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こんまり狂

ステイホーム日和の5月に差し掛かったこのごろ、
やっとあったかくなってきたしそろそろ衣替えでもするかと考えていると
こんまりのことをふと思いだした。

こんまりとは近藤麻理恵さんという
お片付けコンサルタントを生業にしている女性で、
メディアでの露出も多く誰もが一度は聞いたことがあると思う。
実際私の周りにも「こんまりさんいいよね〜」と評価してる人が何人かいるので
すで彼女のお片付けメソッドを知っていたり体験している人も多いと思う。

だから今更こんまりさんを広めようとしたってとくに意味がないのは承知している。
なんせ世界で最も影響のある100人にも選ばれている女性なのだ。

ただ、これだけは言わせて欲しい。
初めてこんまり流に部屋の片付けをしてから私の血にはこんまりが流れている。
きっと私に将来子供ができたらきっとその子にもこんまりの血が流れるのであろう。

どれぐらい敬愛しているかというと、
私はこんまりのお掃除メソッドは義務教育に取り入れてもいいと思う。
小学校の時間割の中で、総合という結局何を取りまとめているのかわからない教科の時間を使って
私が担任だったら片付けをとりいれ
生徒の身の回りをすっきりまとめてあげてあげるのに。

こんまりの血が流れる前、私は片付けられない人だった。
友達には「ふうこ絶対O型やんな」と言われるし
私の実家の部屋は文字通り足の踏み場がなかった。
中学2年生のとき、テレビで汚部屋特集が流れたときに
自分の部屋とあまり変わらない画面を見て「あ、私の部屋って汚いんや」と初めて気づいた。

もちろん散らかっている部屋が好きなわけでなく、片付けると言う手間が苦手だった。
片付ける時間はめっちゃかかるのに、すぐに散らかるから片付けの必要性もあまり感じない
というのが片付けられない人の思考だと思う。

ただそれでも散らかりに耐えられなくなったときに一気に大掃除をする。
手当たり次第片付けるが、部屋が汚い人は基本的に物を捨てられない。
私は時間をかけて「机の上にあった荷物」を「床に置いてある荷物」に変えていた。
最終的にはたいてい、昔の写真が出てきて
たいして歳もまだ取ってないくせに昔を懐かしむ時間が始まるか
不意に本棚にあったしばらく読んでない漫画を手にとって止まらなくなり
片付けを中断してまだ読んだことのない最新刊を買いにブックオフにチャリを走らせることになる。
ブックオフに着いたら本が読み放題なのでそこで別の漫画を読み漁る、、
終わっていた。片付けの反対語が私だった。

社会人になっても片づけの下手さは変わらず、さらにアパレルに就職したので
シーズンごとに何十着も増え続ける、
「いつかは着る服」がレオパレスの部屋を占拠していた。

ただ、これまではそういう性格なんだと思っていた。
誰にも迷惑かけてないし、こんな私でも好きだといってくれる友達もいる。
何不自由なく、変わりたいとはあまり思わなかった。

社会人になって2年目、たまたま友達の家に転がっていたこんまりの
イラストでときめく片付けの魔法
を手にとってなんとなく読んでみた。
これが私のこんまり狂のはじまりだった。

こんまりさんの本を初めて読んだときに衝撃をうけたのが
片付けは知識がいるので、教えてもらったことがない人ができないのは当たり前。
学校の授業の様に知識のある人から学ぶことが必要 
という一節だった。

私は片付けが出来ないのは私の性格で、背が低いとか目が悪いとか、そういう変えられないものだと思っていたからだ。
それは片付けの神様が私に与えてくれた福音であった。

思い返せば、私の両親も片付けが出来ない。
実家にあったダイニングテーブルは
基本的に面積の8割が新聞や書類や鞄や洗濯物や人からもらったお菓子が占拠しており
食事が出来ないので一度もそこでご飯を食べたことがない。
私は義務教育中に整理整頓を終わらせられなかったのだ。

この言葉をきっかけに私は片付けに興味が湧いた。

今では私と同じ様に片付けの教育を受けてこなかった子供たちの未来を切り開いてあげたいとすら思う。
そう。片付けに関して私は今ではユニセフを率いる黒柳徹子ぐらいの志の高さになった。

こんまりという略称もいい。147㎝の「こじんまり」という彼女のイメージにもぴったりで覚えやすい。
しかし彼女はあの小さな体でエネルギーに満ちている。決してうるさくはない静かな情熱だ。

私から言わせてみると、彼女は断捨離の人ではない。彼女もあまり断捨離というワードはつかわない。
こんまりメソッドは結果的には物を断つ・捨てる・離れることになるのだが、
メンタル的な物を上手く組み合わせている。

断捨離だと意識が高すぎてルールが多く、面倒になってきて実際リバウンドする人が多い。
ただ、私はこんまりの本を読んで最初に部屋を片付けてから、片づけのリバウンドをしたことがない。
自分の中に物を管理する明確な基準ができたので、日頃から物の取捨選択ができる様になった。
もちろん散らかっている日はあるが、大掃除をしなくとも1年中ある一定の整頓水準を満たしている。

彼女の片付けメソッドは、最初になりたい理想の生活を想像するところからスタートする。
その生活に、目の前の荷物は必要か自分自身で説いていく。

本を読む前はキラキラした精神論メインかと思っていたが
こんまりのメソッドは完全な手順があり、意外とロジカルであった。
この 完璧な手順×人から物の執着を解く言葉のチョイスが
彼女が全世界の片付けコンサルの女王に降臨した唯一神たる所以なのである。

