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人材確保・育成のため、柔軟な地方公務員給与制度の検討を

[2024.1.31]  
~総務省が令和5年11月から設置している「社会の変革に対応した地方公務員制度のあり方に関する検討会給与分科会」において、私が委員として発言した内容を掲載しています~

公務員の給与を大きく考えたときに、国家公務員の給与制度は人件費をコストと考えて、コストつまり給与の総額を下げていくという方向で平成17年に見直されており、地方公務員の給与制度もそれに引きずられていると思います。
ちょうど平成の頃、日本が支配されていた考え方に則って作られている。

今はそればかりではなく、人への投資という考え方もありますし、地域を越えて人材をどんどん奪い合うという時代に入っています。
しかも、それぞれの地方の給与水準に合わせる「均衡の原則」があり、地方の実態としては中小零細企業が多く存在しているため給与の水準が上がらないような構造になっていて、給与だけではなく生産性も上がらないということをずっと繰り返しているものですから、東京との間で給与や人材確保の格差も生まれてきているわけです。
こういうところを是とするのかをよく考えないと、持続可能性を失っていくと思います。
例えば、東京は合計特殊出生率が最も低いのに人が集まる構造をつくっており、ここにもし大きな地震でも起きれば日本国そのものが危うくなる。
それなのに、人は集まりたいから自由に東京へ集まっているのだ、ということで本当に良いのか。
給与についても政策性を持たせるというか、考え方、方針、方向性を持ってやっていかないと、ルールに縛られて全体が沈没していってしまいます。
私は20年ほど前から福井県に出向したりしていますが、感覚的に、人材は本当に集まりにくくなっていると思います。
みんなが移動はあまり気にしなくなってきた中で、給与水準とか働き方を見て東京に集まってしまう。
東京都との格差を放っておいていいのかというと、明らかに少なくともこの30年の歴史は、そうではないと言っていると思います。
まず1つには、給与の格差、例えばうちで言うと一般職の職員が4,000人くらいいる企業と比較していく必要性もあるのではないか。
従業員50人以上の企業さんの給与で比較をすることになってしまっていますけれども、本当にそれでいいのかということです。
福井県内の給与の状況を見ると、県庁の採用の際に競争するような大企業と比較すると、初任給で多分4万円くらい違っているという感覚があります。これで今の地域手当の制度によって、県や市の中で給与構造の上に一律の上乗せしかしないというやり方をしていると、特に人材が採れないということがあるので、まずせめて初任給とか、もしくは人が集まらないような困難職種には、地域手当とは別にもう少し自由に重点的に配分できるような考え方の導入を、できるだけ柔軟にしていった方がいいのではないかと思います。
数十年前に、議会の審議もあるとはいえ地方公務員の給与がお手盛りで上がっていったということもあるので、ある程度の幅はあってもいいと思いますけれども、地域手当の枠組みの自由度はもっと今よりは上げていくべきだと思います。
そのときに地域内の大きな企業、もしくは東京などとの人のやり取りということを意識した方法も、可能にしていくことが重要かと思います。
もう一つ、コロナもあったので県庁でテレワークをやりたかったのですが、なかなか進まない。
なぜかというと、みんな書類に縛られていて県庁に出てこないと仕事が捗らないのでテレワークできませんと。そこで、私が知事になってから一生懸命力を入れてフリーアドレス化をやっています。
フリーアドレス化というのは現実の効果としては、ペーパーレスになるんです。
フリーアドレスをするためには荷物を持って歩けないので、そうすると、とにかくデータ化しないといけなくなるので、完全にデータ化ができてペーパーを使わなくなる。
福井県庁はほぼ全部、パソコンで仕事をするのですが、ペーパーレスになると家で仕事ができるようになる。
家でも仕事ができるようになったところで、今度はフレックスタイムを入れているものですから、そうすると、自分がいる場所が職場になるんです。
となると、今のように勤務地に縛られるということが、ほぼなくなっていくんです。
すると、人事異動により地域手当の低い地域にある出先機関に異動となった瞬間に、本庁よりも安い給与になっていくということの合理性は、相当程度下がってきていると思います。 
ですから、例えば人事で本庁勤務にしておいて地方の事務所も兼務にするとかは小手先でやればできるんですけれども、小手先の問題ではないのではないかなと。

