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『三度の飯よりご飯が好き』と言っていた友達は今、何しているだろう?(赤松 新)

『死那離怨寺』

「皆様、こんばんは。私、日本でいや、世界で一つしかないシナリオ・脚本の供養を行っております、死那離怨寺第58代目住職、脚翻です。
本日もまた迷える脚本家からシナリオが送られて来ましたので、ご紹介します。

『僕はある事務所で俳優と脚本をやっている者です。今回、成仏させたいシナリオ、それは2016年、僕がシナリオをやり始めた時に書き上げたラジオドラマです。その年に初めて書いたドラマシナリオが、脚本家の登竜門「S1グランプリ」というシナリオセンターのコンペで2次試験を突破したことに気を良くして、どんどん書き始め、テレビ、ラジオ問わず投稿しまくっていた。そんな時の作品です。自分としては出来がなかなか良かったのに、何故か落ちてしまった…。

僕は脚本家として成功して、人気女優と浮名を流したいという夢があります。周りからチヤホヤされて調子にノリまくるためにも、この作品をしっかりと供養・成仏させないと僕は前に進めません。よろしくお願いします』

うん、まずはその人格から直したほうがいいとは思います。別に人気脚本家になったからって女優さんと付き合えるわけではありません。
とにかく送られてきたシナリオの供養に参りましょう。
今回のこの作品、「嘘」というテーマで400字詰め8ページ以内という制限で書かれているようです。

『ラジオドラマ』
「焼き芋と嘘とビデオテープ~ただしビデオテープは関係ないです~」

☆登場人物
目黒香奈(22)・・・大学4年生
山崎康一(25)・・・焼き芋屋のアルバイト。
普段は劇団グッド・チューニングの劇団員。
横山裕子(22)・・・大学4年生。香奈の友達。

大学の構内。多くの学生が行きかう。
   風が吹きつけ落ち葉が舞う。
学生1「う~寒い~!!」
学生2「もうこの時期が来たか…独り身の奴には残酷な時期だな…」
学生3「独りで寂しい心の隙間に木枯らしがピューピュー吹き込んできやがる」
学生2「より一層寂しさが増すよな」
学生1「この寂しさ感が、北風より寒く感じさせるんだよ」
学生3「はぁ~!寂しいよ~!」

香奈N「私はこの時期が好きだ。冷え性だし、どんどん寒くなって朝は起きるのが辛くなるし、肌も乾燥するし…でもこの時期が来るのをここ3年楽しみにしている」

   山崎、焼き芋を売っている。
山崎「焼き芋いかがですか~?ホックホクの焼き芋ですよ~」

香奈N「木枯らしが吹く頃、購買にやってくる焼き芋屋さん。1年の頃に初めて焼き芋を買った時から気になってる…2年の時に名前を聞いて、3年の時には、普段はグット・チューニングという劇団をやっており焼き芋屋はアルバイトだと聞いた…最後の年の今年は…なんとかこの想いを伝えたいけど…でも」

香奈「山崎さん、焼き芋ください」
山崎「おお香奈ちゃん、今年もよろしくね」
香奈「はい!」
山崎「それにしても、香奈ちゃん、ほんと焼き芋好きだな」
香奈「え…ああ、うん」
山崎「今年もこの時期が来たか。これからどんどん寒くなるんだろうな~」
香奈「そう…ですよね」
山崎「あ、そういえば知ってる?木枯らしってあるじゃん」
香奈「はい」
山崎「元々はこの時期になると子供のカラスが巣立ちをしていく頃らしくて、その時に吹いてくる風で子カラス、子ガラス、木枯らしってなったらしいよ」
香奈「へ~知らなかった。本当ですか?」
山崎「ううん、嘘」
香奈「え!嘘?何なんですか!?もう!」
山崎「ははは、また今年も引っかかった」

香奈N「山崎さんはいつも嘘をつく。毎年毎年、色々な嘘をついて私をからかってくる…前には焼き芋をたくさん食べ、おならが出過ぎてちょっと宙に浮いたと言ったり、宇宙人に攫われそうになり、焼き芋渡したら許してくれたとか…あの手この手で嘘をついてくる」

山崎「毎年、本当によく引っかかるよな」
香奈「もう…嘘ばっかり…酷いですよ(涙声になる)」
山崎「あれ?ちょっと泣く事ないじゃん。冗談だからさ。ごめんって」
香奈「嘘ですよ」
山崎「ちょっと~!なんだよ!」
香奈「お返しですよ」
   笑う山崎、香奈。

