見出し画像

春夏秋冬

 春は不安。もやもやと、不安。清新な不安。心が浮つく分だけ、地から足が浮いた分だけ。確かな拠り所を失って、また求めて、見つけたり、見逃したりして。新たな場所で、新たなアイデンティティを模索するとき、人は不安。そんな不安を唯一温かくくるんでくれるものは、春の特権、花開く愛情。春に脅かされ、春に慰められる。不思議な季節。

 夏は気だるさ。慣れと惰性。来る日も来る日も同じ温度と同じ質感。永遠に続くような単調な空気。けれどこのしぶとい空気に勝てたら本物だろうと。闇雲に、些末な枝葉を振り払って進む勇気が持てた時、夏は泥臭く、しつこく、ただ信頼に足るものに変わる。

 秋は高揚。紅葉、光陽、コウヨウ。一人の心地好さ。澄んだ空と空気に触れて風渡る高き心。近くに誰もいなくても、何の不安もない自分でいられるような気がする。大人びた感情。

 冬は温もり。布団の温もり。肌の温もり。吐息の温もり。
 それでも、夜は寂しさを連れてくるようだ。外套の若者たち。しかし、心のなかには確かにきらきら明かりが温かくて。それだけに今、閑散としたキャンパスでふと しらないひと と視線を交わすまつげの切なさを。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?