水へと変わるだろう~♪
WOW WOW
サイレンナ~イ~♪
というしょうもない替え歌を口ずさんでいた。
そんな僕をさらなる悲劇が襲った。
トイレでウォシュレットをしていたら、タイミングわるくリモコンの電池が切れたらしく、「止める」ボタンが効かなくなって、おしりへの水がいつまでも止まらなくなった。
皮肉にも、水勢はMAXに設定にしていた。
僕はパニックになった。
そもそもこのボタンが、電池式ということすら知らなかった。このパネルは壁と一体化していてどこからか電気が供給され、永久的に使えるシステムだと思っていた。ボタンが効かなくなることなど、想定していなかった。
僕は考えた。
このままお尻への水が止まらなければ、便器から水があふれ出てしまうのではないか、いや、その前に、僕のお尻が水の勢いで死んでしまうのではないか、いやしかし、ぼくが便座を離れれば、噴射されたウォシュレットは壁まで到達し、トイレが水びだしになってしまうのではないか…
予想されるどの結末も悲劇でしかなかった。
僕が思考をめぐらせている間も、お尻はダメージを蓄積し続け、もはや、ぼくのお尻は洗浄ではなく、戦場と化していた。
お尻へのダメージが一か所に集中しないよう、お尻をクルクルと動かし続けながら、僕はそれでも考えることをあきらめなかった。
そんな僕に、一つの光明が見えた。
ズボンのポケットにスマホが入っていた。
僕はおしりだけにSiriに助けをもとめた。
「ヘイ!シリ!ウォシュレットが止まらない!」
するとSiriはこう答えた。
「そうだと思っていました。」
Siriは僕のシリに起こるであろう悲劇を予見していた。
ぼくのケツの結末がこうなることを知っていたのだ。
僕は理解した。
Siriがあらかじめ、この絶望の未来を予想していたにもかかわらず、なんの解決法も提示してくれないということは、もはやこれは確定された未来であり、この運命を変える方法はないのだと…
1人暮らしなので、家に助けてくれる人はいない。
水回りのトラブルを解決してくれる業者さんに電話したとしても、さすがに深夜に来てくれはしないだろう。
仮に来てもらったところで、ウォシュレットを受け止め続けている状況なので、玄関のカギを開けることができない。
最悪、カギを壊して家の中に入ってもらったとしても、そもそも、このウォシュレットを受け止め続けている状況を人に見られたくない。
やっぱり自分でなんとかするしかないのだ。
しかし、何度ボタンを押しても、TOTOのウォシュレットは、やっぱり反応しなかった。ぼくはTOTOここまでかと思った。
なんで、ウォシュレット「スタート」の時の電気はあって、「ストップ」の時の電気がないんだよ・・・
だんだんTOTOという文字が、僕が泣きながら丸いボタンを押してる絵文字に見えてきた。
TOT O
一定の時間が経過したら自動的に止まるシステムの存在も期待はしていたが、水はいつまでたっても止まらなかった。
お尻の痛みが激しくなってきた。
お尻のリミットは刻一刻と近づいていた。
水勢MAXの威力はすさまじく、リモコンの電池は全くないのに、皮肉にも水を噴出させる電力は有り余っているようだった。
ついにお尻に限界がきた。
そもそも、度重なる下痢で、すでに痛めつけられていた僕のお尻。
水勢MAXの猛攻にこれまでよく耐えたと褒めてあげたい。
僕はトイレが水浸しになることを覚悟した。
そして、勢いよく立ち上がった。
すると、センサーが反応し、水は止まった。
トイレを出ると、つけっぱなしだったテレビから、クリスマスソングが聞こえた。
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