香奈N「よし!すごくいい感じだ!この勢いで山崎さんに彼女がいるか聞いてみよう…頑張れ私!!」

香奈「や、山崎さんって…あの…あれ」
山崎「なに?」
香奈「あの~、いるんですか…」
山崎「いる?何が?」
香奈「あの…か…か…」
山崎「か?」
香奈「か…か、髪の毛」
山崎「は?髪の毛?」
香奈「そ、そう!髪の毛。山崎さん、髪の毛いるのかなって思って」
山崎「いるよ。ていうか髪の毛いらないってなに?スキンヘッド?」

香奈N「ダメだ!緊張して全然言えない!変な事聞いちゃった」

裕子「香奈~」
香奈「あ、裕子」
裕子「あんたまた焼き芋?本当に好きね」
香奈「う、うん」
裕子「今年も焼き芋売るんですか?」
山崎「はい。大体2月くらいまでなので、よろしくお願いします」
裕子「あれ?でも確か今年からはなくなったって聞いてたんですけどね」
山崎「あ…それはあれです、あの、やっぱりやりましょうってなりまして」
裕子「そうなんですか。なんだ、てっきり私達に会いたいから来たのかと思った」
山崎「それももちろんありますよ」
裕子「嘘ばっかり。どうせ彼女とかいるんでしょ?」

香奈N「す、すごい!来てからものの数十秒で彼女がいるか聞いてる!私は3年もかかってるのに…」

山崎「彼女なんていませんよ~」

香奈N「え!?いないの!?」

山崎「彼女はいませんが、妻と子供が2人いるだけですよ」
香奈「え…妻と…子供…」
裕子「え~!結婚してるの!な~んだ」
香奈「…け、結婚」
裕子「あ、私、次の授業始まっちゃう。香奈、またね~」
   裕子、走って行く。
山崎「あら、行っちゃった。なんだよ、本当に?って聞かれて、嘘ですって言いたかったのに」
   香奈、泣いている。
山崎「え!?な、なんで?なんで香奈ちゃん泣いてるの!?」
香奈「な、泣いてなんていませんよ」
山崎「いやいや、泣いてるじゃん」
香奈「わ、私は別に…山崎さんが結婚してるって聞いて泣いてるんじゃないですから」
山崎「…香奈ちゃん」
   香奈、鼻をすすり泣いている。
山崎「…本当に?」
香奈「…え?」
山崎「いま言ったこと、本当?」
香奈「…う、嘘です」
山崎「嘘か…」
香奈「わ、私は、山崎さんが毎年来るのを楽しみにしてないし、顔も見たくないし、声も聞きたくない!」
山崎「…お、俺だって、ここで販売出来ないって聞いて、なんとか頼み込んでお願いしたのは、香奈ちゃんに会いたいとかじゃないし…連絡先交換して、一緒にデートしたり付き合ってもらいたいなんて、ちょっとも思ってないから」
香奈「私だってもう一生会いたくない!」
山崎「俺なんて香奈ちゃんの事を考えても全然ドキドキしないし楽しくない!」
香奈「山崎さんのこと」
山崎「香奈ちゃんのこと」
香奈・山崎「大嫌い!!」
   香奈、山崎、笑いあう。

香奈N「私はこの時期が好きだ。冷え性だし、どんどん寒くなって朝は起きるのが辛くなるし、肌も乾燥するし…でもこの時期の木枯らしが私の心をポカポカ温めてくれる。木枯らしが私に、素敵な出会いを運んできてくれたから」

(終わり)

摩訶般若波羅密多心経観自在菩薩行深般若波羅密多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不異色色即是空空即是色……ハァーッ!!
たった今、ご供養が終わりました。
この作品、どうにも書いた人の品性と言うか、こうしておけばいいんでしょ感が透けて見えますね。そこら辺を審査する人に見抜かれたのでしょう。
タイトルも「ちょっと映画知ってますよ」の付け方とふざけ方が癇に障ったのでしょう。タイトルとかであんまりふざけちゃダメ。
ともあれ、この作品は私の手で完全に供養されたわけですので、これからは権利フリーの作品です。これをどう使おうが、どこでやろうが一切、誰も関与しません。また、使っていただけれましたら、この作品もより供養・成仏致しますので、何卒よろしくお願いいたします。

この世にシナリオがある限り、脚本家がいる限り、この死那離怨寺がございます。
供養依頼をいつでもお待ちしております。本日はここまで」

赤松新(吉本興業所属)
ルミネtheよしもと出演中
第29回ヤングシナリオ大賞・佳作受賞
世にも奇妙な物語
「幽霊社員」脚本 「あしたのあたし」原案 「鍋蓋」脚本
「映画・生理ちゃん」脚本
「ランチ合コン探偵」第5話、第7話脚本
「初めて恋をした日に読む話」泉譲役で出演。

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