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訪れた危機、そして、あらたなる“復刊ドットコム”へ

これまで数々の書籍の復刊を実現し、多くの読者に喜びをもたらしてきた復刊ドットコム。
ですが、サービスの開始から25年間、いつの日も平坦で順調な道のりを歩んできたわけではありません。
 
本記事で振り返るのは、復刊ドットコム(当時・ブッキング)が創業10周年を目前に控えた2009年、親会社であった日本出版販売株式会社(日販)からカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)へと籍を移し、現在へと続く、新たな“復刊ドットコム”が生まれるまでの物語です。


事業閉鎖の危機

 2001年に復刊ドットコムサイトが立ち上がって以来、「復刊」という考え方やサービスのあり方は、出版業界の中で着実に存在感を増していました。
 
復刊ドットコムとして初めて復刊を実現した絵本『かくれちゃったのだぁれだ』や、自らが出版社となり復刊に挑戦した『ダルタニャン物語』など、さまざまな復刊を経験するなかで、復刊をビジネスとして確立させると同時に、多くの理解や共感を得られるようになっていたのです。
 
しかし、有意義なサービスとして高い評価を受けていても、さまざまな理由から次第に失速していくというのは、どんな会社にも起こり得ることです。ブッキングもまた、そうした不調の波に飲まれていきました。
 
その時、ブッキングが直面していたのは、新刊を出しても思うように売れず、さらに新刊を出し続けるという悪循環でした。2008年頃になると、経営の主体である出版活動に暗雲が漂い始めることになります。
 
事業が苦しい状況の噂はやがて、すでに復刊事業から離れていた創業メンバーの耳にも届くところとなりました。ゼロから育てたサービスの現状を聞いて、誰もが辛い気持ちになったに違いありません。
 
ですが、そんな暗闇の中でも、希望を探し続けた人がいました。後ろ髪を引かれながらも復刊事業を離れていた、前代表、左田野渉氏です。

復刊事業の譲渡、日販からCCCへ

苦しい状況をなんとか乗り切りたいと考えた同氏は、自ら譲渡先を探し始めました。すると、待っていたのは想定外の好反応。事業譲渡と、その先での事業継続はすぐに現実味を帯びていったのです。
 
経営が苦しい状況だったにもかかわらず、いくつもの会社が興味を示したのはなぜでしょうか。その答えは、書籍の復刊という事業の社会的意義に加え、復刊ドットコムというサイトの存在や機能が強みになったことにあります。
 
その頃の復刊ドットコムサイトは、すでに知名度が高く、国内でも主要なネット書店の一つへと成長していました。ネット部門を強化しようとする会社には、それが魅力的に映ったのかもしれません。
 
最終的な事業譲渡先となるCCCも、ネット部門に目をつけた会社の1つでした。DVD・CDのオンライン・レンタル事業を行う「TSUTAYA DISCAS」やパッケージの通販を行う「TSUTAYA Online」などを運営していたCCCは、当時、ネット部門のさらなる強化のため、復刊ドットコムの事業に目をつけたと想像されます。
 
その後、幾度にわたる交渉を経て、日販からCCCへの事業譲渡は無事に決定。その裏には、復刊事業の意義を評価していた日販の元社長、鶴田尚正氏が自ら交渉役を買って出るという尽力がありました。当時のCCCの社長・増田宗昭氏が鶴田氏と懇意だったこともあり、強い想いが伝わったのでしょう。
 
2009年、ブッキングは、あらためて代表に就任した左田野氏と数名の社員と共に、CCCへと移籍しました。CCCのグループ会社が複数入居するオフィスへと引越し、文字通り新天地での仕事がはじまったのです。

CCCで迎えた、 “第2の創業期”

移籍当初、復刊サービスという事業は変わらないものの、社員たちにさまざまな変化が訪れたことは想像に固くありません。職場環境や人事制度、ワークスタイルなどはCCCの文化に合わせる形となるため、大なり小なり、適応が求められる部分は多々あったはずです。
 
しかし、慣れた環境から離れて感じた違和感も、すぐに良い方向に変わっていきました。先の見えないトンネルを進むような、厳しい時代を乗り越えてきた社員にとって、こうした変化は、ようやく差し込んだ光でもあったからです。
 
そして、CCCグループに移籍した半年後、社は大きな節目を迎えました。創立10周年です。10周年を機に、苦楽を共にした「株式会社 ブッキング」という社名も、「株式会社 復刊ドットコム」へと変わりました。
 