①部屋ごとではなく物事に片付ける
②片付ける物の順番が決まっている
③物を一旦全て出す
大きく分けるとこの3つのルールで進めていく。

②の片付けの順番であるが、服→本→書類→小物→思い出の品 これが鉄則である。
一番カサがあり片付けの効果を実感し易い服から手をつけれる事で
モチベーションを高め、片付け精神を成長させていく。
だんだん自分に取捨選択する基準ができてくる。
思い出品という一番片付けが難しいジャンルを片付け始める頃には我々は
片付けマスターに変身しているので
懐かしの写真たちも必要でなければ滅多滅多と捨てていけるのである。
この順番が本当にノーベル賞ぐらいの発見だと思う。

③の物を一旦全部出す。これも最高の発明。
服なら、家中の服を夏服も冬服も下着も靴下も全部一旦一箇所にまとめる。
大きな服の山を見てどれほど物を持っているか体感し、打ちのめされてから作業に取り掛かるのだ。
もちろんすごく時間も労力も使うが、こんまりは
「人生を変える片付け祭りをやり切る覚悟はあるか」と著書の冒頭で我々を奮い立たせる。
私は祭りとは浴衣を着たり花火を見たり屋台を楽しむものだと思っていたが、
片付け中の燃え上がる感情に、「祭りは自分の中にある」と私は確信した。

祭りの期間、彼女は「ときめくかどうか」という基準で我々に物を処分させる。
このなんじゃそりゃな基準が物を捨てられない私にはかなり合っていた。
惰性で持っている物を簡単に見切りをつける方法なのである。
積み上げられた衣類の山一つ一つを実際に手に取り、これは自分の気分をあげるかどうか判断する。
自分がときめくものはどれだけでも残していい。
「気に入ってるわけではないけどまだ一回も着てない服だから、1回着たら捨てよう」
という服が100着ぐらい部屋から消えると、なぜか体が軽くなった。
100回分の服を着るための予定から解き放たれた。衣類の片付けが終わり本当に自分がときめく物だけに囲まれた生活は快適で、
知らないうちにものに縛られていたんだなと思った。
私は芋虫から脱皮し蝶の様に部屋を舞った。
立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花。
もっと軽くなりたいと思うと片付け中毒になった。

たびたび、心に迷いがでた時は彼女の言葉を頼れば良い。
いらないと判断しゴミ袋に入れる瞬間、もったいないという感情に襲われた時は
「いらなかったものも私にこれは必要ないと教えるために私のもとにやってきてくれたんだと考え、
物に感謝しありがとうと一言添えながら捨てると未練がなくなる」
人からもらったものが捨てられない時は
「贈り物は受け取ってお礼を伝えた時点で一定の役割を果たしているので捨てて良い」
部屋の隅で絡まる電気コードに「謎のコード類は永遠に謎のまま」

彼女は左手は添えるだけと言わんばかりに魔法の言葉で背中をおしてくれる。

片付け祭りを終えた時、私の部屋は変わった。
その時の快感は忘れられない。
自分の周りが整頓され、部屋のスペースにも余裕が出ると
心にも余裕ができた。
お風呂もRUSHで好きなバスボムを買って入浴を堪能し、夜はストレッチをしてボディクリームを塗った。
仕事でもうまくいくことが増えた。
片付けは部屋だけでなく私の生活も整理してくれた。

お掃除力は職場でも遺憾無く発揮された。
辞令が出て、店舗を異動し、新しい場所に行くとお掃除コンサルタントふうこが誰にも呼ばれてもないのに勝手に出現した。
私の持論だがアパレルは時間がないという理由でバックヤードが整頓されず、汚い。
要らない書類を見つけると鬼の形相で捨て、昔の顧客が以前いたスタッフにプレゼントしてくれたが
その子が持って帰らず、他のスタッフも怖くて処分できないというキューピー人形も
みんなで今までお店を見守ってくれてありがとうと伝えゴミ袋に丁寧に包んだ。
そして残った必要なものは全てベストポジションの定位置を与え効率化を測った。

私が異動した店舗はきれいになり、自分でもびっくりするぐらいスタッフが喜んでくれた。

あの頃ほど部屋が散らかってないのであそこまでお家で快感を得ることはないが
今でもずっと片付けの炎は絶えず、しかし静かに心に灯り続けている。

なーんてことを考えていた。
調べてみたら、彼女のコンサル動画がネットフリックスに上がっていた。
本で彼女のメソッドを学んだので、初めて動画で彼女を見たが
彼女のトレードマークだと勝手に思っている
「ジャストサイズカーディガン・ボタン全締め・膝丈花柄スカート」
という服装からみなぎるきちんと感に
さあさあ私がてめえらをきちんとまとめて片付けてやるよという気概さえ伝わってくる。

内容も劇的ビフォーアフターみたいで面白かったし、
こんまりに指導されて私の様に部屋だけでなく人々も整理整頓されていって爽快感があった。
何より通訳を通してこんまりの言葉を聞く依頼人の姿は
祈祷師が霊から受けた言葉に聞き入るそれであった。

こんまりに依頼するのは金がかかるけど
本なら安いからおすすめ。
私は冒頭に書いた イラストでときめく片付けの魔法
が一番絵が多くて分かり易くて推し。

懐かしくて、お片付け欲が高まったが
すぐに衣替えが終わってしまったので文章に書いたらまた原稿用紙10枚超えた。

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