福井県庁ではフリーアドレスを導入しています。
サテライトオフィスなど自宅以外でもテレワークが可能です。

普通に考えて、本庁にいたときは20万円もらっていた人が、隣の市に行った瞬間に給料が下がるということは、一人の人間を中心に考えたときには相当変な給与制度だと。
民間企業もそんなことは現実にやっていないので、そういうことを強要というか、制度ではこうだ、というふうに本当にやるべきなのかということを今、強く感じています。
例えば獣医師とか薬剤師とか土木職とか、なかなかもう採用できないですね。
薬剤師とかは実態を反映していないかなと。
そういう採用の困難さも見ながら手当などを大きく上乗せできるといったことも考えたらいいと思います。
国家公務員準拠の一番の問題は、実は各省が財務省にいろいろ配慮してなかなかできないということがなくはないので、「国家公務員がやっていないから地方はできないんです」ではなく、地方が始めて国家公務員が合わせてくるということも当然ある程度はあると思われます。
こういったこともぜひ参考にしていただいたら良いかなとも思っております。
正直に言うと、地方の給与制度というか公務員制度全体が非常に厳しく決まった形になっているので、いろいろと難しいことがありますが、民間の会社の社長さんとお話をしていると、人材の育成や、やる気を起こさせるのに一番いいのは、やはり人事と給与だと、自分はこんなふうにやってるんだという話をいろいろ聞いています。
なかなか公務員にそのまま適用は難しいですけれども、その中でも工夫しながらやっているところを、少しご紹介をさせていただこうと思います。
まず1つは、若手の抜てきというのは徹底してやってみたいというのを強く思っているのですが、一方で、公務員制度の場合は身分保障が非常に厳格なので、一旦課長や部長にした職員を、思った能力を発揮しないからといって降格させようということは非常にやりにくい関係にあると思っています。
ただ一方で、やる気のある職員に責任を持たせて、より自由度を与えて仕事をさせるということも大事だと思うものですから、30代の職員に課長級の権限を与え、兼務で他の課の職員とチームを作って仕事をするディレクター制度というのをやっています。

福井県庁のディレクターたち。
チャレンジ応援、カーボンニュートラル、幸福実感、SDGs、歴史魅力向上の5分野でディレクターを任命しています。

例えば「チャレンジ応援ディレクター」は、地域活性化などを、組織に属さなくていいから地域にどっぷりとつかって自由にやって良い、ということをやっています。
身分は今までの企画主査や主任のままなのですが、一方で手当として調整数というものを充てて、うちだと調整数1で約1万円とか、調整数3で約3万円とか、年数とか能力によって1から3の長整数を与えるというようなやり方をしています。
まだこれは緒に就いたところなので戻した職員はいません。
こういうことで、残業手当も払いながら、給与水準を下げないで、その代わり手当を増やしてあげる。
こんな工夫をして、抜てきに近いようなことを今やっているということが1つ。
もう1つ、ボーナスの勤勉手当も非常に硬直化して、2段階ぐらいの差しかないので、こういうことを守りながらやりましょうという職員クレドというのを決めて、クレドアワードというのを年間で10人とか20人発表しています。
本当なら100万円ぐらい勤勉手当をあげたいのですが、最初は1万円から始め、今はクレドアワードで知事賞だと10万円を3組くらい選ぶ。そうすると、みんなやる気になるんですよね。
こんなやり方もして、給料と人事は肝なので、こういうところの自由度は、ある程度自治体に任せていただくようなこともやっていくのかなと。

福井県職員クレド

技術職と事務職とで給料表を分けるなどやっていければ良いのですけれども、公務員の場合、情勢適応の原則が現実問題なかなか難しいと思います。
だから、給料表がきちんとできないのであれば、手当なんかの自由度をある程度増してうまくやっていく、それで採用しにくい、例えば採用倍率がどんどん下がっていって東京に取られるのだったら、それをどう乗り越えるかというところ。
国家公務員は、東京なり拠点の大都市で、一括採用で集めておいて配置をすればいいんですけれども、我々はその地域から離れられないですよね。
だから、そのことから離れられるようにする方法論がないと、地方はどんどん衰退していくと思いますので、手当などは自由度を認めていくといった柔軟度のところを、ご検討いただきたいと思います。
それから、扶養手当の見直しについては、女性活躍とか社会全体で子育てするんだという大きな方向はいいと思いますが、地方自治体の裁量を認めるべきだと思っています。
というのは、例えば、奥さんでも旦那さんでも、会社を辞めたりしている一つの理由に介護があるわけです。
その扶養家族に対して扶養手当を与えなくていいのかというのは別途あるので、そういう意味でもあまり一律的にしないで、各自治体の考え方なんかは合理性があれば認めていくというのは重要かなと思っております。
とにかく給与の水準ばかりを均衡させるというような議論が出ているんですけれども、現実に私たちが何を悩んでいるかというと、要は制度というよりは「人を中心に」ものを考えなくてはならなくなっていて、他方、試験の競争倍率がどんどん下がっているわけですよね。
これを上げようと思ったときに給与水準が決められてしまっていて上げようがない。
例えば、福井県職員は地域手当が1.4%、福井市が3%です。
大きく言うと何割ぐらいが福井市に職場があるかということで1.4%と決めています。
愛知県なんかはもっと典型的で、名古屋市が16%で愛知県は8.5%です。これは明らかに、どう考えても名古屋市にみんな試験を受けに行くだろうと。
現実に人を取り合う、採用するという段階でこうした非常に難しい課題があるので、大きくこれから地方公務員制度をどうするというときには、均衡させるのが何だったら競争倍率がある程度均衡する、制度をどういうふうに仕組むかを、ある程度任せるということも含めてよく考えていくというのは、今後本当に必要になると思います。
本当に人材が集まらないため困っていますので、これからよく議論していったらいいと思います。


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