これまでサイトの名称であったものを社名に冠したのは、何より復刊ドットコムサイトを中心に考え、出版よりもサイト運営に注力していこうという意志の表れでした。ユーザーの声を集め、復刊を働きかけるという、創業当初のサービスへの原点回帰です。
 
サイト運営に注力していく上での要となるのは、復刊されるタイトルをいかに増やし、ユーザーのリクエストに応えるか、ということです。復刊を実現するためには、他出版社の協力が不可欠。そのための営業活動にもますます力を入れていきました。
 
こうして、名実ともに生まれ変わった復刊ドットコムは“第2の創業期”に突入。積み重ねてきたものを活かしながらも、同じ轍を踏まないよう、あらたな“復刊ドットコム”の形を模索していくことになるのです。

出版事業に再び挑戦 

復刊されるタイトルが徐々に増えていき、社員たちも、復刊リクエストに応える使命を果たせているという実感が湧いてきた頃。
 
CCCのバックアップもあり、新しい挑戦に踏み切れるだけの体力を付けていた復刊ドットコムは、ある時期から、再び出版事業にも乗り出すようになりました。復刊するタイトルを増やすために、やはり出版社としての復刊を増やす必要性を感じるようになったからです。
 
今度の出版事業では、日販時代には難しかったタイトルや、新たなジャンルにも積極的に取り組むようになりました。特に、コミックやエンタメ系の復刊、『火の鳥《オリジナル版》復刻大全集』に代表される、数々の巨匠の復刻大全集の出版などを中心に、現在までバラエティ豊かな作品を続々と出版しています。

これまでに復刊されてきた書籍の一部

こうした出版を可能にしたのは、CCCという母体の安定感に加え、新たに復刊ドットコムに加わった個性的な編集者たちの存在でした。編集者それぞれの専門性と知識が存分に活かされたからこそ、復刊ドットコムユーザーの期待や好奇心に寄り添い、ファンの心を掴む復刊企画が生まれたのです。 

これからも、復刊作品を増やすために

さて、復刊ドットコムに新たな節目が訪れたのは、CCCに移籍して10年、復刊ドットコムの創立20周年を迎えた2019年のことです。
 
出版事業とネット事業、どちらも欠かすことなく相互に補い合い、少しずつ前進してきた復刊ドットコム。2018年に社長が代替わりしたことも一つの契機となり、2019年以降は、サイト運営に今一度向き合い、ユーザーにとっても出版社にとっても、より意義の深い復刊専門サイトとして確立するという方向に舵を切るようになりました。
 
復刊ドットコムに寄せられた約6万作品の復刊リクエストを目の前にして、出版業界をあげて復刊に取り組まなければ、復刊されるタイトルを劇的に増やすことはできないと考えたからです。
 
その一環として取り組んだのが、復刊ドットコムサイトの全面リニューアルでした。
時代に合わせてWebページをモバイル対応させ、文字量や画像などを調整し、ユーザーにとっての見やすさを意識したデザインに変更。社名のロゴも一新し、復刊ドットコムらしさがより際立つようになりました。 

ブッキング時代〜現在までの会社ロゴ

さらに、ここ数年は電子書籍での復刊も増えています。復刊というと紙の書籍の印象が強いかもしれませんが、電子書籍の形にもなっていない絶版の書籍はまだまだ多く存在しています。世の中での電子書籍の受け止め方が変わってきたことにより、復刊が実現するタイトルの幅も大きく広がっていくはずです。
 
現在、日本では年間約7万冊の本が出版されていると言われています。
復刊ドットコムが創業した当時、サイトに集まった復刊リクエストは、70年代〜80年代に出版されたものが中心でした。ですが今では、90年代〜2000年代以降の作品も多くなり、新たな世代のユーザーも増えています。この先さらに20年後には、今現在手に入る本が、多くの復刊リクエストを集めているかもしれません。
 
巡る時代とともに変化しながら、これからも復刊ドットコムの復刊活動は続いていくことでしょう。新たな本が生まれ続ける限り、復刊を求める声が止むことはないのです。


■取材・文
Akari Miyama

元復刊ドットコム社員で、現在はフリーランスとして、社会の〈奥行き〉を〈奥ゆかしく〉伝えることをミッションとし、執筆・企画の両面から活動しています。いつか自分の言葉を本に乗せ、誰かの一生に寄り添う本を次の世代に送り出すことが夢。
https://okuyuki.info/

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