もっと脳と仲良くしたい(七海 仁)
「アイデアが出なかったらどうしよう」
書く仕事をしていて感じる一番の恐怖って、コレじゃないでしょうか。
2年くらい前から始めた漫画原作のお仕事。
これまでに何度も、「あ~、あそことここのシーンの間にもう一つ何かエピソード入れたい…浮かべ、浮かべ、浮かべ~!」とポンコツ頭から何とかアイデアをひねり出そうと締切ギリギリまで唸ってはため息をつき、ため息をついては唸りながら原稿を書いてきました。
で、テレビドラマの脚本を書いている友人達に話を聞くと、ストーリーのアイデアはプロデューサーさんやディレクターさん達と何度も会議をして一緒に揉んでいくことが多いという。
何それ、うらやましい。しかも楽しそう(いや、それはそれで大変なことももちろんあるのだろうけど)。
自分の場合は企画も取材もアイデア出しも大体孤独な作業なので、なんとかして脳の中のアイデア工場を少しでも効率よくフル回転させていかないといけない。そこで俄然興味がわいてきたわけです。そう、脳の仕組みに。
まずは、どんな活動をすれば脳が新しいアイデアを生み出してくれるのか検証してみることに。
① 机に座り、PCの前で一生懸命考える
② 家の外に出てカフェなどで雑音の中考える
③ 「浮かばないからもういいや」と漫画を読んだりドラマを観たりする。
④ 「本格的に思いつかないのでもう寝ます」と一旦寝る。
この4つを何度か試してみたところ、アイデアが浮かぶことが多かった順は、③→④→②→①。完全に休憩モードで漫画を読んでいたりした③の時に「あ」とアイデアが浮かぶことが多かったのが意外でした。
「やっぱり漫画作品を書こうとしているから漫画を読むことが刺激になるのかな?」と友人達に話していたら、一人が「あ、その話この前NHKスペシャルでやってた!録画してあるから観よう」と「脳とひらめき」に関するドキュメンタリーを見せてくれたのです。
https://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20180204
世界最高性能のMRIを使って芸人・作家の又吉さんが「ひらめいた」瞬間の脳の状態を調べてみたというこの調査。なんと、人間がひらめく状態の脳は「ぼーっとする」時の脳と同じよう状態にあるんだそう。ぼーっとしている時の脳は活動停止しているわけではなくて、無意識に我々の記憶の断片を繋ぎ合わせて思わぬ「ひらめき」を生んでいるのだと考えられているそうです。つまり、アイデアが浮かばない時は机の前で唸るよりもリラックスしてぼーっとすべきで、そうすればインプットされたコンテンツの点と点が勝手に結ばれて新しいアイデアを作ってくれると。すごくないですか、脳。
「よし、これからも張り切ってぼけっとしていこう!」と思っていたら、今度は映画の脚本家の旦那さんを持つ別の友人が「うちの夫は、締切まであと10日あったら9日間寝てるの。横になって考えてるとかじゃなくて、本気でずっと寝てる。で、最後の日に起き上がって書き始めるのよ」と。
……怖い! そんなことは凡人の自分にはさすがに出来ない。でも天才クリエイター感があってちょっと憧れます。
これもちょっと調べてみたところ、斬新なアイデアを生み出す「発散的思考」は睡眠中に脳が働きを改善し昼間の記憶を整理することで生まれることが多いそう。新しいアイデアを出すためには睡眠を削って唸るより一旦寝て脳をリセットしてしまったほうが効果があるってことですね。なるほど。
中学時代、深夜に書いたポエム(謎の歌詞風。ちゃんと一番と二番とサビがあった)を朝読み返して「一刻も早く焼き払わなくては」と思ったのもリセットされた脳が冷静な判断をしてくれたからだったのかな。本当によかったです。
どちらの場合も、生まれるアイデアは結局それまでに脳に入れてきたものの組み合わせでしかないので、大事なのは普段インプット量を増やしておくこと、考えておくことらしいです。
そういやこの仕事を始めてから、「新しいものを読みたい・観たい・知りたい」という気持ちが異様に大きくなりました。それはまるでスポーツ後に水を飲みたいと思うような、貧血の時に肉を食べたいと感じるような、抗えないレベルの内からの欲求で。人間って、その時足りないものを欲する本能が備わっているのかも。そう思うとやっぱり脳は面白い。
今書いているテーマは「精神医療」なのですが、「心」を語る時それはイコール「脳」であるということも多いのです。まだまだ知られていないことが多くて複雑怪奇、だからこそ面白い自分の「脳」とうまくつきあっていきたいなと改めて思いました。
とりあえずはたくさん面白いものを読んで、観て、いっぱい寝てぼーっとしながら時々書くという生活を目指したいと思います。
…なんか楽しそうだな。
七海仁
集英社「グランドジャンプ」で『Shrink ~精神科医ヨワイ~』連載中。
(原作担当。漫画は月子さん)
単行本①~④巻発売中(第⑤巻 5月19日(水)発売予定)。
試し読みはこちらから:
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?